第1章 その7 アイリス三歳の『魔力診』
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あたしはアイリス・リデル・ティス・ラゼル。
すくすく育って、三歳になった。
生まれてすぐに妖精さんがやってきて、守護妖精になってくれたの。
光の妖精イルミナと、風の妖精シルル。
ふたりの言うことには、あたしは新生児の頃、前世の記憶というのがあったらしくて、この世界じゃない不思議な世界のこととか、何度も話していたらしいの。
今では、ぜんぜん憶えていないんだけど。
エステリオ叔父さまも言ってた。それは『先祖還り病』っていって、新生児の千人に一人くらいの割合であるんだって。前世を記憶している子どもたち。成長していくうちに、ほとんどは忘れてしまうんだって。
「でも、もしも君が大きくなっても前世を忘れないでいたら」
あるとき、エステリオ叔父さまが、ふと、真剣な表情で言ったのを憶えている。
「そのときは、この私に相談するんだよ」
どういう意味だったのかな。
「……なぜなら、私も」
真顔で言いかけた、叔父さま。
そのとき乳母やのサリーが何か話しかけてきて。
つづきを聞きそびれたきりで、そのままになったの。
まぁ、いっか!
そのうち叔父さまに聞こう。
うちはお金持ちらしいの。
着るものも食べるものも不自由したことはないわ。
頼もしい執事のバルドルさん、厳格なメイド長エウニーケさん、メイドさんたちや料理人や下働きの使用人もたくさんいるし、乳母やのサリー、あたし専任の小間使いローサもいて、行き届いたお世話をしてもらってる。
ただ一つだけ、悩みがあるわ。
生まれつき身体が弱いんだって言われていて、お家の外には出られないの。館の中は広くて、自由に歩き回ったり子供部屋で遊んだりできるけど。
お母さまも小さい頃は虚弱体質だったから、子どもの頃はつらかったって話してくれた。
そんなこんなで、無事に三歳になった、あたしです。
みんなが、あたしを見ると笑顔になってくれるし、嬉しそうで、毎日、楽しい!
三歳の誕生日をむかえた今日は『魔力診』を受けることになっているの。
このエルレーン公国で生まれた子どもは、二歳から三歳くらいで、保有している魔力の質や量を、魔法使いの人に診断してもらうことになっているんだって。
魔法使い!
あたりまえにいるのね、魔法使いって。
ちなみに、お父さまの弟で、我が家に同居しているエステリオ・アウル叔父さまは、魔法使いになるための学院に通っている、将来有望な学生なの。
現在三十二歳のお父さまと少し歳が離れていて十六歳。優しくて大好きな叔父さま。
今日の『魔力診』に来てくれるのは、有名な魔法使い。
エステリオ叔父さまをかってくれている恩師で『深緑のコマラパ老師』って呼ばれている。
エルレーン公国には『魔導師協会』という、魔法使いの組織があって、そのナンバーツーっていうの?
協会の副長さまなのです。
どんな方かしら。エステリオ叔父さまの恩師なら、きっといい人だ。
こんやは、ごちそうも用意して、お母さまの親戚のひとも来て、賑やかになる。
お父さまのお父さま、つまりあたしの父方のお祖父さまは、ヒューゴー老と呼ばれている、ラゼル家先代の当主なのだけど、引退して隠居しているの。
お父さまとは仲が悪くて、招待していない。お祖母さまは病気で療養中。メルセデスというお名前だって、お父さまに聞いたら、教えてくれた。
いつか、メルセデスお祖母さまにお会いできたらいいな。
ヒューゴーお祖父さまのことは、お父さまは話題にするのもイヤみたいだったから、会わなくてもいいや。
なんて、あたしはのんきに考えていたのでした。