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転生幼女アイリスと虹の女神  作者: 紺野たくみ


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第2章 その19 カルナックさまと朝食を

         19


 ……あれ(カルナック)をこの世界につなぎ止めるものは、今や、そう多くは残っていないが。


 肩をすくめ、コマラパ老師さまは、少しだけ寂しげに微笑んだ。


「でも、コマラパ老師さまがいるわ!」

 あたしったら、思わず口に出してしまってた。

「老師さまは、カルナックさまと、ずっといっしょにいたのでしょ? だったら、カルナックさまだって、きっと、そんなには、さびしくないわ」


 ああ、しまった。

 いまのは、

 三歳幼女らしくなかったかもしれないわ!


「……きっと。そうだもの」

 自信はないけど。


「……確かに」

 コマラパ老師さまの顔に、柔らかな笑みが浮かんだので、あたしはとりあえず、胸をなで下ろした。


「ところで老師。我が家へはどのようにしていらしたのでしょうか。『魔力診』の夕べのときのように馬車が到着した様子もなかったし先触れなどもありませんでしたので、不思議なこともあるものだと……」

 尋ねたのはエステリオ叔父さま。


 お父さまとお母さまは興味がありそうだけれど、口を挟まない。魔道士協会の第二位、老師さまだ。我が家よりも遙かに格上の相手なのだから。


 あたしは三歳幼女なので、大目に見てもらっています。コマラパ老師さまからお声をかけていただくのはかまわないのです。


「ああ、牛乳配達の荷車に乗せてもらったのさ」


 え? ちょっと待て。

 牛乳配達? 荷車?


「郊外の牧場から、上流、中流階級の各家庭には毎朝、新鮮なミルクと卵、野菜が届けられている。そのほかにも、町中の家々をめぐって歩く行商人たちがいる。彼らとは昔から『つなぎ』があってね。魔道士協会を出て市門で拾ってもらったのだ。ただまあ、少しばかり早く着きすぎてしまってね、そこらを散策して時間をつぶしていたのさ」


 前世で死んで、異世界に転生してまだ三年と少ししかたっていない、あたしだけれど。

 コマラパ老師の行動はエルレーン公国において『魔道士協会の副長』とか、身分の高い人がすることとしては普通じゃないってことは、わかるわ。


 どっちかっていうと、あれね。

 前世のTVで見たことのある、ちりめん問屋のおじいさんが全国を回って世直しをする……みたいな。


「おや、驚いているようだが、おかしいかの?」


「いいえ。老師らしいといえば、とても、らしいですね」

 エステリオ叔父さまは、苦笑した。

「カルナック様ともども、型破りな方ですから」 


 そのときだった。


『おや、だれか私の噂をしたかい?』


 聞き覚えのある、きれいな声がしたと思うと、コマラパ老師の傍らに、漆黒のローブを纏った背の高い人物が、ふいに現れたの。


「ええっっ!? カルナックさま!?」


 ……いやちがう。

 カルナックさま、そのものじゃ、ない!?


 感じる。……遠い……?


 そうだわ、それに。

 音が。しない。

 カルナックさまが現れるときにいつも聞こえる、あの、鈴の音が。


『あたりだ、アイリス』

 カルナックさまが、にやりと笑った。


『そこへやったのは私の投影像だ。これでもかまわないのだが、話し合いをするには、まだるっこしい。誘導しろ、コマラパ。おまえが私のアンカーだ』


「やれやれ。年寄り使いが荒いわい」

 こう言うと、コマラパ老師は席をたって、食堂の入り口近くに行く。


「ではまあ、アイリス嬢ちゃんにも見せておくか。ひさしぶりに本式でな」


 青と白の光がコマラパ老師を包む。

 光は、ゆるりとほどけて、小さなドラゴンの姿へと変わった。

 コマラパ老師の左上腕くらいの大きさで、小さな翼を広げて、ぱたぱた羽ばたく。

 竜はコマラパ老師の左肩に爪を立てて、口を開く。

 

『幼き弟子にして我が眷属なるコマラパ。やっと儂の出番か! 久しぶりじゃな! おまえは出し惜しみするのが残念じゃ。もっとどんどん我が加護を使うがいい』


「これも年長者の務め。後の世代の幼子に手本を見せねばなりませんでしょう」


 コマラパ老師は、杖は持っていない。

 そのかわりに、左手首に、透き通った石でできているみたいな、幅広のブレスレットと、右中指に白い指輪をしている。その二つのアイテムが、光を帯びている。


「我が師、青き竜神カエルレウム・ドラコー。尊き御名をたたえ、我は願う。虚ろ空に道を刻み記し照らし出せ」

 コマラパ老師の緑の衣が、ふわりと持ち上がって。

 床に、直径2メートルくらいの円が現れ、輝きを放ち始めたの。

 

『ああ、やっと道が見えた。いま行くよ』


 聞こえた、次の瞬間。


 リィィィィン……


 空気が、震えた。


 シャン!


 銀の鈴の音がした。

 


 次の瞬間。

 円の内側、つまりコマラパ老師が佇んでいる、すぐそばに、カルナック様は現れた。

 いつものように、最初に見えたのは白いつま先が床に着いたところ。続いて、小さな銀の鈴を連ねた華奢なアンクレットアンクレットをした足首がのぞいて。

 そして宵闇のように、漆黒の衣が降りてくる。


 ああ、これこそまさにカルナックさまだわ。


 下のほうだけ緩い三つ編みにした、足もとまで届く艶やかな長い黒髪。楽しげな笑みを浮かべた薄い唇。水精石アクアラのような青い光をたたえた瞳。

  


「待たせたね! 年下の恋人ができてリア充な私だよ! 年下はいいぞ~、丈夫で長持ちしそうだし。元気すぎて夜も寝かせてもらえないのには困ったものだがね」

 得意満面な表情で。


「来て開口一番の台詞がそれかい!」

 コマラパ老師は、懐からハリセン(みたいなもの)を取り出して、目にもとまらぬ速さでカルナックさまの頭を、思いっきり、しばたいた。


 すぱーん!



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