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転生幼女アイリスと虹の女神  作者: 紺野たくみ


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第8章 その19 たまや~、って、なんだったっけ?

         19


「思いつきました! アルナシル先生、あたし、先生にすてきなものをお見せします!」

 あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは、嬉しくなって声をあげた。


 思い出したのは、お祭りの夜に見た、打ち上げ花火のこと。


 さっき、うっかり全力で放ってしまった『純粋な』魔力。

 まだ、なにものでもない、かたちを持たず、どんな性質にも偏らない透明な力。

 だから、

 なんにでも、なるんだと、アルナシル先生は笑った。


 アイリスは、ご期待にこたえてみせます!


「まずは、強くイメージすることだ」


「はい! 先生」


 ひととき、目を閉じて。強く強くイメージするの。

 この世界セレナンに生まれ変わった今生で、あたし、アイリスが見た『花火』は。


 エルレーン公国の首都シ・イル・リリヤで、毎年行われる五月祭でのことだった。

 五月一日から三日の間。

 大公さまのお城であがっていた大きな花火を、お父さま、お母さま、エステリオ叔父さまと一緒に(もちろん護衛のサファイアさんとルビーさんも一緒)我が家のベランダから見たの。


 真っ暗な空に、みごとな花火が開いたのを、いつまでもながめていたよね。

 忘れられない大切な、家族の思い出。


 イメージして。

 強く、もっと鮮やかに。

 そう念じていたら、ふいに、あたしの中の、どこかの『扉』が開いた。


 うわあっつ!

 やばいやばいやばいやばい!


 何これ、見えすぎるよ!

 前世で見た花火の記憶が刺激されたみたい。


 いくつもの画面モニターが開いた!

 上下左右に、鏡合わせかってくらい、同時にですよ!


 うわ、まわり中が……花火っつ!


 あたしは自分がどこにいるか、わからなくなった。

 浮いているの?

 落ちているの?

 のぼってるの?


「アイリス嬢! 行き過ぎだ、戻れ!」

 アルナシル先生の声が、耳を打った。

 あ、手首をつかんでますね!?

 温かい……。

 確かな感覚。

 それが、あたしをつなぎとめてくれた。

 目を開いた。

 息をのんだ。


「ありがとうございます先生」

「気をつけろ。イメージが大事だが『落ちるな』深く潜りすぎるなよ」

「はい」

 仕切り直しです。


 ところで、前にも少し説明したと思うのですが、

 ここ、青竜さまの統べる『水底の異界』では、夜は来ないの。

 異界の空間をすっぽり覆う天蓋は、外界で太陽が昇ってくれば明るくなるし日が沈めば暗くなるけれど、闇に包まれた夜がやってくることは、ないのです。


 なぜかって、ここは常に青竜さまと白竜さまの『力』に満ちているから。エネルギー力場が発光する。

 ……って聞いたけど、アイリスには、よくわからないの。


 それはさておき。

 今は午後で、明るい光に満ちているから、花火を映えさせるには、背景が暗くないとね。

 なので、


「夜空に大輪の花を咲かせてごらんにいれますわ。天空高くのぼり刹那に開き、輝きを放つ光の花を」

 

 魔法らしく聞こえるように言葉を選んで、紡ぐ。

 さあて、まずは花火が映えるように、暗幕をひかなくちゃね?


「光を押しやる、ひとときだけのとばりよ開け! blackout curtain」

 もっともらしく言ってみる。

 とたんに、空に、暗幕(blackout curtain)がひかれた。

 暗くなったのです。


 アルナシル先生とシエナさま、あたしの同級生である子供たち、青竜さまと白竜さまは、息をのみ、ついで、歓声をあげた。

「すっげええ! 暗くなった!」

 声が大きいのは、やはり君だね、青竜さまの小さなお弟子の中でいちばん元気のいいカルミッドくん。


「驚いていただけました? けれどこれはただの準備なのです。さあ、みなさん、みてみてね! 『万雷』『大玉』『しだれ菊』よ!、開け!」

 言ってから、盛大に後悔した、あたし。

 絶望的にネーミングセンスないことに気づきました!

 

 だけど名前はどうであれ、効果が出れば問題ないよね!

 ほら、こんなふうに。


 ひゅるるる……

 ぱぱぱぱぱぱ!

 どどーん!

 

 やっぱり音もついてきた!

 ですよね~。

 花火と打ち上げの音はセットですよね。


 続いて、暗い空に光の花が、いくつもいくつも開いた。


「うわああ! すっげー!」

 子供たちが歓声をあげた。

 大騒ぎだね。


 あたしはというと。

 急に、体の力が抜けてきた。

 あれ、暗い……?

 目が、あけていられなく……な……って……きて


 ああ、そうそう。言い忘れてたわ。

 打ち上げ花火といえば。


「たまや~」

 あたしは、ぼそっとつぶやいた。

 この単語って、なんだったけ?

 などと、ぼんやり考えながら……


 意識を、手放した。



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