第3章 その21 カルナック師の悩み(訂正しました)
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わたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは、カルナックお師匠さまのご指示にしたがって目を閉じた。
けれども視界は真っ暗にはならない。
手のひらにまばゆく光る『精霊石』を乗せているから。
リィン。
どこかで、鈴が鳴った。
鈴の音に、こみあげてきた思いがある。
せつない。
なつかしい。
うれしい。
「ふしぎです……なんだかとても、なつかしい感じがします」
「それは、君と同調したんだよ。君の気持ちに寄り添い、助けてくれる存在だ」
カルナックさまの声。
「だから安心して、瞼を開いてみなさい」
目を開ける。
青白い光をたたえた、透明な丸い石。
まるで草の葉に宿る朝露みたいだ。
……と。どこかで誰かが呟く。思う。わたし、アイリスの、魂の奥深いところで。
「さあ、さわってみてごらん」
「はい」
手のひらの光に、触れる。
……?
わたし、触ってる?
ふしぎだわ。
まるで、光をたたえた露玉と、わたしの……境界が、ない。
けれど。溶け合うわけでもない。
ただ、
温かいものが、指先から、腕に、肩に、そして心臓に、流れ込んでくる。全身を、ゆるやかに、確かに巡っている熱量がある。
しだいに『精霊石』から滝みたいに流れ落ちていた光が、目に見えて、落ち着いていって。
しばらくすると、光の滝は、なくなったの。
石の表面に青い光が浮きあがっていることに変わりはないけれど。
「アイリス。気分はどうかな」
「カルナックさま。わたし、うれしいの。なんだか……なつかしい友だちに、また出会ったみたいな。でも、不思議です。家から出たことないし、友だちは、いないはずなのに」
「なつかしい、か。それは、よかった」
優しい声で、カルナックさまはおっしゃって。
頭を、撫でてくれたのです。
「その『精霊石』は、今から君の友だちだ」
「お友だち……?」
わたしは手の上にある『精霊石』のロケットペンダントを見つめた。
いっしゅん、光が、ぱちっと、またたいた。
ウィンクしたみたいに。
「これからよろしくね、わたしの『精霊石』さん」
そうしたら、キラキラする光の粉が降ってきたの。
守護精霊さんたちも喜んでいるんだわ。
「それにしても、すごいものを作り上げてしまったものだ。これでは大公家との釣り合いが取れない」
カルナックさまは額に手を当てて呟いた。
「私からの贈り物ということにして、身につける時期を選ばなければならない。それに、シアにも私が何か用意してやるか…」
めんどくさいな、と、ため息をついた。