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第8章 その10 ちょっとセノーテまで、おつかいに

         10


「お師匠様! わたし放流されるんですか!? 」


「君はサケの稚魚じゃないだろう?」


「サケでもウナギでもないです! 稚魚でもないです!」

 あくまで冷静でゆとりたっぷりカルナックお師匠さまと焦りまくってるサファイアさんの即興コントを、あたしは暢気に眺めていたわけなのです。

 すると、お師匠さまが、こちらに注意を向け、笑みを浮かべた。

 なぜかしら、笑顔が怖いです。


「アイリス、もちろん、きみもサファイアと一緒にセノーテ(聖なる泉)にある異界に、おつかいに行ってもらう。これは決定事項で、覆ることはない」


「え……」


 取り付く島もないって、きっとこういうことね。

 あたしはただ決定事項を告げられているだけなのだ。

 だけどがんばってみる。

 だって、あたしはまだ六歳だもん!

 サファイアさんが一緒なのは心強いけど、おうちを離れて遠くへ修行にいくとか、ないわー!


「お師匠さま! あたしはお披露目が終わったばかりだもの、遠くにおつかいなんて、お父さまとお母さまが心配するわ、それにエステリオ叔父さま、ティーレさんだって」


 がんばって抵抗を試みる。

 外国で修行とか、六歳幼女のあたしには、早すぎない!?


「大丈夫だ。竜たちの治める『異界』で何年暮らそうが、こちら側の通常空間に戻ったときにはいくらも経過していない。その逆もあり得るが、そこは竜たちの裁量でどうにでもなるのさ。それにエステリオだが、きみがこちらに戻ってきてから顔を見せておやり。それですべてはうまくいく」


 お師匠さまが、ひらりと、身をひるがえした。

「では、今すぐに出立しよう」


 シャン、と。

 お師匠さまの足首のアンクレットについた鈴が、小さな音を立てた。


 すると……お師匠さまの足もとに、銀色の輪が!

 地面に描かれていたらしい銀色の魔法陣が、浮き上がってきたの。


 息をのむ音。あたしと、それからサファイアさんの。


「えっつ!? カルナックさま、これは!?」


「転移魔法陣ですよね!? ここには設置してなかったですよねお師匠様」


「おや二人とも、何を今さら。私を誰だと思っている」

 くすっとお師匠さまが笑う。


「私自身が、魔法陣そのものなんだよ」


 なにそれ……

 お師匠さまが有能チートすぎてこわいです。


 いやホント、今さらですけども。


「さあ行くよ! 向かうのは青竜の統べる『水底の異界』だ。大森林の中にある。なじみはないかもしれないが、青竜と白竜は、シェーラザードの両親だからね。こころよく迎え入れてくれると、返事はもらっているから」


 お師匠さま、いつの間に連絡とってたんですか!?

 まさか、あたしがこの広間を破壊しちゃうとか、前々から予想していたのでは……!?

 こわい、こわすぎる!


「ちなみにこの転移魔法陣は特別だから、保有魔力が通常より桁違いに大きい者にしか反応しない。乗れるのは私とコマラパと、サファイア、ルビー、それにアイリスくらいだな」


「あの、エステリオ叔父さまは……」


「ん? 微妙かなあ。普通よりは多いから、ぎりぎり、いけるかも?」

 首をかしげて、お師匠さまは、にやりと。いたずらっ子のような笑みを浮かべる。

「エウニーケは、別枠だけどね」


 聞かなかったことにしよう! なんか面倒くさそうだもの!


 カルナックお師匠さまの足もとに展開している魔法陣が眩い銀色に光って。

 あたし、アイリス、それにサファイアさんは、強制的に巻き込まれたのです。


         ※


 ……というわけで、今に至ります。


 お師匠さまに連れられて、大森林の真っただ中、セノーテにある水底の異界に到着した途端、出迎えてくれた青竜さまと白竜さまに大歓迎されました。

 そうかあ、おふたりはシェーラザードお姉さまのご両親なのね! 優しそうだしすごくフレンドリーで、ほっとしたわ。


 それはいいのですけど。


「じゃあ弟子たちをよろしく頼むね~」

 なんて、軽く言って。

 カルナックお師匠さまだけ、先に帰っちゃった。


 あたしと、サファイアさんを取り残して。


 転移魔法陣で連れてこられたから、帰還手段は皆無。

 お師匠さまが迎えにきてくれるのを待つしかない!


「もう、こうなったら、竜神さまがたに師事するしかないですわ、アイリスちゃん」

 サファイアさんも、決意をかためたようでした。

「がんばって、強くなりましょう! そしてお師匠様を見返すの!」


「はい!」


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