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アストリア精霊剣士譚  作者: Eclipser
10/24

た、ただいま...?

010

近くで改めて見ると中央の木の大きさは迫力があった。

マストの木は町のシンボルになっていて、大きさで言うと大体120階建くらいの大きなビルほどあった。


これは余談だが、アキが言うにはマストの木の麓で告白すると結ばれるというジンクスがあるらしい。


本来約1時間で着く筈がエルフ領を出てから3時間ほど経過し、時間帯で言うとお昼前になっていた。

入口にある検問所前に年季の入った鎧を着たおじさん警備員らしきヒュームが二名立っていた。

ヨシキは警備の人に何やらカードのような物を見せる。

続けて荷台の幕を開けてアキも見せ、まだ眠っている少女二人のカードも併せて見せる。

そして警備の視線はエクを向く。


「ん、住民書かギルド証を見せてくれるかい?」


(え、何だそれ聞いてない...)


エクは変な汗をかきながら少し吃る。


「ええっと...」

「この方はウォンリッドさんのご兄弟です、もしかするとウォンリッドさんが持っているのでは?」

「確かにウォンリッド家の子っぽいな、だが住民書が無ければ町へ入れる事が出来ないんだが...」


エクが焦りつつどうしようか悩んでいると、町の中からリンスの声が聞こえた。


「お兄様ー!」


(リンス、ナイスタイミング!)


エクは表情には出さず心の中で歓喜し、リンスへ見やる。

フェリに跨って猛スピードでこっちへ向かって来ていた。

その光景にはエクも苦笑いをする。


「フェリがお兄様の匂いを嗅ぎつけたのです、ふふん」

「偉いなフェリ、良い子だね」


エクがフェリを撫でるとリンスのほっぺが少しずつ膨れ上がる。


「お兄様!わたしにはないのですか!」

「あはは、リンスも偉いね、お陰で助かったよ」


エクはリンスにそう伝え、フェリから奪うように抱き上げる。

するとリンスは嬉しそうな顔から一変し、顔を真っ赤にしエクの胸に顔を埋める。

それを見た警備のおじさんは笑いながらエクに言う。


「ワッハッハ、これは間違いないわい!住民書は後で持ってきなさい」

「すみません、ありがとう御座います」


エクはリンスを抱き抱えながら警備のおじさんに会釈する。

そしてゆっくりとリンスを降ろし、リンスもエクの真似をして会釈する。


「では僕たちはこれで失礼します」

「エクさん、後でお店お伺いしますね!」

「はい、ヨシキさん達にはお世話になりました」


ヨシキとはこれから手配犯の処理がある為ここで別れる。

ヨシキとアキとも会釈を交わし、エクはリンスとフェリと歩きだす。


緑溢れる町並みの景色を眺めながらリンスのエスコートでこの世界初めての自宅前に到着し、エクはその場で立ち止まりまた景色を眺める。

そこはマストの町でも少し離れた南西辺りで、マストの木からは若干遠い場所だった。

家の付近には町の中なのに川が流れていて、家と川の間が原っぱになっている。

家は殆どが木材で出来ている二階建ての大きめのコテージで、一階部分の壁面の半分ほどがガラス張りになっている為、魔導具屋になっているのが見て取れる。


「お兄様?帰りますよ?」

「あ、うん、帰ろうか」


リンスがニコッと微笑み歩きだす。

エクはそれに付いて行くようにゆっくりと歩く。

一階のお店側入口とは真逆の裏手にも入口があり、リンスはドアを開ける。


「ただいまー」

「た、ただいま...?」

「?」


(初めてなんだよなぁこの世界の実家...)


リンスが不思議そうにエクを見上げ、エクは苦笑いで流す。

家の中はキッチンと食卓のテーブルに椅子、食器棚、魔道コンロと魔導具で出来たストーブのような暖房器具、そして彩りある植栽があり落ち着ける空間になっていた。

キッチンの横手にある扉の先が外から見えるガラス張りのお店スペースになっている。

エクが家の中を見渡すようにキョロキョロしていると店側の扉が開く。


「エク!おかえり!リンスも!」

「姉さんただいま」

「ついでな感じが」


リンスが少し嫌味っぽく言いエクはそんなリンスを見て頭をポンポンとする。

リンスも機嫌が治ったのかお店側へ小走りで向かう。


「姉さん、実は検問所で住民書を見せるように言われて、僕のってあるかな?」

「勿論あるよ!後でわたしが持って行こうか?」

「ううん、暇だから自分で行ってくる」

「そ、分かった。テーブルに置いとくね!」

「ありがとう」

「エク、取り敢えず二階の部屋で寛いでてね」


エクはコクっと頷き、それを見たヴィオラはニコッと微笑み店に戻る。

自分の部屋に興味があったので少し探検気分で早速エクは二階へと上って行く。

二階に上がると部屋が四つあり、階段上がってすぐに左右と奥に左右で分かれている。

手前右側がエク、その対角にリンス、奥左がヴィオラ、その対角に両親の部屋だ。

家具こそ残っているが両親はもういない。

その両親の部屋に入ると、フェイとマーサの似顔絵があり、二人ともすごく良い笑顔だ。


(初めまして、そしてただいま、父さん、母さん)


エクは似顔絵に挨拶をし、両親の部屋を出る。

次にヴィオラの部屋を覗いてみると観葉植物が多く飾られており、窓から陽の光が差し込み絵になる風景な部屋だ。

次にリンスの部屋を覗いてみるとお姫様ベッドが真ん中に大きく幅をきかせて、人形がこれでもかと置かれてある。

端っこには机と椅子があるがおそらく使用されていないだろう。

そして自分の部屋へと入る。

そこには木製の机と椅子、窓際にシングルベッド、そして隅っこに一本の剣が置いてあった。

エクはその剣を手に取る。


(綺麗な剣だ、貰ってもいいのかな)


まじまじと剣を見つめていると、柄の方にフェイと刻まれてある。

すると母の形見であるネックレスと剣が共鳴を起こし、刃部分が薄っすらと白く輝きだす。

そしてその光はゆっくりと消えていき、最初に手にした状態へと戻る。

その時、ヴィオラが部屋へ訪ねてくる。


「エク、改めておかえり」

「うん、ただいま」

「あ、その剣、お父さんが使ってたのだけどわたし達使わないからエクの部屋に置いてたの」

「これ貰ってもいいの?」

「勿論、多分エクに渡すつもりだったと思うし」

「じゃあこれで両方の形見を貰っちゃったね」

「両方の?」

「うん、ネロさんから母さんのネックレスを貰って、ずっと付けておくように言われてさ」

「ふーん、綺麗だね、大事にするのよ?」

「勿論、手放すつもりも無いから大丈夫」


エクは緩んだ顔から引き締め顔に変わりそう答える。

それを見たヴィオラは笑顔を返す。


「エク、後でお店に顔出してね」

「了解、すぐ行くよ」


エクは剣をそのまま手に持ち、アキから貰った地図を机の上に置き、ヴィオラと部屋を出て一階へ向かう。

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