白馬は走り去る
五日ぶりとなった二人での食事が、そろそろ終盤を迎える。
キャロリーヌと向かい合って座っているジェラートも、ご満悦らしい笑みを浮かべながら、広口のグラスを持ち上げる。
深い赤色の液面が揺れる。酸味を含んだ甘い香りを楽しんでいるようだ。
突如、笑っていたはずの彼が表情を変える。
「それはそうと、お父上のご容態は、どのような具合なのかな」
「今はよく眠ってらっしゃるわ。後で、お雑炊にしてあげますの」
「それはよい。あれだけの素晴らしい味なのだから、身体も魂も暖めてくれる一番の薬になるさ。きっとお元気になられるはず」
「そうですわね」
しばらく沈黙があり、ジェラートが口を開く。
「さあ僕は、もう城へ戻らなければならない」
「一晩くらい、ゆっくりできなくって?」
「そうしたいのは山山なのだが、どうしても明日の朝一番からやるべきことがあるのだ。一等管理官という立場も、これでなかなか楽ではないよ。ははは」
「そう。それなら仕方ありませんわね。次はいつ頃いらして?」
「長ければ十日はこられないだろう」
「まあ、そんなにも」
「そうなのだ」
ジェラートが立ち上がり、外へ向かおうとする。
その後ろを、キャロリーヌが追う。お馬のいる小屋まで見送るために。
白い牝馬の元へやってきて、ジェラートが彼女に話し掛ける。
「おおファルキリー、少しは休めただろう」
「ブルルッ」
「そうかそうか。ではまた僕を乗せてくれ」
「ヒヒィン」
ジェラートはファルキリーに跨った。
それからキャロリーヌに向かって、短く「では行ってくる」という、お別れの言葉を伝え、お馬の横腹を優しく蹴った。
キャロリーヌの婚約者を乗せた白馬は走り去る。
まだ降り続く雪は、今では牡丹雪に変わっている。
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じっと立ちつくしたまま、ずうっと遠くまで広がっている雪景色を、黙って眺め続けるキャロリーヌ、お馬にも嫉妬なさる公爵ご令嬢である。