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死神の世界  作者: surpertank
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新敵

 やっとの思いで熊型を撃破、これで晴れて試練に合格し、未練なく強化週間を終えることが出来る、はずだったのだが、周りで見守っていたシーラ達は名前を呼んでも返事はない。今この瞬間、自分が信じていた絶対の安全が消え去り、己が身が危険に晒されたことをさとる。


「グルルルルゥ」


 背後から、くぐもった唸り声。犬型のそれに似ているが、どこか違うように聞こえる。振り返り、唸り声の主を探す。ついさっき、ライの手によって吹き飛ばされた熊型死獣の亡骸、それを守るかのように前に立ち塞がっているのは、犬のようなシルエットの生き物。黒の毛皮をその身に纏い、背後の熊型と擬態していることから、死獣であることが窺える。


 だけど、目元などに少し違和感があり、記憶にある犬型と比べて顔立ちが鋭い印象を与えている。何より、オーラが違う。今やライは、犬型の死獣はかなり余裕を持って倒せるまでに至っている。もし目の前の死獣が犬型なら、こんな威圧感に飲まれることなんてないはずだ。じゃああの死獣はなんなのだと問われれば、犬型と答えるしかないのだが。


「何型……?」


 返ってくる言葉は当然なく、死獣は地を蹴り音もなく走り寄ってくる。躍動感溢れる、しかし全くの無音で猛進してくる死獣に、聴覚が狂ったような感覚に見舞われる。それも束の間、目前に迫った死獣によって、動いていなかった脳が現実に引き戻される。


「速っ、それに……でかい?」


 振るわれた右前脚を左籠手でなんとか防御。死獣が爆音に乗じて身を翻し、後退したので追撃は望めない。そして、攻撃を交わしたことにより、新たな違和感が生まれる。強靭な前脚から繰り出される爪撃、構えから突撃、離脱に至るまでの動きは犬型と全く同じ。しかし、そのどれもが速く重くなっている。そして、目の前の死獣は犬型より大きかった気がした。威圧感により、相手が大きく見えているのかもしれないが、それを差し引いてもまだ少しでかく感じる。


「こんなこと考えても意味ない。今は目の前のことに集中!」


 犬型、猪型、熊型は死獣の中でもワースト3の死獣達だ。そのいずれでもないということは、少なくとも熊型より強い。ライにとって明らかに格上の相手だ。襲いかかってきた時点でシーラ、レオナの助けが来なかったということは、僕は完全に孤立してしまったのだろう。助けは望み薄、自分でこの状況を打破するしかない。


 しかし、死獣も悠長にこちらが打開策を考える間を与えてくれるわけではない。再び、音もなく疾走する。向かう先は僕の方ではなく、右方向、森の中にそのまま突っ切っていく。一瞬、逃げたのかと考えてしまうのは、些か楽観的すぎだったと自分で反省。背後から、微かに木の葉を踏む音がして、慌てて振り返った時には鋭い爪が眼前に。左手が反応できたのは、ここ数日左手でしか防御をしてこなかったことで身についた条件反射のお蔭か。


「あぶっ!」


 追撃を加えようとするも、また逃げられ、そのまま森の中に消える死獣。森の中に入っていく時、樹を蹴って移動しているを視認。音の出ない疾走と、木々により生み出される濃い闇で、不意打ちを狙う戦い方なのだろう。今ライがいる周辺は、熊型が荒らしてくれていたので、視界が開けて奇襲に不向きな地形となっているのが唯一の救いだ。漆黒の体毛は闇に紛れ込み、高速で移動している。見つけるのはほぼ不可能。かと言って音も全くしないので、索敵方法がない。絶え間なく首を動かし、可能な限り死角を無くすよう努める。それの賜で、視界の端に黒い塊が動くのを確認、必死に向き直り防御。攻勢に転じる暇もなく、闇に戻る死獣。


「ジリ貧だなぁ……」


 その後の攻撃も、微かな物音を、視界の端に揺れる物影を必死に捉えて、食らいつくように防御する。しかし、徹底したヒットアンドアウェイにより、攻撃する隙がない。爪撃の後隙を突こうにも、次の瞬間にはもう森の中に逃げている。熊型といいこの死獣といい、攻撃を当てること自体が難しくなっている。このまま消耗戦を続けていては、敗北は明白。時間が経てば、シーラが来てくれるかもしれないが、それに頼っていては来なかった時にどうしようもない。


「今は、耐えるしかないよね」


 長時間に渡る集中力の維持で悲鳴を上げる脳をなんとか稼働させて、周囲を観察。神出鬼没な死獣は、いつどこからくるか全くわからない。


 左の視界の端に、地面すれすれに移動する黒い物影を確認。振り向いて、左腕を構える。


「いない!?」


 目の前に現れるはずである黒の毛並みはどこにも見当たらない。見間違えた可能性を考えるも、それはないと自分で否定。その時、足元に影が移動してくる。


「っ!? 影!」


 その影と死獣を見間違えたことを、遅まきながら気付く。そして、その影がもう足元まで迫ってきているということは……


 背後を振り向き、死を覚悟する。目の前には死獣、そしてもっと目の前には死獣の爪。これは、どうあっても、今の僕では届かない。


「グルァ」


 死獣が勝ち誇ったような声を上げた。

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