第3章 その22 首飾りをどうしよう?
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エステリオ・アウル叔父さまが『本物の精霊石』と、精霊白銀という金属(ものすごく貴重で希少なんだけどカルナックお師匠さまにいただいたから問題なし)を使って作ってくれた首飾り。
「それにしても、すごいものを作り上げてしまったものだ。これでは大公家との釣り合いが取れない」
カルナックさまは額に手を当てて呟いた。
「私からの贈り物ということにして、身につける時期を選ばなければならない。それに、シアにも私が何か用意してやるか…」
めんどくさいな、と、ため息をついた。
「大公さま? シア? なんのことですか、お師匠さま」
「それよりアイリス、ちょっと貸してごらん」
カルナックは精霊石の首飾りをつまんで持ち上げ、軽く振った。
すると、そこには。
首飾りではなく、ブレスレットが出現したのだ!
「手首に、はめてごらん。黒竜のウロコは、精霊石を覆う蓋にしてみたんだ」
ブレスレットていうかバングルね。平たくのばした金属の輪に、オーバルな黒曜石がはめ込んであるように見える仕上がり。蓋をあければ、精霊石が見えるのね。
腕にすっと入って、軽く縮んで(金属が!)手首にフィットした。
ありえない現象だけど、カルナックお師匠さまのなさることだものね。
いまさら驚かないですよ!
アイリスはね。
「どうだい、つけてみて」
「手首が、あたたかくて、きもちいいです」
「よかった。寝るときも、お風呂に入るときも、つけているんだよ」
「はい!」
カルナックとアイリスは、和気あいあいと笑みを交わしたのだったが、それを見ていたエステリオ・アウルは、驚愕するばかりだった。
「わたしが首飾りに仕上げるのに、二ヶ月以上かかったのに。あっという間にバングルに!」
「気にするな。精霊由来の金属だ。ヒトが細工するのは、手に余る作業だ。だが、いい経験になっただろう。だから課題にしたんだ」
「え、ええ、得がたい経験になりました」
「よしよし。もとよりこの世界にあるものは、この私にはどうとでもなる。ああ、安心したまえ。形状記憶しているから、しかるべきときには、君が作り上げた首飾りの形に戻せるとも。そうだな……シアにも、見た目は同じようなものを贈らなくてはならないからな。渡す時期を合わせよう。今年の年末の、年越しの宴にするかな。大人が子供にプレゼントを贈る夜だ」
これってクリスマスっぽいけど、ちょっと違う祝日なの。
地球でも、年越しカウントダウンって、やってたものね。
「精霊の金属はいくらでも手に入るが、精霊石に似たものが必要だなぁ」
さらっと常識を軽く飛び越える発言をするカルナックである。
「シアって?」
「ルーナリシア姫。大公の、末の姫だ。君と同じ日に生まれた。いつかアイリスにも会わせるよ」
予想もつかなかったことばかり、起こる。
アイリスは情報過多についていけず、うなずくだけだった。
「あの、お師匠さま。精霊石に、さわったら、わたし……いえ、あたし……思い出してきて……わたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルで、でも、あたしは月宮アリスっていう前世の記憶があって。それから、まだ他にも、まだ誰かが、こころの底のほうに、眠ってて……ごめんなさい、変なこと言いました。おかしいですね」
「おかしくはないよ」と、カルナックお師匠さま。
「精霊石から流れ込んできたエネルギーが、君の中に固まっていた『栓』というか『結石』を溶かし、血行がよくなって魔力の流れも改善された。だから、私がかけておいた『封印』も無効になったのだ。今の君なら、いつでも前世の記憶にアクセスし放題だよ」
「お師匠さま? 魔力も血行の問題なんですか!? もしかして、おふろに入れば問題解決!?」
「血行だけではないけれどね」
年齢相応の幼いアイリスの無邪気な発言に、カルナックは笑う。
「君も四歳になった。『受容体』も成長しているから、より多くの魔力が身体を循環しても耐えられるようになったのさ。そして……いずれは、アイリスと月宮アリスは、融合していくだろう。ごく自然にね」
「とけあう? それって。だいじょうぶなんですか」
「大丈夫だよ。例えばこの私だ。異世界『地球』での前世もはっきり覚えているし、この世界での五百年と少しの人生経験もすべてひっくるめて、今の私『漆黒の魔法使いカルナック』を形成している。全ては、輪廻。つながっているんだよ」
「そうなんですか? わからないですけど、わかりました!」
笑顔で答えるアイリス。
カルナックの言葉の意味をアイリスが実感するのは、まだ、先のことのようだ。