第2章 その22 (改)魔法使いで、お医者さま
すみません、先日、第2章21話から、ちょっとばかり書き直ししています。
この22話は、現在の23話とはつながっていません。
じきに書き直しして追いつきます!
しばらくお待ちくださいませ!
22
あたしはアイリス・リデル・ティス・ラゼル。
三歳と一ヶ月。
いつも目覚めるたびに不思議な気持ちになる。
今朝のあたしは。
アイリス?
それとも、アリス?
三歳の誕生日に『魔力診』を受けてから。
アイリスの意識の底に、何層かになって眠ってる魂の階層を、意識するようになった。
こう考えている、今の、あたしは。
たぶん、本来の三歳幼女アイリスではない。
毎日、目覚めるたびに。
少しずつ、少しずつ。
アイリスと月宮アリスは混ざり合っていく。
そして、どっちがどっちなのか、わからなくなっていく。
それでいいんだ。
きっと。
前世も覚えているし。特に、月宮アリスの記憶は鮮明だし。
でも、アイリス・リデル・ティス・ラゼルの記憶もはっきりしてる。
今生のお父さま、お母さま、エステリオ叔父さまのことも、とても大切だもの。
さあ、新しい朝だ!
ベッドに起き上がって、深呼吸する。
『おはようアイリス!』
柔らかな暖かい光があたしの両肩にふわふわ近づいてきて、話しかけてくる。
目をやれば、光は背中に薄羽根を持った、可愛い少女の姿へと変わる。
羽根を含めても、手のひらくらいの大きさ。
「おはよう! シルル、イルミナ」
『きょうはどうするの?』
わくわくしてる、ふたりの小妖精。
飛び回るたびに光の粉が散って、とてもきれい。
「きょうはね、おじさまが学校から帰るときに、おいしゃさまがごいっしょしてくれるんだって。まほうつかいの、おいしゃさまなの。エルナトさまっていうの。おじさまの、しんゆうなんだって!」
あせってお話しすると、かなり三歳幼女成分が多くなるのよねー。
『聞いてたわよ』
『知ってるわよ』
妖精たちが、キラキラ光る。笑う。
『だってあたしたちは、いつもアイリスと一緒にいるんだから! これからも、ずっと守ってあげる。あたしたちのお気に入りのアイリス!』
光のイルミナが、薄羽根をぱたぱた。
『カルナックさまには負けないわよ! ……いえ、ほんとのこと言うと負けるけど。がんばるからね! 守護妖精のあたしたちのこと、忘れないでね』
風のシルルが、小さな胸を張って強がってみせる。
「もちろんよ。あたしが生まれてすぐに、まだ目もあかないのに見えたのは、シルルとイルミナ。あなたたち二人、だもの。だから、ずっと一緒にいてね」
シルルもイルミナも、嬉しそう。
「わふん!」
「わわわわん!」
「ごめんごめん。シロとクロ。もちろんあなたたちのことも忘れてないわよ! もふもふは大切だもの!」
※
そして、その日の午後。
エステリオ叔父さまは、親友であるエルナトさまを連れて帰宅したのです。
お客さまがいらっしゃると前もって聞いていたから、気持ちは玄関までまっしぐらに駆けていきたかったんだけど、何しろまだ三歳だし、ひよわな、あたしは。
乳母やのサリーに抱っこされて、二人をお出迎え。
だけど、玄関で、とはいかないの。
メイド長、エウニーケさんの口癖では、こうね。
「よろしいですかアイリスお嬢様。いいご家庭の令嬢というものは、落ち着いていなければなりません。いつでも、例外なく、でございます。お客さまがいらしたからと言って、飛び出していってはいけませんよ」
だから言われたとおり、エステリオ叔父さまのお部屋に入って、ソファに座って待っていたの。
乳母やとローサがそばにいて、シロとクロはあたしの両脇にいる。子犬バージョンだけれど。
やがてメイドさんが、エステリオ叔父さまとお客さまがいらしたと、知らせに来た。
「ただいま、わたしのイーリス。いい子にしていたかい」
勢いよくやってきて、さっそく、あたしを抱き上げる、エステリオ叔父さま。
「おかえりなさい、エステリオ叔父さま!」
お父さまの弟だから叔父さまだけど、お父さまとはけっこう年が離れているの。魔法使いになるための公立学院に通う学生で、現在、十六歳。
「おやおや。聞きしにまさる激甘ぶりだね、エステリオ・アウル」
面白がってるみたいな声がした。
叔父さまのすぐ隣に、その人は立っていた。
おお~!!
美形だわ!
長くてサラサラの金髪、灰青の目。背が高くて、顔立ちは、月宮アリスの記憶にある、海外のすてきな映画スターみたい!
「エル!」
たしなめるように鋭い声。エステリオ叔父さまの口から出るのが意外な感じだわ。
けれどお客さまは意に介していない。
「カルナックお師匠様から聞いてはいたけれどね。確かに……照れ屋で引っ込み思案で内向きなエステリオ・アウルが、人が変わったように明るくなったのもうなずける。女神が降臨したのだ」
優雅な仕草で。
上体を倒し、手を差し出した。
「初めてお目にかかります。アイリス・リデル・ティス・ラゼル嬢。このたび魔道士協会から派遣されてまいりました、わたしは魔法を学び、医学を興すために修行中の身、エルナト・アル・フィリクス・アンティグア。エステリオ・アウルの親友を自認しています」
いたずらっぽいまなざし。
あたしの正直な感想を言っていいかしら。
このひと、確かにカルナックお師匠さまのお弟子さまだわ!




