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転生幼女アイリスと虹の女神  作者: 紺野たくみ


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第2章 その20 シロとクロの真の姿

         20


「待たせたね! 年下の恋人ができてリア充ハッピーな私だよ! 年下はいいぞ~、丈夫で長持ちしそうだし。元気すぎて夜も寝かせてもらえないのには困ったものだがね」

 得意満面な表情で言うカルナックさま。


「来て開口一番の台詞がそれかい!」

 コマラパ老師は、懐からハリセン(みたいなもの)を取り出して、目にもとまらぬ速さでカルナックさまの頭を、思いっきり、しばたいた。


 すぱーん!


「あいたたたたた!」

 頭を抱えてうずくまるカルナックさま。


「痛くはないじゃろうバカもの! 冗談でも時と場所をわきまえんか!」

 コマラパ老師は、すっごく怒ってます。

 でも、表情や目が、とても優しいの。


「ひっどぉ~い」

 実のところは堪えてもいないに違いないカルナックさま。


「まったく、おまえさんの悪い癖だ。わざと誤解させるような言動はつつしめ」

 コマラパ老師は厳しく叱責しているのだけれど、温かさを感じるわ。


「はいはい、今後は気をつけるよ」

 ひらひらと手のひらを振って、楽しげに笑う。

 気をつけるよ、なんて、絶対に思ってなさそう。

 いたずらっ子みたい。


(あれ? 年下の恋人? それって冗談なの? 本気なの? スルーすべき? おたずねするべき?)


 そのとき。

 軽く、めまいがして。

 なんか、抜け出た感じが!


「わふん!」

「わおん!」


 あ。

 二匹の子犬が、カルナックさまに駆け寄っていった。

 白いのと、黒いのが。


「シロとクロ!」


「こら! おまえたち、だめじゃないか。アイリスに貸したのに、勝手に!」


 そうなのよね。

 シロとクロは、あたしの護衛で従魔だけど、本当の主人はカルナックさまだから、喜んで出てきたんだわ。


「わふんわふん!」

 転げ回って、背中を床にこすりつけて。

 おなかを上にして、服従のポーズ。


「しょうがないなあ。『スアール』、『ノーチェ』。おまえたちにはアイリス・リデル・ティス・ラゼルの護衛を任せたんだから。ちゃんと、やるんだよ? そしたら後で遊んであげる。ご褒美もね」


「くぅ~ん」

「わふ~ん」

 もう駄犬にしか見えない。


 カルナックさまは屈み込んで、二匹を撫でた。


 子犬だった二匹は、みるみる大きくなって、もとの、大きな魔獣の姿になった。

 シロは、白い毛皮にうっすら茶色の縞を浮かび上がらせてる、虎に似た感じ。ほんとは『大牙タイガ』っていう種族。で、クロは真っ黒なつやつやすべすべの毛皮に覆われてる。黒ヒョウに似てるかな。『夜王ビッチェ』っていう種族なんだって。どっちも、ものすごく強くて怖いのよ。エステリオ叔父さまに教えてもらった。


 カルナックさまの手からおやつをもらって食べて。

 ゴロゴロ、のどを鳴らしてる。


「さて、じゃあ私も」

 テーブルにやってきたカルナックさまは、コマラパ老師の隣に座った。


 お父さまが執事のバルドルさんに目をやる。

 すると、メイドさんたちが、トレイを掲げてやってきた。


 差し出されたのは、紅茶。


 あ、香りがすごい!

 さわやかで、気持ちのいい芳香。

 それに茶器が高級な感じ!


「ほう。これは素晴らしい」

 カルナックさまはティーカップを持ち上げ、顔を寄せて。


「おししょうさま、それはなに? そんないいかおり、はじめて」


「興味深いかな、アイリス。私もコマラパ同様、飲食はしないのだが。香りは楽しめるのだよ。これは素晴らしい。サルサマリアの『女王の紅茶』ファーストフラッシュだね」


「はい?」


「春に摘まれる新芽で作られた紅茶ということだよ。懐かしいな……」

 どこか遠くを見ているような表情だった。


「では、お礼に。これに似合うケーキを。見ていてごらん」


「ふえっ!?」

 あたしは目を丸くした。

 カルナックさまの手のひらに銀色の光が吸い込まれていったかと思ったら、テーブルに、ホールのケーキが一つ、あらわれたの。


「私は『世界』に満ちているエネルギーを集め、物質に変換して、食べたことのあるものなら、何でも好きに作り出せるのさ」


(食べたことのあるもの?)

 あたしの中の、イリス・マクギリスは、考えた。

(ってことは、カルナックさまも普通の人間みたいに食べたり飲んだりしたこともあるの?) 


         ※


「さて本題に入ろう」

 カルナックさまは何事もなかったかのように表情を引き締めて言う。


「アイリスの『魔力栓』対策を、早いうちに話し合っておくべきだろう。このままでは成人を迎えることはできないだろうからね」


 その言葉に、お父さまとお母さまは顔色を変えた。

 エステリオ叔父さまは、動じてない……ことは、なかった。

 テーブルの上で握りこんでいる両手のこぶしが、細かく震えている。


「それほどに深刻なのでしょうか!」

「アイリスは私たちの天使です。大切な宝です。なんとかなりませんでしょうか」


「心配いりません。早急に治療を始めればいいだけのことです」

 カルナックさまは、にこやかに笑った。

「我々、魔道士協会に。この『漆黒の魔法使いカルナック』に、全てお任せください」


 ……おかしいなあ。

 こんなに頼もしそうなのに、怪しいわ!

 女子高生だった前世で見た深夜TVの通販番組を連想しちゃう。


 でも、お父さまもお母さまも、エステリオ叔父さまも、カルナックさまとコマラパ老師さまを信頼して、すがるような目を向けている。

 そうよね、お二人以上に頼りになる人は、きっと、いないわよね。


「大丈夫です、よき医者の心当たりがございますゆえ」


 コマラパ老師さまの肩には、さっきカルナック様を呼び寄せた魔法陣を使ったときに現れた、小型の青いドラゴンが、まだ乗っている。

 青い目を瞬いて。

 ちゃっかりと、という表現がぴったりの。いたずらっぽい表情だ。

 カルナックさまのおっしゃるには、コマラパ老師さまに加護をくださっている竜神さまの分身、なのだそう。


「若いが有名な魔法医師、アンティグア家のエルナト。エステリオ・アウルもよく知っている人物だ」



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