大事の天秤<前編>
「ー好きだよ」
そう言った彼の手を、私はどうしてとってしまったのだろうか。
好きでもない人と、共に過ごすのは
本当に彼は大丈夫なのだろうかー
「ねえ、やっぱりやめよ?」
私はそう言った。
「どうして?」
彼が聞き返してくる。
「...別れたい」
彼の問いには答えず、きっぱり言い切る。
ちょうど半月ほど前になるだろうか。
彼は私を好きだと言ってくれた。
嬉しかった。
私はまだ、誰かに必要とされているのだと。
そう思えた。
けど、
「私は貴方の気持ちに答えられない。」
だから別れようって。
言った。
誰かにこんなにも必要とされたことがなかった。
ずっと、望んでいた。
誰かに好かれること。
必要とされること。
だけど、
今までずっと、誰にも大事にされなかった私は
人に大事にされることが
こんなにも苦しいとは思わなかった。
これが両思いなら良かったのかな。
私は彼に大事にされても
彼は私に傷つけられてしまう。
私は誰も愛せない。大事にも出来ない。
そう気づいた。
「俺は、ずっと好きだよ」
重たい空気の中、彼の声が聞こえた。
嫌だった。辛かった。
もう何もいらない。
私を必要としないで欲しい。
たった半月。
でも、もう辛い。
「...辛いんだよ」
無意識に私は、声に出していた。
当然、彼の耳にも入ったのだろう。
「どうして?」
心配そうな声が聞こえる。
けど、もうどうでも良かった。
どうでもよくなっちゃった。
彼は黙って側にいてくれた。
黙って抱きしめてくれていた。
そんな中、私はただひたすらに泣いていた。
涙を、流していた。