ゲーム
「あんまり、強くなったって実感ないね」
「最初はそんなもんだよ。死獣の魔力って、言ってしまえば僕らの身体にとっては異物だからね。今は慣らしていってる段階」
一体目の死獣を倒した後も、十数匹死獣を倒して今日の戦闘はお開きとなった。草原からの帰路で僕は右手をグーパーしながら、シーラに尋ねる。結局最後まで、籠手の力に頼ってしか死獣を倒せなかったし、今こうして歩いている分にも、身体能力の上昇は感じられない。シーラが大丈夫と言っているから、間違いは無いのだろうけど、一週間という短い期間なだけあって不安はある。
「まあ、今そんなこと考えたって何にもならないよ。オーバーワークは良くないしね。そんなことより、お昼ご飯美味しかったでしょ! 晩御飯も私が作ってあげよっか?」
そう、なんと本日の昼食にはシーラがお弁当を作ってきてくれていたのである。朝方、姿が見えないと思っていたら、こんなものを作っていたのか。ちなみに、普通に美味しかった。高級料理店のように特別に美味しいわけでもなく、かと言ってお袋の味のように何か特徴のある味なわけでもなく。ただただ普通に美味しかった。
「そうだね、じゃあお願いしよっかな」
まあ、美味しくないわけではないので素直に好意に甘えることにする。食堂のおばちゃん達の料理も美味しいけどね。
「ライー! 出来たよー!」
「今行くよ」
今僕達がいるのは自分達の部屋。なんと、この部屋にはキッチンまで付いていたのだ。なんか、お風呂場やキッチンの奥の方にまだ扉が見える。まだ開けたことのない扉が大半だけど、何かあるのだろうか。洗面所とかトイレとかは使うんだけどね。
「晩御飯は死獣(犬型)の骨つき肉! 今日ライが倒したやつを調理したよ」
「えっ! 死獣って食用なの!?」
香ばしい肉の香りがするなとは思っていたが、まさか死獣を調理していたとは。しかも犬型の。まだ、鹿型だとか猪型だとか、本当の獣の方が食用のものならわかるのだが、犬型。変な病気に罹らないか心配になる。
「失礼な! 死獣はとっても偉大な食材だよ! 死獣が魔力の塊って話はしたよね。つまり、死獣のお肉を食べれば、そのお肉に残留している魔力を身体に取り込めるわけ。まあ、普通は死んでから時間が経ちすぎて、魔力が霧散しちゃうんだけどね。とにかく! これも修行の一環だよ!」
「な、なるほど」
ここまでくると、誰が死の獣なんて禍々しい名前を付けたんだと問いただしたくなるが、死獣という名前の理由はレオナから教えてもらっている。なんでも、死獣を作っている黒幕が死神と呼ばれているそうで、死神が作った獣ということで、死獣と名付けられたらしい。ちなみに、草原の奥には聳え立つ大山があるのだが、その山は死神山と言って、その名の通り死神が住んでいるらしい。死獣もその山から降りてきているようだ。閑話休題、そろそろお腹が減ってきた、今は目の前にある肉に集中するとしよう。
「いただきます」
「うん、召し上がれ!」
うん、いや、別に美味しくないわけではなかった。ただ、シーラがあんなに褒めちぎっているから、もっと吃驚するほどの美味しさを想像していたせいか、ちょっと残念感が否めない。いや、本当に美味しいんだけどね!
「そういえばライはこのお城に来てからちょっと経ったけど、何か不便なこととかある? 環境が変わったから、何か変なこととかあってもおかしくないと思うけど……」
「ん〜、特にないですけど、あえて言うのならレオナさんのことですかね、相変わらずの下着泥棒呼びですし……」
この城に来てから、変な目で見られることが多いのだが、元凶はレオナなのではないかと僕は踏んでいる。あんな堂々と下着泥棒呼びされたら、どれだけ嘘のことであろうと噂が広がってしまうのは自明の理だ。仕事の時はライさん呼びだからいいと言うわけにはいかないのである。
「そっか〜、あれはやめ時を見失ってる感じもするけどな〜。最初は本気だったけど……」
最初は本気だったんだ…… しかしどうしたものか、何かきっかけを作らなければいけないのだろうが……
「あ、そうだ! 明日ちょうど仕事があって、レオナが一緒について行くからその時に仲直りしたら?」
「仲直りって、簡単に言いますけど……」
「レオナはとりあえず熱々のおでんでも与えとけばいいよ」
餌付けとはあまり感心しない方法ではあるが、それだけで落ちるってちょろすぎるレオナ。しかも、熱々のおでんって氷雪系能力なのに、好みは人それぞれである。
「それじゃあ、暗い話もそこまでにして、デザート争奪戦のゲームを行う! 勝った方が高級お菓子屋さんのケーキ独り占めね!」
「分かった、受けて立つよ。なんのゲーム?」
「これ!」
シーラが取り出したのは双六。運要素がかなり絡んでくるゲームである。まあ、シーラが慣れているゲームとかよりかは、戦いやすいので不満はない。さあ、昼の戦闘に次いで、夜の第二戦目始まりだ!
「開幕6! ライもなかなかやるね…… だけど負けないよ! って1!?」
「フッ、先に行かせてもらうよ。よし、また6だ! 何っ!? 6マス戻る! 進んでない……」
「残念だったねライ! 1回休みだ。この間にもっと差をつけるよ! 5! いい感じ……じゃないね、2回休み……」
「シーラお願い、3を出そう。ここで終わるわけにはいかないんだ」
「命乞いかい、ライ。だけど僕がこのサイコロを振る前から僕が勝つと決まっているんだ。それを今から見せてあげるよっ! …………3…………スタートに……戻…………る」
「ここで僕が6を出してジ・エンドだ! っな! 5!? ってことは、僕もスタートに戻る!?」
白熱した闘いも終わりを迎える時が来る。二人とも悉く運が悪く、それぞれ3回ずつスタートに戻るを繰り返していた。そして4週目のゴール前まで駒を進めた二人。
「ゼェゼェ、……これで最後だっ! っよし! 2上がりだ! これで高級ケーキは私のものーーー」
「待つんだシーラ! 僕は後攻だった、ここで僕が上がれば引き分けだ! ハッ! 4…………また、スタートに戻る……」
「フハハハ、これでケーキは独り占めだ!」
「そん……な……」
「なんてね、ちゃんと二人分用意してあるよ。一緒に食べよっ。一つしかないっていうのは、ゲームに真剣みを持たせるための嘘ということでご愛嬌」
紙袋から、二つのケーキを取り出すシーラ。この双六は、ケーキを賭けた双六ではなく、ただの遊びの双六だったようだ。
「それなら、先に言ってよ〜」
「あはは、ごめんね」