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勇者の復讐  作者: 有栖川花恋
プロローグ
2/2

プロローグ2


「殺れ」


剣が真っ直ぐ降りて来ている。このまま首に突き刺さり死ぬのだなと感じた。だが、痛みは感じない。目を開けると縛られていたエルが念力で剣を吹き飛ばし俺達を守ってくれていた。


「エル……」

「アベンは私が守る」

「こいつ!」

「やめろ!こいつを殺せば勇者を抑えておけない」


その時、エルと目が合った。彼女の表情で何をしようとしているのかが分かった。だが、何も出来ない。動けば首輪の魔法が発動する。


(俺は、俺は!どうしてこんなに!)


「アベン……楽しかった」

「やめろ」

「私はアベンの彼女になれて良かった」

「やめろ!」

「でも、荷物にはなりたくないの。だから」

「待ってくれ」

「私のことは覚えてくれていればそれでいいから」

「待っ」

「アベンは私が守るから」


そう言うとエルは司教に体当たりし押し倒す。いつの間にかほどいていたロープを使って司教の首を締め付ける。


「ぐっ、おい離せ、この小娘が、どけ!」

「きゃっ」

「たく、どいつも!こいつも!」


司教がエルを蹴りつけ、踏みつける。エルは睨み返し顔面に向かって魔法を放つ。


「あなたなんかにアベンの人生を無茶苦茶にされてたまるかぁ!」


今まで見たことがないような威力の魔法が司教を襲う。シールドは間に合わずそのままくらってしまう。数メートル吹き飛び、その瞬間怒りでエルが勇者のストッパーになっていると言うことを忘れて剣を持ち、やってしまった。


「へ?」

「お前が!お前のせいで!私を!誰だと!思ってるんだ!」


怒鳴りつけながら何度も串刺しにする。司教が冷静になった頃にはエルはもうピクリとも動かなくなっていた。


「エル?なぁ、おい」

「そんな、エルちゃんが」

「司教!お前だけは!」

「やめろ」

「は?何故止める!?エルさんがこいつに殺さ……ッッ」


パーティメンバーはもう何も話せなかった。アベンから漏れでる殺気のせいで立っていることすらできず座り込んでしまう。司教に至っては気絶してしまっている。


「おい、起きろよ」

「ん、ヒッ!」

「お前、知らねぇか?エルが動いてくれないんだ」

「す、すま…ない。私が、悪かっ…グハッ」


話の途中で司教を殴り飛ばした。


「謝罪なんて聞いてないんだよ、な?エルが動いてくれないんだよ、エルが、エルが!」

「ヒッ、やめろ、いや、やめて下さい。女なら直ぐに他のを……」


そこから先は覚えていない。気が付いたら目の前にもう人かどうかも分からなくなったおそらく司教であろう死体があった。パーティメンバーは逃げ出そうとした兵を殺し。関係の無い聖職者等を逃がしていた。


「エル……」


エルの遺体はトーレ達が安全な場所に動かしていた。ラポラがせめてもと回復魔法で傷を癒し、シェートが破片などを魔法で防いでいたらしい。俺は動かなくなってしまったエルに抱きつき泣いた。


「エル、エル!すまない、俺が何もできないから」

『そんな事ないよ、アベンはやればできるじゃない。魔王を倒し街を魔物から守ってくれている。でも、もし後悔してくれるならもっと強くなって大事な人達を守れるようになって。それが私の願い。だからもう泣き止んで、私の大好きな優しくて強いアベン見せて?』


エルがそう言った気がした。エルに何もしてあげられなかった。ならば、せめてその願いくらい叶えてあげなければ死んだ後エルに会いに行けない。


(分かった、頑張るから。でも、ごめん。話してなかったけど俺は……)

『分かってる、妹さんでしょ?ここに来た時に知った。普通は復讐なんて止めるべきなんだろうけどね。アベンがそれを望むなら黙って上から見守ってる』

(ありがとう)

『それと、女の子の面倒、ちゃんと見てあげてね?』

(ん?女の子?あぁ、分かった?)


その後、エルから聞いていた亡くなった両親の墓の隣に埋葬し壊してしまった教会の建て直しを手伝った。ラーフはその時教会の地下で見つけた。地下に牢がありその中に横たわっていた。どうやら司教に買われたそうだ。ストレス発散に殴る蹴るの暴行、夜は慰みものとして扱われていた。ラポラによるとお腹周りに鉄杭を何度も打たれ子どもが出来ないように壊されていたらしい。回復魔法も適当でラポラがかけ直したが鉄杭を打たれたのはかなり前で傷は完璧に治ったがもう子どもを産むことはできないそうだ。話し合いの結果ラーフは俺が預かることとなった。ラーフに親はいなかったが教会に預けるのはこれまでの事から避けた方がいいと思いやめた。結局はラーフにどうしたいか決めてもらい、俺と暮らす事となった。どうやらエルはこの子のことも気が付いていたようだ。だが、面倒を見ると言ったが街からは出ていくことになる。俺達は雇い主である教会の司教を虐殺した犯罪者になっていた。事情を知っているシスターや聖騎士もいたが話してしまうと司教と繋がっていた奴らに口封じとして殺されてしまうかもしれないので黙っておくように言った。どうやら司教は俺達、勇者パーティが教会に不満を持っている等の嘘を流しており下手に言ったところで捕まってしまうと思い確実に追い詰められるまでは魔法で姿を変え隠れて過ごすこととした。






現在ーー


「アベン?」

「ん?どうした?」

「それはこっちのセリフ、元気ない?やっぱり街は嫌?」

「あぁ、違う違う。昔のこと思い出してて、そう言えばなんでラーフは俺にしたんだ?」

「?なんのこと?」

「2年前、誰と一緒に行くか」

「……言っても多分信じてくれないと思う」

「どういう事だ?」

「夢で知らないお姉さんに『アベンって言う男の人を頼るといいよ。その代わり彼、今は心が不安定だから支えてくれると嬉しいな』って言われたか……ら。アベン?泣いてるの?」

「いや、泣いてないよ。何でもないし、さっさと宿屋に行こう」

「…うん」


(エル、ありがとう。ラーフとエルのお陰で壊れかけても戻ることができたよ)


空を見上げ心の中でそう呟く。


『フフ、上から見守るって言ったでしょ?』


そう聞こえた気がした。

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