マストの猫耳試験官 1
013
さっき通った道なので次はエクがリンスをエスコートするように検問所へ向かう。
フェリは召喚が解けたのかさっきの食事前から姿を見ていない。
そしてエクは迷う事なく検問所へと辿り着く。
そこには先程立っていた警備のおじさんが立っていた。
「おう坊主、ちゃんと持ってきたか?」
「はい、これです」
「...うむ、確かに。後さっきの盗賊捕縛、良くやったな」
「いえ、たまたまです」
「何を謙遜しとる」
警備のおじさんはガハハと笑いながらエクを褒める。
リンスもそれを聞いて少し笑みを浮かべる。
「では僕達はこれで失礼します」
「おう!また捕縛したら言ってくれい!」
「あはは...」
(そんな頻繁に遭遇したくは無いんだけどな...)
そんな事を思いつつエクとリンスは検問所を後にする。
次はギルドだ、エクのイメージでは荒くれ者がワイワイ集まっている賑やかな場所であり、いかつい印象もあってか怖さもあった。
「では次はわたしが先導します」
「うん、リンス宜しくね」
リンスはコクっと頷き、エクの手を握る、エクもリンスの手を握り返し、そのまま歩きだす。
ギルドというだけあり、場所もほぼド真ん中の木の麓付近だ。
麓にはベンチやテーブルが置かれ、カップルや子供たちで賑わっている。
(ここがあのジンクスの場所かぁ)
ふとアキが言っていた言葉を思い出しながらその場所を眺めるように立ち止まる。
そして目を瞑り、いつかこの世界で相手を見つけて告白する事を一つの目標にする。
「行きますよ」
リンスは握っている手をクイっと引っ張りギルドの方へと足を運ばせる。
そしてエクは予想以上に大きいギルドへと辿り着く。
検問所から繋いでいた手をここで漸く離し、リンスは大きな両開きの扉を開ける。
ギルド内は円柱形になっていて、中は予想通り椅子とテーブル、酒に冒険者だった。
そして中央にはギルド職員専用の螺旋階段があり、その周りを円で囲うような形にカウンターテーブルがある、そこが受付になっていた。
依頼を掲示ボードに貼り出す訳ではなく、受付で職員が提示した依頼書を確認しながら依頼を受注する仕組みになっていた。
掲示ボードに貼り出しているのは依頼書ではなく、似顔絵付きの手配書だ。
なので掲示ボード前に集まるのは殆ど行商人になる。
エクとリンスは入口から真っ直ぐ向かった側の受付に向かい、カウンター越しに猫耳の美人な受付嬢の前に立ち会釈をする。
そしてギルド証の発行を依頼する。
「ギルド証を作りたいのですが」
「ギルド登録ですね。では、先ずは試験を受けて頂きます。平均以下のステータスの方が冒険者になって魔物に襲われ死んでいくのを防ぐ為でもありますので、ご了承願います」
ここでエクは実感したのか、死を促されて唾をゴクリと飲み込む。
「...分かりました、お願いします」
「はい、では試験官を呼びますので、ここでお待ち下さい」
「分かりました」
受付嬢と若干の会釈を交わし、そのまま螺旋階段を上っていく。
エクは簡単な試験であってくれよと祈りを込めつつ受付嬢を見届けるように目で後を追う。
「いたいっ!」
「お兄様、いやらしいです」
右側にちょこんと立っていたリンスがエクの右腕を抓る。
「いや、覗いてない覗いてない」
「確かにあの方は美人ですが、だからと言って覗きは良くないです」
「はぁ...」
「どうです?緊張はほぐれましたか?」
リンスはエクが緊張しているのを察したのか、冗談交じりに覗き犯にしていたようだ。
それが分かって少しホッとしたのと同時に、リンスに感謝する。
「リンスありがとう、もう大丈夫だよ」
「勿論です、試験も絶対に受かります」
「が、頑張ります...」
エクはリンスの言葉に苦笑いで返し、試験という言葉を聞いてまた緊張が上がってきたのだった。
そうこう話している内に中央の螺旋階段から先程の受付嬢が降りてくる、その後ろからはリュックを背負っている同じ猫耳のぱっちり吊り目で美形の女性が付いてきている。
(猫耳で吊り目は猫って感じがするな、ただ目のやり場に若干困る)
エクは肌着に短パンの女性を見るやそんな事を考えていた。
そしてさっきの受付嬢がカウンター越しにエクの前に立ち、吊り目の女性がカウンターに片手を付き、前屈みになり一気にジャンプでカウンターを飛び越えエクの前に立つ。
目前に立っている女性はエクとほぼ身長が変わらず堂々とした立ち振る舞いだ。
「あたしが試験官のニーナよ。君、名前は?」
「エクリプサーと申します、今日は宜しくお願いします」
「良い返事ね、では早速試験に移るわ。あれ?リンスじゃない!」
「お久しぶりです、今日はお兄様を宜しくです」
「ほ〜、確かに雰囲気そっくりね、でも試験は甘くないからね」
「勿論です、でも大丈夫ですお兄様ですから」
「あはは...」
リンスの謎の自信がエクにはプレッシャーになりエクは苦笑いをこぼす。
だが逆に不思議と自信が付いてきて緊張が徐々に解けているのも実感している。
(リンスと一緒に来た事は正解だったな)
エクは心の中で再度リンスに感謝をする。
「じゃあ早速試験に移るね、付いてきて」
「はい」
試験官の後を追うようにエクとリンスがギルドから出て、マストの検問所の方へ歩き出す。
検問所を通り過ぎようとした時、試験官が急に立ち止まる。
「あ、リンスはここからは付いてきちゃダメよ」
「む、そうなのですか...。ではお兄様、わたしは一足先に帰宅します」
「うん、気を付けてね」
リンスはトボトボした足取りで家の方へ向かう。
試験官スッと歩き出し、エクもついて行く。
マストの町から少し離れた場所の廃道から若干逸れた場所で試験官が立ち止まる。
「よし、ここで良いわね」
試験官が立ち止まりそう言うと、背負っていたリュックを地面に置きゴソゴソと漁る、その中から一枚のA4サイズほどの紙を取り出した。
「エクくんだっけ?これを持って紙に意識を持っていって魔力を流し込んでね」
「分かりました」
エクはコクっと頷き試験から紙を受け取る。
そして言われるがままに意識を集中し、紙に魔力を流し込む、すると紙の色が段々と変わっていき、均等に4色に分けられた。
「あれ?おかしいな」
「どうしたんですか?」
「いやぁ、いつもは変わらないか1色の色が付くかなんだよね」
「色に関係があるんですか?」
「うんうん、例えば赤色になれば火属性。なので火精霊と契約しやすい体質なの。エクくんはもしかすると四属性とも相性が良いかもしれないね!」
「なるほど...」
エクは既に四属性を使用できる事はネロに言われていた為、驚く事もなく話を聞く。
「いつもは紙を渡してるんだけど、綺麗からわたしが貰っとくね!」
「あ、どうぞどうぞ」
試験官はニコッと微笑み綺麗に染まった紙をリュックに戻す。