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死神の世界  作者: surpertank
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成長

 実戦訓練三日目も恙無く終わり、いつまで犬型の死獣を倒し続けるのだろうと不安を抱き始めていたころ。その異変は唐突に起こった。


「シ、シーラ! 身体がなんか変だよ! なんというかこう、締め付けられてる感じがする」

「お、やっとか。魔力が体に馴染み始めてきた証拠だよ。多分少ししたら慣れるんじゃないかな」


 シーラの言葉に嘘はなかったようで、朝食を食べ終える頃には身体の違和感もなくなった。シーラも大丈夫だと言っていたので、その日も草原に行き、死獣を狩ることにした。


「あれ? なんか簡単になってる」

「体感してくれたかな? 魔力の素晴らしさを。魔力に慣れてきたってことは、魔力を取り込んで身体能力を強化する下地が整ったってことだからね、ちょっとずつ強くなってるんじゃない? たぶんこれからはもっと成長するようになるよ」


 どうやら、くだんの身体能力強化の効果が少しずつ出始めているようだ。日常生活を行う上では何も感じなかったが、言われてみれば戦闘中、死獣の動きが遅く感じる場面が多々あった。


「ある程度慣らしたら、今日はちょっと死神山の麓の方に行ってみよっか。新しい死獣があると思うから」

「分かった、じゃあ、あと一、二戦したら行こうか」




 草原をさらに西に進み、木々がしげる森に到着する。こんなに近くでこの山を見るのは初めてだ。自然の力でのみなしえる巨大さに圧倒される。見上げてたら首が痛くなってきた。


「それにしても、本当にでかいね。視界が圧迫されてる」

「慣れないうちはそうかもね〜、山頂とか全く見えないもんね」


 その時、森の奥の方から激しく土を蹴る音が近づいてくる。なんか、音重くない? 今までの犬型死獣と比べて、もっとこう、重量感があるような。


「お、早速お出ましだ。今日からはあいつ猪型の死獣を倒してもらうよ」

「あれ、おかしい。遠近法のせいかなぁ。めっちゃ大きく見える。遠近法のせいだよね」


 木の枝を身体で弾き飛ばしながら走ってきてる。一番低い木の枝でも、僕が背伸びして届くくらいの高さなのに。って、シーラがいつの間にか消えてる!? やるしかないのかっ!


「ブモオォォ!」

「ちょっと流石にでかいかも……」


 犬型と同じ、暗黒の体毛を風に靡かせながら突っ込んでくる。多少の低木は踏み倒しながらやってくる様はまさに猪突猛進。いやちょっと待て、多少では済まされないほど破壊してきてない!? そして何と言っても目立つのが、こちらも犬型と色彩の同じ純白の牙。口から大きくはみ出す形をしており、巨軀の最前線で風を切っている。


「来るっ! けど、ちょっ、待っ、牙ずるい!」


 身体の前面に大きく突き出す二本の牙は、左右から僕に向かって突き進んでくる。左右同時攻撃は防御のカバー範囲外、左手が一本しかない僕にとって、防げる攻撃は同時に一個だけだ。なんとか左に身を引いて、受ける牙を一つに限定。左手で防御を行いダメージ、衝撃を共に無効化。


「っと」


 衝撃を無効化しても、自分を優に上回る巨大が眼前に迫ってくる様は、威圧感に満ち溢れている。物理的な力は働いていないのだろうが、尻もちをついてしまう。衝撃が来ないと分かっていても、怖いものは怖いのだ。当たらないと分かっていても、プロボクサーの寸止めパンチが飛んできたら反射で目を瞑ってしまうだろう。それと同じ、しょうがないのだ。意識云々の問題ではない。


「って弱音吐いてばっかいられないんだけどね」


 死獣は数歩後ろに下がってまた突進してこようとしている。その姿には、突進の反動を食らった様子は見られない。そう、実はこの籠手、衝撃を無効化するのはこちら側だけでなく、反動も無効にしてしまうのだ。なんにせよ、死獣は再び加速を開始し、スピードに乗ってこっちに向かってくる。僕は、ちょうど後ろに木が来るように立ち位置を調整する。

そう、木に衝突させる作戦だ。


「ブモオォォ!」

「はっ!」


 先程と同じ鳴き声を響かせながら突進してくる死獣。タイミングを見計らって、左に避ける。先程は受け止めようと思っていたから、避けるのが遅れて、完全に回避するのは無理だったが、今回は最初から避けようと思っての回避である、直線的な突撃ということもあって難なく回避に成功する。


バギバギバギイィ!!


「嘘ぉ……」


 死獣の勢いは木に衝突しても止まらなかった。否、衝突すらせず、牙でへし折っていった。少しスピードが落ちたかな、くらいである。一番大きめの木を選んだつもりだったんだけど。勢い余って走り去っていった死獣が戻ってくる。当たり前のようなトップスピードだ。


「仕方ない。第二作戦、足元を狙う!」


ドゴオォォン!


 地面目がけて右拳を放つ。最初に突撃を受けてから十秒以上経っているとはいえ、一倍でも木をへし折るほどの威力だ。地面に深い穴が穿たれる。死獣の突進を受けないため、後ろに進む。突然できた穴に対応しきれなかった死獣が、足を躓かせて転倒する。すかさず、倒れ込む巨軀の下に身体を滑り込ませる僕。さっき地面に放った一撃で、籠手に溜めていた衝撃は使ってしまった。死獣を倒すための新しい衝撃を溜める必要があるのだ。この巨体の重量が倒れ込んだら、それだけで大きな力が生まれる。それを十倍にした力はもはや想像すらできない。左手籠手が死獣に触れると同時に、右手を振り抜く。


ドゴッ…………………………ズウゥゥゥン!


「浮いた……」


 巨体が宙を舞う。感覚がバグを起こしそうな光景の中、地響きを立てて巨体が落下。軽くクレーターができる。どれだけ重量があるか、とてもよくわかる景色だ。


「やったね、ライ! 今日は猪鍋だね!」


 これも食用ですか。まあ、犬型よりかはいいけど。

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