ヨシキのお店
019
「どした?リンス。黄昏ちゃって」
「どしたじゃありません。せっかく目を覚ましたのにもう居なくなっちゃうんですよ」
「あー、ずっと会えない訳じゃ無いからさ、あまりそう暗くならないで」
「まぁそうですけど...ちゃんとお兄様の所へ行くので待っていて下さいね」
「あはは...でも来る前には魔導リングで連絡してよ」
「分かりました」
エクはリンスとそう会話を交わしつつ服を詰めてきたツーを机の上に置く。
そしてリンスが待っているベッドへと入る。
窓際にリンス、入口側にエクが寝そべる。
「お兄様」
「え、はい」
「お願いします」
「な、何を?」
「リフレッシュです。湯浴みしてませんので」
「あ、了解。僕も浴びてないし纏めて試しちゃうね」
エクはリフレッシュを唱える、実際唱えなくてもイメージで出来るが折角名付けたので言葉にする。
二人の服も身体も綺麗になり、範囲をイメージした為にベッドも綺麗になる。
「おお、流石ですお兄様」
「ありがと、じゃあ明日は宜しくね」
「はい、その後すぐに町を離れますか?」
「んー、そうだね。先ずはアズベア国を目指して」
「分かりました、おやすみなさい」
「おやすみ」
ここで二人は漸く眠りにつく。
(ん...重い...)
「お兄様、お兄様」
朝方目を覚ましたエクの上にはリンスが跨っていた。
普通の起こし方をしてくれたら良いのだが、昨日は昼まで寝てしまった為起こしてくれた事に感謝する。
「おはようリンス、ありがと」
「は!見ましたか?!」
「へ?いやいや、起こしてくれて有難う...」
「ああそっちですか、いえいえ」
「...」
リンスは既に着替えも終わっている状態で上に跨がっていた為、白い下着が見えていたが、敢えてスルーする。
エクはゆっくりと起き上がり机の上に置いてあるツーの中からレザーアーマーを身につけ、剣と魔導リングを装着しツーを腰に巻く。
リンスはそれを見つめながら支度を待つ。
「よし、行こうか」
「はい」
二人は部屋を出てリビングへと降りる。
ヴィオラの姿が見当たらないので既に店舗側に居るのだろうと店舗側のドアを開ける。
そこには珍しく接客中の姿があった為、邪魔してはいけないとそっと閉める。
そして外側のドアから家を出ようとドアを開けた瞬間、ヴィオラの声が聞こえる。
「エクとリンス!これ食べながら行きなさい」
ヴィオラが差し出したのは薄い生地にアズベアボアの肉とサラダが挟んであるサンドイッチだ。
「ありがとう姉さん、では行ってきます」
「気を付けて行くのよ。いつでも帰っておいでよ!」
「ありがとう、姉さんも何かあったら連絡してね」
「オッケー、まぁわたしは強いけどね!」
「あはは、じゃあ本当に行くね、行ってきます」
「行ってらっしゃい!リンスは早く帰ってきなさいよ少し仕事があるから!」
「っち、そのまま一緒に行こうと思ってましたのに」
「こら...」
「分かってますよ、行ってきます」
リンスは渋々顔でヴィオラと会話を交わす、エクはそれを見て苦笑いをしつつドアを開ける。
先ずは行きそびれていたヨシキの店、そしてアズベア王都だ。
ここマストからアズベア王都までは馬車で半日、歩いて舗装された道を辿れば約1日かかると言われている。
しかしエクにはブーストがあり持続出来る為、半日足らずで着くだろう。
そんな考えもあり、焦りもなくリンスの後について行く。
サンドイッチを食べながらリンスがエクをエスコートするように進み、マストの北側に位置するヨシキの店へ辿り着く。
そこにはこじんまりとしているがどこか愛嬌のある可愛らしい店構えをしていた。
入口前には花壇があり、綺麗な花が多種咲いていた。
自然と笑みが溢れる雰囲気にほっこりしてしまうほどだった。
リンスは見慣れているのか表情を変える事なくノックし、ドアを開ける。
「すみませんまだ準備中で少しお待ち下さーい!」
ヨシキの元気な声が聞こえる。
「ってあれリンスちゃん?って事はエクさんも?」
ここでエクがひょっこりと顔を出す。
「どうも、来るのが遅くなりすみません」
「おおエクさん!お待ちしていましたよ!ささ、どうぞ中へ!」
「失礼します」
エクとリンスは会釈しながら店内に入る。
店内は棚が殆どでそこには色々な色をしたポーションや薬草、そして生活雑貨、生活用品が並べられていた。
さすが行商人だけあって品揃えは豊富だ。
「ヨシキさん品揃えが凄いですね、さすがです」
「いえいえ!うちなんて王都や中央にあるノイン貿易都市に比べると全然ですよ!」
「へえ、そうなのですか。でも行商って感じがして僕は好きです」
「いやぁエクさんにそこまで言われると照れますね!」
「あはは、して僕に何か用があったのですか?」
「あっそうです!命の恩人なのでこの店に置いてある品3点まで!何でも持ってっちゃって下さい!」
「何でも...?!良いんですか?」
「当然です!なんてったって命の恩人ですから!それにこれはアキと相談して決めた事なので絶対なんです!」
「えええ...では有難く...」
断ろうとしていたがヨシキのキラキラした目で真剣に言ってくるのを見たエクは、観念して困り顔で返事した。
店内商品をヨシキに質問しながら物色するかのように色々な商品を確認し、リンスとも相談しながら3点選ぶ。
そしてエクが選んだのは【魔除の鈴】【テント】【ポーションセット】だ。
魔除の鈴はその名の通り魔物を寄せ付けない。
但しS〜E級まで存在する魔物の中でC級以上には効果が無いらしい。
次にテント、これはそのままの三角テントで人5人程ならゆったり寝れそうな大きさだ。
次にポーションセット、これは色別に10個ずつ入っていて赤色がhp回復、青色がmp回復、紫色が毒消しだそうだ。
その3点を選んだのを見たヨシキは少し不思議そうな顔をする。
「エクさん、旅にでも出るんですか?」
「あ、ええ。世界を見て回ろうかと思いまして」
「おおお!ならこれもおまけしますよ!」
そう言うヨシキはシルバーの指輪を差し出してきた。
「今地図持ってます?」
「頂いた地図はツーに入っていますが?」
「おお良かった!それを出して頂けますか?」
「?、分かりました」
エクはツーから地図を取り出しカウンターに広げる。
そしてヨシキが指輪を嵌める。
すると地図に一点の小さな光が浮かび上がる。
「これはログリングと言って今いる位置を地図に示すんです。便利でしょう!」
「おおお!これは助かります!ですが頂いても宜しいのですか?」
「勿論ですよ!王都にも売っていますが結構品切れが多いので是非受け取って下さい下さい!」
「...何から何まで有難う御座います」
エクは深々とヨシキにお礼をする。
それを見たヨシキは満面の笑みでエクの肩を叩く。
それを見たリンスは何かを閃いたように少し目を見開く。
「これは、良いアイデアが浮かびました。ヨシキさん、ナイスですよ」
「お!リンスちゃんまた何か閃いたんだね!」
「ふふ、上手くいけばお兄様の場所を把握出来そうです」
「なるほど!確かにヴィオラさんならログリングの強化版が作れそうだ!」
「...?」
エクは少し不思議そうな顔をする、リンスはログリングの共有バージョンを閃きエクの居場所を地図上に移す物を閃いたのだ。
リンスは不適な笑みを浮かべながらエクにくっつく。
「これで我慢出来そうですお兄様」
「あはは...良かった...のかな」
二人の光景にヨシキは笑っている。
エクは愛想笑いを返しヨシキに挨拶をする。
「それでは、僕たちはこれで失礼します」
「はい!マストに帰ったらまた寄って下さいね!」
「是非、またエミちゃんとエキノちゃんの顔も覗きますね」
「ええ!二人とも喜びますよ!アキにも見せてやって下さい!」
「そうですね、いつになるか分かりませんがまたお邪魔します」
「是非是非!お待ちしています!」
最後に軽く会釈し、二人は店を後にする。
急遽手に入ったアイテムは正直助かる、これで万が一道中に何かあっても少しは安心して眠れそうだ。