第3章 その12 心残りから生じる妖精たち
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『アイリス、わたしのことわかる? 風の精霊シルルよ!』
ものすごく嬉しそうな笑顔で言う。
明るい黄緑色の瞳、健康的なふっくら血色のよい唇。
波打つ豪華な金髪が形の良いヒップを覆っている。
何より背が高くてスタイルがいい。ウエストが細くて胸が大きいのだ。
身に纏っているのは柔らかそうな若葉色のドレス。たっぷりひだが寄っている布地は、足首に紐で結んだサンダルをはいた足先にまとわりつき、風にひるがえる。
小妖精の姿のときも身に纏う衣装は同じだったけど、今度は大人の女性バージョン。
大人っぽいうえにキュートで愛らしくて可愛い。
『わたしは光の精霊イルミナよ。嬉しいわアイリス!』
どこから見てもすっかり大人になったイルミナが飛びついてきた。
色白でぱっちり開いた金色の目をし、ルビーみたいに透き通ったきれいな赤い髪をツインテールにして、お下げを長く垂らしていた。
ドレスは張りのある薄い布を、透明感のある柔らかい布に重ねたみたいに見える、ふんわりした形。スカート丈は膝頭を隠すくらいの長さ。
どちらかと言えばイルミナは、「きれいなお姉さん」という感じ。
きっと、エステリオ叔父さまが帰ってきて彼女たちを見たら、すっごく驚くわね。
『わたしも忘れないで。水の精霊のディーネですぅ』
ディーネは他の二人に比べるとちょっぴり幼い感じ。
淡い水色の髪はふわっとした肩までのボブスタイル。
光沢のあるつやつやした生地の、ひざ丈のワンピースは、すとんとした裾の広がらない形で、清楚な雰囲気。このワンピースも薄い水色だ。
精霊になったことが嬉しいのだろう、彼女たちはひらひら飛び回って、踊ってる。
『見てアイリス! ディーネはね、こんなことができるのよ』
とたんに睡蓮の池から、勢いよく水が噴きあがった。
細く高く、水でできた尖塔みたい。
上の方は細かい霧状になって、小さな虹が浮かび上がる。
「うわあすごいわ! ディーネ」
あたしは感激して思わず拍手をしたのだけど、どうもそれがいけなかった。
『『なによ、なによ、そんなの! わたし達だって色々なことができるんだから!』』
シルルとイルミナの敵愾心をあおってしまったみたい。
で、ふたりは両手を上げてポーズをとって、大がかりな呪文? を唱えようとしたのだ。
『『大いなる風よ!』光よ!』
「おいおいちょっと待て!」
ルビーさんが鋭い一声。
「アイリスちゃん、あなたは精霊たちの主なのよ。あなたが止めてやらないと!」
サファイアさんから、忠告が。
「はい! みんな待って! そんなことしないで!」
お父さまご自慢の、中庭が大惨事に!?
あわやというとき、
スゥエ女神さまが、精霊たちの前に立ってくれた。
『あなたたちは、何をしているのですか。せっかく精霊の姿を得たというのに。守るべき主を放って置いてどうします。守護精霊どうしで能力勝負をしている場合ではないでしょう』
ぴしゃりと、雷。
『『『ごめんなさ~い』』』
三人の精霊たちは、すっかり おとなしくなって、身を縮めた。
「まあ、嬉しくなるのもわかるけどね! アイリスの持ってる魔力が桁違いに大きいから、こんなに早く守護精霊に進化できたんだから」
「普通はあり得ないのよ」
サファイアさんの足もとには、シロとクロが伏せていた。
いつの間に、出てきてたのかしら!
『この世界とともに生じた本当の「精霊」と違って、妖精には寿命があるのですよ』
スゥエ女神さまは、静かに、言う。
『妖精とは、世界に還元できなかった「心残り」から、泡のように生まれては消えるもの。消えては、また生まれる。その繰り返しで、だんだん、もとの自分がなんだったのかわからなくなって、本当に消滅してしまうのです。ヒトと縁を結んで初めて、ヒトと同じだけの寿命を得、万が一にでも守護精霊に進化できたら、セレナンに次ぐ、準精霊みたいなものになれる。だから、彷徨う魂たちは、生命の輝きに強く惹かれるの」
スゥエ女神さまのお言葉は、難しかった。
けれど深い感銘を与えたのだろう、守護妖精たちは、しんと静まりかえっていた。
※
『くすくすくす。怒られちゃった。せっかく大きくなれたのにね』
突然、あたしの背後から、声がした。
面白がっているような。
男の子。幼い子だ。
『『『あんた誰!!? 何者よ!!!』』』
三人の守護精霊たちの姿が、ふっと消えて、光より早く移動する。
次の瞬間には、三人は声の主と、あたしの間に立ちはだかっていた。
うわぁすごい。
頼もしい守護精霊だわ!
『やだなぁ、お姉さんたち。ぼくも、お姉さんたちと同じだよ。桁外れに強い力を感じたから来たんだ。仲間に入れてよ。ぼくはね……』
こころなしか、艶めいた、挑戦的な笑みを浮かべている。
年齢は六、七歳くらいかな?
栗色の巻き毛がくるくる額にかかって、
ガーネットみたいな暗赤色の目が、キラキラして、楽しそう。
『ジオっていうんだ。ねえ、仲間に入れてよ』
まるで……
遊んでほしがってる子犬みたい。
シロとクロは、この子をどう思うかしら。
『そなたは……』
スゥエ女神さまの表情が険しくなる。
『ぼくは敵じゃないよ』
ジオは、笑った。
小さな子供の顔をして。




