マストの猫耳試験官 2
014
しゃがんで紙を戻した試験官は立ち上がり、腰に付いている剣を抜く。
「次は剣技の方ね、その腰にぶら下がっている剣を抜いてかかってらっしゃい」
「はい」
エクは頷き、父の形見である剣を抜いた。
すると部屋で起きたようにまた刃部分が白光りを放つ。
それを見た試験官は驚いた顔をしていた。
「エクくん、その剣もしかして魔法剣なの?」
「?、分かりません。父の形見としか...」
「ほ〜、ねぇその剣に魔力を流してみて」
「、はい。やってみます」
エクは若干戸惑ったが、すぐに理解し片手に持っている剣に魔力を流し込む。
すると白く輝く光が増している。
「ふむふむ、エクくん何かの精霊と契約した?」
この質問に対してエクは悩む、どう返すかを。
そしてエクは俯き悩む、実際に契約した事は無い為エクはそのまま答える。
「いえ、契約の方法も分かりません」
「ふむふむ、まぁ今は試験中だからとにかくかかってらっしゃい」
「...行きます」
エクは剣を片手で構え、試験管に斬りかかる。
右横から左へと振った剣は試験管に剣でガードされる、そのまま剣が弾かれ手を離す。
「うーん、剣はイマイチだね、おそらく魔法剣だから精霊と契約すると効果を発揮出来ると思うけど」
「はぁ...」
「あと剣から手を離しちゃダメね、もっとギュッと握ってあげないと!」
「すみません...」
エクは頭を下げ軽く謝罪し、落ちた剣を拾う。
「まぁでも一応は合格かな、剣技の訓練は欠かさないようにね」
「ありがとうございます」
手も足も出ず終わった事に対してこんなもんで良いのかと疑問を抱きつつも、心中では悔しさが勝っていた。
試験官はそれを察したのかエクの顔を見てニヤニヤしている。
「悔しかったんでしょー、エクくん君は強くなれるよ。だから合格にしたんだよ」
「頑張ります」
「でもその悔しさを忘れないようにね、じゃないと強くなれないから」
「はい、いつか見返せるように努力します」
「うんうん、じゃあギルドに戻ろっか!」
「分かりました」
試験官はエクの肩をポンポンと元気付けるように軽く叩き、逆にエクはそれが更に悔しさを増す行為だったが、深呼吸をして心を落ち着かせた。
試験官は地面に置いてあるリュックを手に持ち背負い、マストの方へと歩き出す。
エクもそれについて行くように剣を鞘に納めながら歩き出す。
にわかに暗くなってきたが舗装された道まで出るとあとはこれを進み、そして二人は検問所で警備のおじさんに住民書を見せギルドの方へ向かう。
ギルドに戻り先程の受付嬢の前に立つ。
試験官は受付カウンターを軽く飛び越え受付嬢の横に立つ。
「ニーナ、あそこに職員用ゲートがあるでしょう?どうしていつも飛び越えるの...」
「だってこの方が早いもん」
「あなたね...」
「あはは...」
エクは二人の会話を聞きながら苦笑いをする。
受付嬢がエクの方へ向き直し、ギルド証を差し出す。
「これがあなたのギルド証です、くれぐれも無くさないようにお願いします。もし無くした場合、再発行に時間は掛かりませんがお金が掛かります」
「分かりました」
「エクくん頑張ってね、ギルド証があればどこの町でも依頼を請けられるからね!」
「ありがとうございます」
試験官から渡されたのは免許証ほどのカードになっていて、素材も分からずそして無字だった。
(これがギルド証か...何も書いてないけど...)
「依頼を受ける際は受付にて依頼書類があります、それを受付ギルド職員と相談しながら受託する形になります」
「分かりました」
「魔物の換金は死骸の程度によって決まります。これは依頼には無くても買取ますのでいつでも持ってきて下さい」
「分かりました」
「ではカードに魔力を流してみて下さい」
「あ、はい」
エクは指示通りギルド証に集中し魔力を流し込む。
すると何も書いてなかったギルド証にマストの町の象徴である木の柄と町並、名前、アルファベットのD、そして剣士と浮かび上がってきた。
「名前の横に書いてあるのがランクになります。今はDですが依頼や魔物討伐数によって上がっていきます」
「はぁ、ランクは全部でいくつあるんですか?」
「ランクはSまでありますが、今は1人だけしか居ません。Aランクが20名程、Bランクが50名程、後の殆どがCかDです」
「なるほど、分かりました」
「では今後ともご武運をお祈りします」
「エクくん無理しないでね、またね!」
「はい、今日はありがとう御座いました」
エクは二人に会釈しギルドを離れ、ギルド証を見つめながら家へと向かう。
そしてマストの町並みを眺めつつ自宅へと到着する。
店舗側は消灯していて真っ暗だ。
「ただいま」
「エクおかえりー!」
「あれ、リンスは?」
「あれ?一緒じゃなかったの?」
「いや、試験前に別れたけど...」
「え...あの子どこ行ったのかな...」
試験前に家の方へトボトボ歩くリンスを最後にリンスは姿を消したのだった。
「...行ってきます!」
「ちょ、エク!」
妙に冷静なヴィオラを他所に、エクは幼いながらにしっかりしているリンスに限って夜遊びはあり得ないと考え、エクはすぐさま家を飛び出した。