魔導具開発
011
下へ降りた二人はそのままキッチン横の扉からお店側に出る。
受付カウンターでリンスが退屈そうに座っているが、店に顔を出したエクと目が合うと背筋を伸ばし姿勢よく座りなおす。
それを横で伏せる状態で見ていたフェリは欠伸を漏らす。
エクは店内を見渡すと、色々と不思議な魔導具が木材の陳列棚に並べられていた。
「ふっふっふー!凄いでしょう?これ全部わたしが作ったんだよ!」
「え、姉さんが?これは凄い才能だね!」
「でしょでしょー!じゃあちょっと見ててね」
するとヴィオラは陳列棚からフックのような魔導具を手に取り、店とリビングを繋ぐドアノブにぶら下げるよう取り付ける。
そして同じ棚に置かれていたコアを嵌め込む穴があるボタンをポチッと押す。
すると自動的にドアが開いた。
自動扉を何度も見てるエクは特に驚く事なく見ていた。
「あれー?便利すぎてぼーっとしちゃったー?」
「あ、うんうん凄かった!」
「でしょ、わたし達はこんな感じの生活に少しでも便利な魔導具を作って売ってるんだよ!」
そう言ってヴィオラが次に取り出したのは、センサーに反応して光る照明器具だった。
「どう?これは魔物除けにも使えて結構売れてるんだよ」
「あ、姉さん、センサーが出来るならさっきの自動扉をボタンじゃなくセンサーに替えたらどうかな?」
「え...おお!なるほど!...」
頷いたヴィオラは少しずつ俯き、段々と思考の渦に入っていく。
それを見たリンスはエクへグッと親指を立ててグーサインを送る。
「店の扉が重かったのでナイスなアイデアだと思いますお兄様、流石です」
「あはは...姉さーん」
ヴィオラは思考の渦からまだ帰ってこない。
リンスの言う店の扉を見るとエクは理解する。
両開きの大きな二枚扉になっていた。
年季も入っている為重くなっているのだろう、確かにこの扉が自動になればリンスは毎日の事なので、かなり楽になるのだ。
ただエクが一番思ったことが、お客が全然いない事だった。
「リンス、お客さんはあまり来ないの?」
「はい、ここにある魔導具は物好きな人しか買わないんです、あと今日は店を閉めてます」
「そういえば、なるほど...」
「でも本当に便利な物もあるので、わたしがフェリに乗って、ヴィオラが作ったこのマジックバックに品物を入れて売りに別の街まで行ってます」
「リンスが一人で?危険はないの?」
「危険もありますがフェリが居るので大丈夫です、そもそも出張販売があまり無いので」
エクはマストへ来る前に盗賊が実際にいた事を思い出し、少ないとは言えリンスへの心配が上がっていく。
「姉さん?」
「ん、あ、はいはい?」
「僕は色々な国を見て回りたいと思ってる、もし良かったら僕がリンスの代わりに販売しようか?」
「んー、そうね...、いつから行くの?」
「出来ればすぐにでも行くつもりだったけど、もう少し居てからにしようかな」
「なら今開発中のマジックバックツーが出来るまで居なさい」
「マジックバックツー?」
「うん、マジックバックは分かる?」
「うん、あの鞄の大きさ以上に入る鞄だよね」
「そうそう、その中身を共有出来る鞄を開発中なの」
(...!なるほど...)
これを聞いたエクは勘づいた、この鞄があればわざわざ商品を取りに戻る必要が無くなるのだ。
「それは僕の為に開発してたの?」
「へ?いやぁ、元々依頼が多くってね、夫婦で忘れ物した時に便利じゃない?」
「あ、、、なるほど」
エクは自分の為にわざわざ開発していると都合良く勘違いをし、内心恥ずかしかった。
そうこう話してる間にリンスが何か言いたそうに見つめていた。
「リンス、どうした?」
「お兄様、ギルド証はお持ちですか?」
「ギルド証?いや、持ってないけど必要?」
「はい、あった方が便利です、それぞれ各国の入口検問もそれを見せれば通れます」
「おお、それが無いと逆に入れないとか?」
「いえ、自分が住んでいる場所を示す住民書を見せて手続きした後、銀貨1枚で通れますが、毎回必要になってきます」
「もしくは、行商許可証があれば大丈夫ですが一家に一枚と決まっています」
「なるほど、行商許可証はこの家にも?」
「はい、お母様が生前に作成していた物で有効なのがありますが、これは持ち歩かず保管してます」
リンスはリビングがある方へ顔を向け少し寂しそうな顔をする。
十年経ったとは言えリンス自身に母の記憶は殆どないが、他の家庭を見れば母がどういった存在なのかは分かる年でもある。
そんなやり取りを聞いているヴィオラは母の記憶がある為暗い顔を見せないようにしているのが見て伺える。
「リンス、明日ギルド一緒に行ける?」
エクがリンスを誘う、リンスがギルドについて詳しく話していたのと行商許可証を使っていない事からギルド証を持っているとエクは踏んだのだ。
なら詳しいリンスが一緒にいればスムーズに行く事も予想出来る。
そういった意味合いも込めて誘っていた。
「...勿論です、ただ試験がありますので頑張って下さい」
(ギルドでの試験と言えば...)
「えー試験管と戦ったり?」
「え、ええ、そうです、よく分かりましたね」
「あはは...何となくね...」
「但し、木剣で魔法はありです、因みに召喚獣は魔法扱いなのでわたしは楽でした」
「なるほど...頑張ります...」
丁度その頃、道中を共にしたヨシキがお店に顔を出す。
「あ、ヴィオラちゃんこんにちは!」
「あらヨシキさんこんにちは!、今日はどうされました?」
「あれ?エクさんから何も聞いてないんですか?」
「エク?エクがどうかしましたか?」
「いやいや!今朝危ないところを救って頂いたのですよ!」
同タイミングでリンスはヴィオラとヨシキが話してる中、カウンターの椅子に座りながらボソッと呟く。
「...お兄様、さすがです」
エクは小声でリンスに返す。
「絶対聞こえてるよリンス、でもありがとう」
それを聞いたヨシキは笑いながら話す。
「リンスちゃん、本当凄かったよ!」
「わたしのお兄様なのですから、当然です」
「あっはっは、あ!そうそうエクさんこれが報酬金です!」
「...ん〜」
ヨシキはカウンターの上に袋に入った金銀銅のコインを広げる。
だがエクにはまだ通貨の価値が分からない為、困った顔でお金を見つめながら悩む。
「ん〜、では取り敢えず半分ずつで如何です?」
「いやいや!行商人として盗賊を捕まえてくれただけで儲け物ですのでこれはエクさんが!」
「いやいや...乗せて頂いて貴重な体験も出来ましたし、地図も頂きました。これは半分ずつと言うことでお願いします」
「そ、そうですか...分かりました!なら後でわたしが経営してるお店に来て頂けますか?お礼と言ってはなんですが渡したい物がありますので!」
「は、はあ...分かりました、リンスもご一緒しても?」
「勿論ですよ!エミもエキノも喜びます!」
そうこう話しながらヨシキはお金を半分ずつに分ける。
「ではこれは有難く頂きます、では後ほど!」
「はい、ありがとう御座いました」
「ヨシキさんアキさんに宜しくお伝え下さい!」
「また後ほど」
「はーい!」
ヴィオラとリンスも軽く別れの挨拶をし、ヨシキは店を出る。
店の扉が閉まったのを確認したヴィオラはエクへ近付いてくる。
「エク、大丈夫だったの?」
「うん全然、たまたま相手が弱かったんだと思う」
「そう...あまり無茶はしないでね」
「うん、分かったよ」
「お兄様、次遭遇したらフェリと一緒に飛んで行きますので」
「あはは...」
嘘偽りないリンスの目は良い意味で恐怖だった。