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ドラゴン萌えの私。異世界に転生して聖女になったので、 ハーフドラゴニュートを侍らせて楽しみます。

作者: 金鹿 トメ

私は執事に連れられ、お屋敷の一室にやってくる。

そこには燕尾服で飾り立てられた若い男が椅子に座らされていた。

様子を見るにこういう場には慣れていないのだろう、緊張で身を固くしている。


「約束の品はこちらです。お気に召していただければ良いのですが」


この場に来るまでは騙されているのでは無いかと思っていた。

だが間違いない。

黒髪から覗く、らせんを描く角。肌には所々に黒く光る鱗。そして人間ではありえないヤギのような瞳孔が四角い黄金の目。


一言も発していない彼を一目で気に入った私は言った。


「この子はおいくら万ゴールドになりますか?」


「聖女様はお優しくていらっしゃる」


目の前のドラゴン男子は低い声で自嘲気味に言った。

あ、やめて。自己肯定感低め男子も刺さる。

執事の目が険しくなる。それでもドラゴン男子は落ち着いた声で言った。


「俺みたいな半端物に値段がつくわけがないでしょう。ご存じでしょうに」


ドラゴン男子はさらに言った。


「さて、用件はどこかの戦場での捨て駒ですか? それともドラゴニュートの餌ですか? ハーフドラゴニュートとして生まれ落ちた以上。覚悟は出来ておりますので何なりとお申し付けを」


ドラゴン系男子がシリアスに持っていこうとする空気を、容赦なくギャグに変えてゆく。


「え? 飼いますけど」


「聖女様。本気ですか? ハーフドラゴニュートのこの卑しい姿を見ればお心を変えてくださると思いましたが」


当てが外れた様子の執事が慌てている。だが、いまや聖女様である私は容赦なく言った。


「当然です。萌えは正義。ドラゴン男子に罪はありません」


本気で言われているということに気づいたドラゴン男子はぽかんとしている。

私はドラゴン男子に言った。


「ホント。君可愛いね、いくつなの? どこ住み? 名前は? スカ〇プとかライ〇とかやってる?」


この世界にス〇イプもラ〇ンも無いが様式美だ。

そして当然のように相手のドラゴン男子は引いている。

無理もないか。ゆっくり仲良くしていこう。


「私は、龍葉りゅうは 萌瑠もえる 今の歳は内緒だけど向こうの世界ではアラフォーだったわ。君は?」


名前を読み上げるだけで痛々しさMAXの自己紹介にドラゴン男子はおずおずと言った。


「俺はアーカード。歳はよくわからんが2~30年は生きてるはずだ。家は特に無いし、〇カイプも〇インもやってない。あと可愛くもないぞ」


可愛い。聞いたこと全部素直に答えてて可愛い。

守りたいこの生き物。

私は最近流行りの映画の主人公の女の子とは逆に、しっかりと、今後の人生を捧げる決意をして言った。


「この子。うちの子にします」


連れてきた手前。執事は困惑している様子だ。

そんな執事をほっといて私はドラゴン男子きゅんに話しかける。


「私の部屋に君用のベッド一個入れよっか」


「それだけはなりません! 鍵のかかる部屋を急いで用意いたします」


執事は今後の手配するためにいそいそと出ていった。

そして部屋にはドラゴン男子と私だけが残された。


「やれやれ不用心だな。封魔の首輪もしてあるが、万一ってこともあるだろうに。忘れちまうぐらい慌ててやんの」


アーカードはそういって首元を広げて手で仰ぐ、すると確かに首輪がはまっていた。

いわゆるV系ファッションの人間なんかがつけるおしゃれなものに私は思わず見とれる。

それに気が付いた彼は言った。


「おいおい。あんま近づかねぇ方がいいぜ」


「あ、ごめん。見られるの嫌いだった?」


アーカードは驚いている様子だ。しばらく絶句した後になんとかといった様子で言葉をつむぐ。


「やれやれ。まさか魅了事故のことまでホントに知らねぇとはな。ハーフドラゴニュートがどうやって生まれるのか聞いてねぇのかよ?」


「なーんにも知らない。私呼ばれた後はここから出てないし、ずっと治癒魔法使ってるだけだから。

 あ、治療する人の中で結構な人がすごいやけどしてくることは分かるけど関係ある?」


「あるともねぇとも言い難いが。要点だけ話すぜ」


いつの間にか近づいていた私から身を離すと彼は言った。


「ドラゴニュートに魅了された人間の女が産むのが俺みたいな半端物。ハーフドラゴニュートだ。そしてそれは不幸な事故のようなもんだ。なぜなら、ハーフドラゴニュートを産んだ女はすべて死ぬからな」


いきなりぶっこんできましたなぁ。

とは言えないので、生前オタクだった私はなんとか一般人に擬態してセリフを返す。


「そんな重い設定なの?」


前言撤回。擬態しきれなかった。もうおしまいだ。

だが、シリアス担当の彼はギャグを見事にスルーしてシリアス路線に戻す。


「せってい? 理由としては角や鱗が出産の時に母体を傷つけちまうかららしい。とにかく俺には関わるな」


そう言って出ていこうとする彼だが、行き場が無い様子で元の椅子に戻ってくる。


「家なんてねぇし、勝手に外をうろついてたら殺処分されちまうし、どうしたら」


「あらあら。おとなしくうちの子になっていいのよ。そういえば私まだ騎士居なかったし、君なっちゃえば?」


ドラゴン男子の顔が、ぱあああと音が聞こえそうなほど表情は明るくなった。

が、すぐに暗くなった。


「ハーフドラゴニュートの騎士なんか使い物になるわきゃねぇだろ」


「やってみなきゃ分かんないって~」


この世界のことは全然知らないけど。その言葉は飲み込んで言う。

そして自分の萌えを満たすために、無責任に言葉を続けた。


「普段は鎧着こんでればバレないんじゃない?」


「本気で言ってんのかよ」


***


その後、必死で止める執事の言葉には聞く耳を持たず、私は聖女だから。とわがままを押し通し。

ドラゴン男子アーカードは晴れて私の騎士になったのであった。

さて、護衛の騎士が居るということは出来るようになることがある。


お忍びでの城下町探索である。

待ってました! 小学校の頃の遠足のようにお出かけの前日は眠れなくなりながら、当日、私は寝不足で城下町に向かった。

城門を出ての第一声は忘れもしないだろう。


「ドラゴンいるじゃん!」


目の前には荷馬車を引く龍が居た。いや龍なんだから荷馬車じゃなくて荷龍車か?

とにかくそれを目にして騒ぐ私に、全身に黒い鎧を着こんで隣に控えていたドラゴン男子アーカードが言う。


「あれはドラゴニュートだぜ。荷車引いてるなら力の強いサラマンドラ種か、アダマン種じゃねぇのか?」


当たり前のように言う彼に、私は食い違いが発生していることに気が付く。


「あのさ。もしかしてこの世界。『ドラゴン』と『ドラゴニュート』と『ハーフドラゴニュート』が居るの?」


「そうだが?」


私は崩れ落ちるように頭を抱えた。

ドラゴンと言えばアレ。アレと言えばドラゴンである。

ファンタジーの世界ならそう言えば通じる。

そう信じ込んで来たので、ドラゴンと言えば私の萌えポイントが押さえられた生物がお出しされると思い込んでいたのだ。

私はなんとかして立ち上がると言う。


「軽くでいいから説明してくれない?」


アーカードはうなづいて言った。


「まずドラゴンってのは魔物だから絶対に懐かない。人語を解するぐらい賢い奴もいるそうだが、そういう奴は数百年生きてて誇り高いから、まず人間と協力なんてしないだろう。飼われるなんてもってのほかだ」


「うんうん。まさにドラゴン! いつか見下されてぇ~」


心の声が漏れ出ていることには突っ込まれず。アーカードは説明を続ける。


「次に人間が飼ってるのがドラゴニュート。別名は龍畜だ。大昔に居た竜を飼いならしたって話だが、すっかり牙を抜かれて野生には戻れねぇような種類もいるぜ。図体がデカいのもさることながら、餌がちょっと特殊でな。テイマー職の上位スキルが無きゃまず扱えねぇらしい。アンタが飼いたかったのはこいつらだな?」


「そうそうそう。あとで飼育小屋建ててお迎えしてあげなきゃ~」


「やめとけって。と言ってもテイマーの適性があったら可能なのか? まあアンタの素質次第だな」


絶対に素質開花させてやる。

それこそチートスキルを使ってでも、いや。神をぶん殴ってでも恐喝してでも!

ドラゴニュートハーレムをここに建国してやんよ!

私が誓いを立てている横で、アーカードは暗い顔で言った。


「そしてアンタみたいにドラゴニュートに見入られた女が産むのが俺たちハーフドラゴニュート。半端で使い物にならねぇゴミ種族だ」


「そういう自己肯定感低いとこも好きだけど~、理由とかってあるの?」


むしろドラゴンとの合いの子とか強そうだけどな~。

落ち込む彼に私は努めて優しく言う。

いや優しくというか興味100パーセントで聞いた。

だってドラゴン男子の生態とか興味わかない訳ないでしょう!

可愛いは正義。つまりドラゴン男子を知るのは正義。

だからこれは世界を救う正義の行いだ。間違いない。

彼は迷っていたようだが言った。


「アンタ魔法は使えるか?」


「うん、治癒魔法だけだけど」


この世界では珍しいぐらい強力なんだって。そう続けた私に彼は言った。


「治癒はどうなんだろうなぁ。まあいい。ちょっと俺に撃ってみろよ」


「攻撃しろってこと!?」


そんなこと出来ないと言い出した私に面倒くさくなったのか彼は結論を言う。


「俺らハーフドラゴニュートはな。魔法を弾く鱗を持ってる。こいつのせいで人間と違ってスキル魔法が使えねぇんだよ」


「そうなの?」


「ドラゴニュートならそもそもスキル魔法なんて持ってねぇから耐久力の向上に役立つんだが。

 人間との合いの子。ハーフドラゴニュートになると体の魔法回路も乱しちまうみてぇでな」


「でも耐久力が強いなら人間よりは強いんじゃないの?」


「そこをスキルで補えるのが人間なんだよ。考えてもみろ。防御が薄いなら防御強化の魔法なりスキルをかけちまえばいいが、俺らの鱗はそれをはじき返しちまうんだぞ」


「あーそっか。簡単に言うと伸びしろが無いってことね」


そう言い切った私にアーカードは落ち込んだ様子で言う。


「言い切られるとつれぇな」


「ごめんごめん。見た目は最高だと思うよん。ドラゴン男子って感じで」


まったくフォローになってないフォローをドラゴン男子のアーカードに入れた後。

ようやく私たちは城下町の見物に繰り出したのだった。


***


「なんか凄く中世~って感じする」


街を見て回って出てきた私から出てきたのは頭の悪い小学生なみの感想だった。

いや小学生で中世なんて知ってたら賢い方かもしれない。

というどうでもいい事を考えているとアーカードが言う。


「一回りしたが、この後はどうする。俺はお前に従うだけだが」


黒い鎧の間から黄金の目がこちらを見ている。

ああかっこいい。ドラゴン男子に守られてるとかこの状況に胸きゅんだ。

このドラゴン男子がこの世界では外れ種族に当たっているらしいことは考えないものとする。

まあいいじゃん。

最悪は聖女の私が守ってあげたらいいんだろうし。

そう考えていると、都合よくというか悪くというか。


「そこの嬢ちゃん。いいもん着てるなぁ。金あんなら置いてけよ」


お約束のようなモブが襲い掛かってきた。

アーカードが前に出て剣を抜く。


「てめぇら運がねぇな。もう少しレベル高けりゃ成功したかもだぜ!」


常人よりは頑丈という発言は本当だったようで、攻撃を受け止めた後に、当然のように一刀のもとに叩き伏せる。

かっこいい~と見惚れていると、そのモブ盗賊の後ろに立っていたローブの男が何やら杖を構えたのが見えた。

あ、やばいこれは魔法が来る。

しかも私狙いだ。

そう思った瞬間。火球がこちらに向かって飛んでくる。

無意味だと思いながらも防御すると、アーカードがかばってくれた。


「ったく。俺を近衛にするなら自分の身ぐらいは守れ!」


そう言いながらもいつの間にか鎧を脱ぎ捨て、己の鱗で魔法を霧散させ、見事に受け流している。

ごめん。あのぐらいの火の玉なら当たっても回復すればいいやって思ったのは言えない。


不利になったのを悟った火の玉男は逃げようとする。

だが、私を守るために鎧を脱ぎ捨てたアーカードには敵わなかったようで、難なく取り押さえられた。


「そのムカつく面。見せてもらうぜ!」


そう言ってローブをまくり上げたアーカードは固まった。

こちらから見える分にはなぜ固まったのか分からない。

ただ火の玉ローブの彼は顔に酷い怪我をしているのだけが分かった。


アーカードが呆けている間に火の玉ローブ男は逃げていく。

私がアーカードのそばに寄って状況を聞くと。彼は言った。


「アイツ。顔に鱗の跡があった。全部剥がされてたけど間違いねぇ。アイツもハーフだ」


***


時間はまだあったが、とても見物を続けられる気分では無くなった私たちはお屋敷に戻ってきた。

アーカードは何やら考え込んでいる様子だ。

ああかっこいい。ドラゴン男子が首を傾げてる時の龍の角の傾きというか、なんというか。

ほんと何とも言えない。正確に伝えなきゃって思うけど、萌えって言葉を失うんですごめんなさい。

私は悩まし気に首を傾げているアーカードに言った。


「まあ逃がしちゃったのは仕方ないよ。紅茶でも飲む~?」

「いや俺は」


アーカードは迷いながらも言った。


「ものは試しって言うしな。一口分ぐらいでいいぞ」


不思議な物言いに疑問を覚えながらも、二人分の紅茶とクッキーを侍女に用意させると、私室に持ってこさせる。

彼に勧めると、クッキーには手を付けず、紅茶だけを一口飲むと言った。


「やっぱ駄目だな。お前と同じものは喰えなさそうだ」


「そうなの? どういうのが好み?」


私は完全に善意で聞いた。ドラゴン男子だから違う物を食べるのは当たり前でしょーとばかり。

だがその後の彼の発言でちょっとダメージを負うことになる。


「ナマモノしか喰えねぇ。火の通ってない卵とか肉とか魚とか」


「ごめん。もう一回言ってくれる?」


いまさら渋られていると思ったのか、アーカードは眉間に皺を寄せて言った。


「ナマモノしか食えねぇ。ドラゴニュートよりはマシだろうが。アイツらは魔物の卵か肉か魔物植物しか喰わねぇんだぞ。俺はそこまで行くと魔素が強すぎて腹を下しちまうが」


魔物の肉を生で食べてお腹を下すだけで済むというのも頑丈だからなのだろうか。

リアルの人間だったらスーパーの食肉を生で食べるだけでも運が悪ければ生死の境をさまようのに。

私は心の中でそう突っ込みながら彼にあることを聞いた。


「まそって何?」


「簡単に言うと人体の毒になる成分だな。他の生き物には害になる部分が、魔物には薬というか必須のもんになる。これを取らねぇと鱗や角がボロボロになっちまうな」


「(萌えポイントが減るとか)それは大変。君の分の食事もちゃんと用意してあげるからね」


なんとか本音の部分はごまかせただろうか。

一緒に食べるのは食欲が落ちそうだが、彼の自己肯定感を地に落としたくないので、私の方が耐えることとしよう。


「本当に聖女様はお優しいこって」


アーカードはそう言うと、自分の剣を差し出して、背中を預ける。

これは騎士が忠誠を誓う儀式に倣ったものだ。


「不肖アーカード。ハーフという半端物ではありますが、命尽きるまで貴方のおそばに仕えさせていただく思います」


黒髪が揺れ、角が天に挑みかかるように延び、そして黄金の目が私を射貫く。

ああやっぱり絵になるなぁ。

そんなことを思う。

ハーフドラゴニュートはスキルを使えない半端物だと彼は言うけれど、町で出会った彼は火の玉を使えたのだ。

もしそうなら、このアーカードだって、もしかしたらなんかの拍子にスキルを使えちゃって、最強の騎士になれるかもしれないじゃない。

いや私が最強の騎士にさせてみせる。

そして魔物をバッタバッタなぎ倒し、上質な魔物の肉や卵を大量に用意して、私のためにハーフ。もしくはドラゴニュートしか居ない天国を作ってもらうのだ。


スキルが使えなくたってレベルを上げて物理で殴ればいいじゃない。

アーカードは私に忠誠を誓い。そのまえで神妙な顔を取り繕っている私は心の中で、アーカードを限界までレベル上げすることを誓ったのだった。




続きはありません。

ここまで読んで下さりありがとうございました!

異世界恋愛が熱い!ということで息抜きに書いてみましたが、

これはそもそもカテゴリが違う気がする……


面白ければ評価やブクマお願いします~

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