二倍の「可愛い」で
キャロリーヌは、澄ました顔をして話す。
「ファルキリーお嬢さまも、さぞかしお疲れのことね。きっと貴男さまが、手ずから飼葉とお水を、たっぷりお与えになったことでしょう」
「ああそうだとも。可愛い・可愛い彼女も、僕同様、いいや僕の二倍は、空腹に苛まれ、喉だって相当に渇いていたのだからね」
「そう」
キャロリーヌはジェラートから目を逸らし、さっと背を向けた。
細い肩を、さらに窄めている。
「そんなに肩を落としてしまわないでくれ。今さら伝えるまでもないことだが、僕は君を、ファルキリーより二倍も、愛しているのだからね」
ファルキリーは、亡き弟トースターが名づけて世話をしていたお馬なので、キャロリーヌも決して憎いとは思っていない。
トースターが生きていれば、ジェラートが乗ることにはならなかったのに。
「ふぅん。貴男さま、なにもかもキッカリ二倍なのね?」
キャロリーヌは、わざと悪戯な笑みを浮かべ、首を傾げてみせる。
「ああそうだとも。だが、それはさておき、僕の可哀想なくらいに冷えた鼻先をくすぐる、このよい匂いの元が、一体どのような料理なのか、いの一番に知りたいのだよ。そのために僕としたことが、あまりに芸のない返答をしてしまったものだ。しかし、もうそろそろ勘弁して、どうか教えてはくれまいか」
「ええ、もちろんお教えしますとも。今夜はね、真雁のお肉を煮込みましたわ。味つけに使ったのは、お父さまのご友人の方に頼んで、先日やっと東部から取り寄せて頂けた特別な合成調味料よ」
「ほほう」
ジェラートの目が輝いた。東部共和国産の調味料に、魂が惹かれたようである。
キャロリーヌは、心の中で「よおし」と勢いづく。
お料理の味つけに関しては決して妥協しない。すべてはジェラートを唸らせる味のためである。
だからこそ、少し値が張るような調味料でも、必要と思えば迷わず取り寄せているのだもの。
キャロリーヌは、もったいぶって話す。
「じっくりと、柔らかくなるまでフツフツと煮込みましたわ。貴男さまが、貴男さまの可愛い・可愛いファルキリーさんと、仲睦まじく駆けていらしたお時間の二倍を掛けてね。あたくしの初挑戦にして渾身の一品。空腹で今にも倒れてしまいそうな一等管理官さま、お食べになりたいかしら?」
「おお・おお、それは間違いなく美味のはず。さあ・さあ、さあ早く、すぐにでも食べさせておくれよ、ローラシア皇国最高の料理人に比肩するであろう、僕の可愛い・可愛い・可愛い・可愛い、キャロリーヌ嬢」
「まあジェラートさまったら、ずいぶんと、お調子のよろしいこと。うふふ」
愛しいお人から、ファルキリーよりも二倍の回数「可愛い」と言って貰えた。
これで、あっさりご機嫌を取り戻すキャロリーヌであった。