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転生幼女アイリスと虹の女神  作者: 紺野たくみ


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第9章 その27 月宮ありすの記憶

       27

 

 あたしは、ありす。月宮有栖。

 21世紀の東京、吉祥寺に住んでいた、平凡な女子高生。……たぶん?


 特に変わったことはないわ。

 中学生のとき親友のサヤカとアイドルデビューしてアルバム出してコンサートはしてたけど、それくらいかな。

 十五歳で交通事故にあって死んだの。

 そして転生したのは、蒼き大地ティエラ・アスールと呼ばれる、この《世界セレナン》。


 今世のわたしは、アイリス・リデル・ティス・ラゼル。

 精霊の加護を受けるこの世界『セレナン』に『ヒト』の築いた数々の国のうちでも千年の長きにわたり繁栄を享受してきたエルレーン公国に、首都シ・イル・リリヤの豪商ラゼル家の跡取り娘として生まれた。

 ……前世の記憶を持つ『先祖還り』として。

 ときどき、そういう子どもが生まれるみたい。

 教えてくれたのはお父さまの弟のエステリオ・アウル叔父さま。

 叔父さまも『先祖還り』なのだって。

 それはここではない世界、虚空の果ての『古き園』……遙か太古に滅亡した『白き太陽ソリス』のもとに栄えていた『地球』で生きて死んだ記憶があるヒトたちのこと。

 成長していくうちに前世の記憶を忘れていく例が多いらしい。わたしは忘れなかったけれど。

 ときたま、自分はなんだろうって考えていた。

 あたしは……月宮アリス?

 それとも、わたしは……アイリス・リデル?


 優しい両親、エステリオ叔父さま、まわりの人たちに愛され甘やかされて育ったわたし。

 精霊を見て会話できる『天与の才』に恵まれたおかげで、風のシルルと光のイルミナ、水のディーネ、地のジオが守護妖精(guardian fairy)になってくれた。ちょっと過保護かもしれないくらい、守ってくれている(ちなみに、後に、わたしが四歳になった時、守護妖精たちは、守護精霊(guardian spirit)に進化した。)


 三歳で迎えた『魔力診の夕べ』……親戚の人たちを招いて行う晩餐会で、ちょっとした事件が起こった。

 招待客の中にいた遠縁の青年が、怪しい『存在』に植え付けられた『悪意』の種の影響で、おかしくなって、刃物で切りつけてきたの。

 また死ぬのか、と、わたしは諦めてしまった。

 そのとき、エステリオ・アウル叔父さまが通う『公立学院』のコマラパ老師さまと学長であり『魔導師協会』の長であるカルナックさまが助けてくれた。

 わたしたち家族の、命の恩人。

 それ以来『魔導師協会』にはものすごくお世話になっている。


 叔父さまの親友で魔法を使うお医者さま、エルナト・アンティグアさまを派遣してくださったうえ、カルナックさまの二頭の従魔『スアール』と『ノーチェ』を貸し出してくれたり、メイドとして、カルナックさまの護衛役をしているサファイアさんとルビーさんを遣わしてくれたり。


 誰にも言わないけれど、

 わたしの前世の記憶は、まだ、ほかにもあるの。

 ニューヨークに住んでいた25歳のOL、イリス・マクギリス。

 地球という文明の終焉に立ち会ったAI ……人類保護管理プログラムだったシステム・イリス。

 今は、カルナックさまが多重意識を整理して封印してくれたから、混乱は少ないのです。この封印は、よほどの危機的状況になったらとけるって。そんな危機に陥りたくはないなあ……。


 四歳九ヶ月の年越しの祭りには『極東』と呼ばれている遠い国……正式名称は『扶桑ふそう』……からやってきた双子のパオラさんとパウルくんを我が家のお客さまとしてお迎えすることになったり。


 五歳の三の月に迎えた『代父母の儀』では『代父母』だけでなくエルナトさまと妹のヴィーア・マルファさまも、『義理兄、姉』として、ご一家で、いざというときの後ろ盾となると申し出てくださって、それ以来、家族ぐるみのお付き合いをさせてもらっているの。


 いろんな出会いを経て、すくすく育った、わたし。

 だけど順調なときこそ、トラブルはつきものなのか。

 六歳になったことを祝う『お披露目』の晩餐会で、それはもう大変な事件が起こった。


 引退して郊外に住んでいた『ラゼル家の先代当主』ヒューゴーお爺さまは、お父さまと仲が悪くて、お披露目の晩餐会に招待していなかったのに、強引に押しかけてきた。

 それが発端だった。

 お爺さまは、お父さまを当主の座から追い落として自分が当主に返り咲くために、恐ろしい『忌名の神』に生け贄を捧げる儀式を行おうとしていたの。

 そのために何年も前から仕掛けていた『円環呪』という装置で、ヒトの生命力や魔力を奪って、災厄の神に捧げて……

 大切な家族も、屋敷の人たちも、招待客も含めて、生命の危機に陥った。

 カルナックさまとコマラパ老師までも。

 このとき『守護精霊』たちは《世界》の深い階層まで潜って……それは精霊たちにとって存在を危うくする危険な行いだった……《世界の大いなる意思》に助けを求めて……《世界》が応え、精霊族のレフィスとラト・ナ・ルアが来てくれたおかげで、みんな助かった。

 このとき、わたしの意識の深層に眠っていたシステム・イリスが目覚めてくれて、忌名の神と対峙してくれたからでもあるのだけれど。


 お爺さまは事件の後で死体になって見つかった。死体はひからびていて、ずっと前に、すでに死んでいたのだって聞いた。真実はまだ、全て解明されてはいない。


 わたし自身も、がんばったけれど、いま、生きているのは、まわりの人たちに助けられたおかげ。

 それを、あらためて自覚した、わたし、アイリスなのです。


           ※


 ところで、わたしがこれまでのことを振り返っていたのは、サファイアさんとルビーさんに、新たな魔法を覚えるための特訓を受けていて気を失った、ほんの刹那のことらしい。


 というのは、ほら、もうじき目覚める、わたしの耳には。

 カルナックお師匠さまがサファイアさんとルビーさんを叱っているのが、聞こえてきたから。


           ※


「様子を見にきてみれば、このざま! サファイア。どうしてアイリスが倒れている。それに、飛行機械の開発は私がグレアムに言って止めたはずだけど? この文明にはまだ早い。危険すぎる」


「お、お師匠さま。だけどサウダージは、いえ『セラニス』は、人工衛星を、『魔眼の瞳』を周回させているじゃないですか」


「この社会はまだ、これを扱う段階じゃない。セラニスは、自分は監視衛星を飛ばしているくせにサウダージ政府には技術を渡していないんだ、知らなかっただろう? あれでも戦争の火種に自分がなるのは避けたいんだよ。ふふ、そんな事態になったらセラニスといえども《大いなる意思》によって地表から弾き飛ばされて強制終了だからね。それが《世界》とヒトとの約束の一つだ。あとでおさらいしておこうか」


「そんな……じゃ、これは禁止事項……」


「まったく、信頼して任せていたのは間違いだったかな。サファイアの暴走を止めるストッパーは君だったと思ったけどね、ルビー」


「すみませんッ!」


「私に謝ってもどうしようもないよ。被害をこうむったのはアイリスだろ? ふう、サファイア。君は300年も前にサウダージを出たんだ。あの国の、神秘も魔法も科学の目で解析しようとする傾向は、もう忘れなさい。アイリスが魔法の『目』を習得するのは、私が指導するよ」



 ……300年前?

 サウダージ出身だって、そういえばサファイアさん言ってたわ……



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