表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生幼女アイリスと虹の女神  作者: 紺野たくみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

302/363

第8章 その23 お家に帰りたい

         23


 あたしはアイリス・リデル・ティス・ラゼル。

 生まれ育ったエルレーン王国首都シ・イル・リリヤを離れて青龍さまたちが統治する『水底の異界』に、護衛のサファイアさんと共に留学という名の「放流」をされてから、しばらく? いや、もしかしたらずいぶんな日数が過ぎている気がするの。

 カルナックお師匠さまに忘れられてやしないかって、不安にもなろうというものよ。

 つまり、修行を始めてから、けっこう日数が過ぎていないかしらってこと。

 そろそろ何か進展があってもよくない?


 そんなとき、あらわれたのは……空を翳らせる、大きな、翼を持つ生き物の姿だったのです。


「ひさしぶりに帰省してみれば! アルナシル! 義理の弟よ、あんたカルナック様のお客人に、失礼を働いているってこと? きっちり説明していただける?」

 怒りの声が響いた。


 ゆっくりと翼をはためかせながら舞い降りた純白のドラゴン。

 鋭い蹴爪を地面にたたき付けると、地が揺れて、深い穴が開いた。


「おいおい流血沙汰は勘弁してくれよシェーラザード! どうどう!」

 男の声が降ってきた。

 純白のドラゴンの背に乗っていた中年男性が、おっとりと声をかけて、白いドラゴンの首の後ろのほうを撫でた。そのおかげで緊迫した空気が僅かながら和らいだのだった。


「シェーラザード姉さま! ランギ!」

 青竜さまのお弟子である、子どもたちが歓声をあげて、降り立った白竜の足下に駆け寄った。


 ドラゴンは、ぶるっと身震いをした。

 すると、「うわああ!」叫び声と共に、背中から男が落ちてきた。

 落下した男は

「ったく、俺の扱いが雑になってんじゃねえか?」

 腰をさすりながら、ぼやく。

「うふふ。いいのよ、ギィは、あたしのものなんだから」

 白いドラゴンは男に鼻先を擦り付けて、くすす、と、笑った。

 次に背筋をのばして、くるりと一回転する。胸もとで光っている首飾りの青い石が光を反射してきらめき、しゃりりと音を立てた。

 次の瞬間には、純白のドラゴンの姿はどこにもなかった。

 同じ場所に立っているのは、透き通るような白い肌をした、背の高い、一人の若い娘だった。


 力強い表情と、くっきりとした眉、濃い青の目。

 背中に流れ落ちるまっすぐな純白の髪に、鮮烈な青色の房が半々に混じっている。

 たおやかに微笑を浮かべれば、二十歳にもならない、楚々とした麗しい令嬢そのもの。

 

 それこそが、まさに、この聖域を統べる二柱の龍神の愛娘、竜の姫君、シェーラザード。


 人の姿への変転を終えた彼女は、両腕を広げている青竜と白竜のもとへ駆け寄って、腕に飛び込んだ。

「ただいま! お父様、お母様」


「おお、シェーラザード! お帰り」

「無事な顔を見て、安心しましたよ」

 青竜と白竜は、安堵したようだ。

「ギィもお役目ご苦労さま」

「我が子ながら、見守りは大変だったでしょう」

 従者であり現世での保護者、ギィこと、ランギへの気遣いも忘れない。

「いえいえ、恐れ多いお言葉、痛み入ります。感謝こそすれ、困ることなど微塵もありません」


 そしてこの『水底の異界』に住んでいる『幼稚園児たち』、もとい弟子たちは、大はしゃぎだ。


「シェーラザード姉さま!」

「外はどうだったの」

「変なやつ、いた?」

「もちろん大丈夫だよね、ギィおじさんもいるし」

「姉さまなら、すぐやっつけちゃうよ」


 今、ここでどんより暗くなっているのは、アルナシル王、ただ一人である。

 ギィおじさんは、「すまんが俺にはシェーラザードとの仲直りは取り持ちできねえんで」と、王の前を通りすぎ、サファイアとアイリスという知己の顔を見つけ、ほっとしたように、片手をあげて挨拶をする。


「よう、サファイアさん、元気してるか。お嬢、ここの暮らしはどうだい」

 とまあ、こんなものである。

 自分が庶民代表だという自覚があるのだ。王侯貴族なんてめんどくさいものには、近寄りがたい。たとえそれが、シェーラザードの姉であるシエナの婿、アルナシルであっても。


「助かりましたわ、ランギ。わたしもちょっと、短気なところを見せてしまいそうだったもので……」

 サファイアは肩をすくめる。

 みなまでは言わないが、それなりにランギは察した。


 そして、アイリスは。


「ギィおじさん! あたし、おうちに帰りたい!」

 懐かしい顔を見て、思わず、本音がだだもれてしまったのだった。


 これまで、慣れない『異界』の暮らしに、懸命に順応してきたぶん、反動が出てしまったのだ。


「ごめんなさい、サファイアさん。あたし、わがままだわ。言っちゃいけないって思ってたけど……お父さまお母さまは、エステリオ叔父さまは、パオラさんとパウルさんは、おうちの、みんなは……どうしているのかしら、って……ずっと、ずっと……」

 ふいに、気が緩んで。感情が、押さえられない、アイリスだった。


「わがままなんかじゃないわよ、アイリスちゃん」

 サファイアはアイリスの背中をゆっくりと撫でた。


「だって、あなたは、まだ小さいんだから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ