プロローグ1
「はぁ、久しぶりに街に出てきたなぁ。ここ、何処の街だ?」
「分かんない」
森の中で家を作り過ごしていた俺、アベンはラーフとともに久しぶりに街へと向かった。小さめの街で門にはほとんど人が並んでいない。
「身分証を、冒険者ならギルドカードを」
「えーと、これでいいか?」
「はい」
「あぁ、これで大丈夫だ。この街は初めてか?」
「初めてだ」
「それならこれをやろう」
そう言って渡されたのはこの街の地図だ。冒険者ギルド、宿屋、武器屋、飯屋等への経路が分かりやすく記入されている。
「ありがとう」
「ここに書かれていない店もあるがあまりいい噂は聞かないところもある。気を付けてな」
「分かった」
俺とラーフは話し合い森から出て街での暮らしに戻すことにした。何故、俺達が森で暮らしているのかと言うと
2年前ーー
「トーレ援護頼む」
「任せて、ラポラお願い」
「分かった。【パラライズ】」
「行くよ、【パラライズアロー】」
「フッ」
俺達は魔王討伐後、高ランクの魔物を討伐したり氏名依頼をこなしたりしていた。今日もいつものメンバーのAランクの魔物が街の近くに来たと言うことで狩りに来ていた。
「トーレの矢にパラライズかけたけどそれ無くても倒せたでしょ?」
「まぁ、念の為だよ」
「そんなこと言って余裕だったくせに」
「まぁまぁ、アベンは一刻も早く街に帰りたいから、ね?」
「なるほど、動き回ると余計な手間が増えるからか」
「な、なんだよ」
「別に?どうせ街で待ってる彼女に会いたくて私達の力使ってる、なんて思ってないから」
「それ思ってるだろ」
「あははは」
いつも通り魔物を倒し街に戻ってギルドに報告し教会にも報告をしに行った。その時だった。
「動くな!」
「どういう事ですか?司教」
「いやなに、お前の力が強くなりすぎて制御出来なくなると困るのでな」
「なるほど、だから殺すと?でも、言っちゃ悪いが俺達をここの兵だけで殺せるのか?」
「あぁ、殺せるとも。おい」
司教はニヤリと笑い、奥に控えていた者を呼び出した。そこには手足を縛られた彼女、エルがそこにいた。
「動いたら分かってるだろうな?」
「エル!」
「司教!これはどういう事ですか!?」
「見てのままだよ、お前たちは危険だ。だから排除する。だが、普通に戦っては勝てない。ならどうするか」
「人質……」
「取り押さえろ」
「くっ!」
「ちょっ、離して」
「盾と魔法使い、隔離魔法で囲んでも麻痺で私達を動けなくしても無駄だぞ?そんな事をすればこいつの首に仕掛けてある首輪が発動してこやつが死ぬだけだ」
「卑怯者!」
「クソが!」
「なんとでも言え、おいさっさと殺れ」
「は!」
「ダメ!アベン、私のことはいいから逃げて!」
「ごめん、俺にはそれは出来ない」
「アベン!」
俺はさらに昔、妹を置き去りにして逃げたことがある。俺達の両親は国の裏組織と繋がっており兄妹揃って身体を改造されていた。ある日、両親が村から子どもを攫い人体改改造していた事が明るみになり、証拠を消そうとした組織が家を襲い両親を目の前で殺された。正直、こんな親が殺されてもなんとも感じなかった。だが、妹は違う。同じ被害者で辛くても支え合って生きていた。なのに、妹が捕まっていると言うのに、怖くて妹の「私を置いて逃げて!」という言葉通り置き去りにして逃げた。今まで一緒にいて、辛い時に支えてくれていた妹を見捨てて逃げたのだ。そして、その後に次々と湧き出てくる後悔と自責の念。失ってしまったという喪失感。俺はもう耐えられそうになかった。
(あぁ、俺は身勝手だな。そんな気持ちをエルに押し付けようとしている。でも、それでも、エルには生きていて欲しいから)
俺は覚悟を決め目を瞑った。
「さよなら、エル」