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転生幼女アイリスと虹の女神  作者: 紺野たくみ


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第7章 その22 生まれた時から決まっていたんだ

         22


 招待されていないにも関わらず押しかけてきた迷惑な客、自称ヒューゴー・ラゼル老人が、警備のために館に詰めていた魔法使いのうちでも武闘派である特別警戒班に引き立てられていったので、子ども部屋にいるアイリスたちは安堵の息をついた。


 しかし、そのとき。


 シャン、と、鈴の音が響く。

 黒衣をまとう長身の人物が姿をあらわした。

 美しい青年である。

 抜けるように白い肌に映える長い黒髪、瞳からは夥しい魔力にあふれていることを示す青い光があふれる。


「カルナックさま!」

 アイリスが、声をあげる。


「お師匠様!」

「師匠!」

 カルナックの厳しい表情を見たサファイアとルビーに緊張が走る。

 

「やっとあちらの会場を抜けて来たんだがね。こちらは少しばかり面倒な状況になっているな」

 眉をひそめた。

「サファイア、ルビー。まだ警戒が必要だ。先ほどエルナトたちが捕らえた者はヒューゴー本人ではない」


「え、そんなことってあるの!?」

 驚くアイリス。


「残念ながら、ままあることだ。やあ、しばらくぶりだねイリス・マクギリス嬢。ちょうど良かった。君に出てきてもらうくらいには、危機的状況だよ」


「なんでわかるのかしら!」

 一目で中身が違うと見抜かれたイリス・マクギリスは、口を尖らせる。前世が二十五歳のキャリアウーマンだと主張するわりには、子どもっぽい表情だった。


「私を誰だと思ってるんだ?」

 楽し気な笑みを浮かべるカルナック。


「ヒューゴー老、本人は安全な場所にいて、身代わりの肉体を操るくらいするだろう。このエルレーン公国では禁じられている手段だが」


「え、クローン……」

「義体っすか?」

 思わず口走ったサファイアとルビー。


 カルナックは「二人ともSFの読みすぎだ」と笑う。

「魔法の一種だよ。サウダージの技術だ」


「サウダージでは……」

 それに続く言葉を、サファイアは飲み込んだ。サウダージ共和国で生まれ育った彼女は、そこでは魔法が禁じられており、ほかの国では失われて久しい『科学技術』が発達していること、クローンも行われていると知っているが、今、この場で口にするべきではないと判断したのだ。

 何よりも今夜、お披露目の晩餐会にのぞむアイリスに、必要以上のマイナス情報は与えたくない。


「やっぱりヒューゴー老はサウダージと繋がってるんで?」

 と、ルビー。


「それだけではない。昔から、怪しげなコネだらけだよ。把握した上で泳がせていたんだが、ヒューゴー老からすれば、我々には情報が知られていないと思っているだろう」


 カルナックの笑みが、一段と、深くなった。


「ふふふ。そろそろ、刈り取り時かな」


「こわいわ~!」

「お師匠の笑顔が怖いっす!」


「ところで、もう一つ案件があるんだよね」


         ※      


「エステリオ・アウル! エルナト! 来なさい」

 呼び声に応えて、


「はい! お師匠様」

「この不詳の弟子に何でもお申し付けを」

 すぐさま、エステリオ・アウルとエルナトが姿を現す。エルナトの返答は大公家の縁者である大貴族という身分を思えばいかがなものか。

 しかし二人の足もとに影は落ちていなかった。ここに現れたのは投影像であり、彼らの本体は子ども部屋の扉の前にあり、周囲への警戒を怠りなく続けているのだ。


「あちらの様子はどうでした、お師匠様」

 エルナトは、あちらとは何処のことかなど具体的な内容には触れずに尋ねる。


「相変わらずだよ、うさんくさい奴らが大勢詰め掛けていた。だから公的な場所はイヤなんだ。ま、私はもういいんだけどね。担当を代わってもらったから」

 カルナックの表情が明るくなる。


「代わってもらったって……」

 誰に、と言いかけたルビーは、青い顔をしたサファイアに止められる。

「ダメよルビー。触らぬナントカに祟りなし!」

「いやいや、それ、むしろモロバレだろ」


「ごちゃごちゃうるさい。そうだよグラウケーに代役を頼んできたよ。いいだろ、私にとっては実家のオバちゃんみたいなもんなんだから」


(オバちゃんて)

 アイリスの中のイリス・マクギリスは、危うく吹き出しそうになって、けんめいに堪えた。

 精霊の中の精霊、グラウケーもカルナックにとっては叔母のようなものだという。考えてみればそうかもしれないとイリスは納得した。


「エステリオ・アウル。笑いごとじゃないからね。君、まだアイリスに正式に申し込んでないだろう」


「え! お、お師匠様、今ですか!?」


「今やらなくて、いつやるんだい?」

 カルナックは人の悪い笑みを浮かべていた。


「いくら生まれたときからの許婚でも、プロポーズはしとこうね?」


「うわあ! お師匠様やめてください! アイリスの前で!」

 エステリオ・アウルは、顔が真っ赤になっている。


「はい? え? なに?」

 突然、自分の名前が話題にのぼったので驚き困惑するアイリス。


「ちょうどいいから、ちゃんと整えておこう。アイリス、君の許婚を紹介しよう」

 カルナックは、大仰な仕草で、手をかざす。

 逃げ出そうとしたエステリオ・アウルの肩を、エルナト、サファイア、ルビーが抑えた。

 パオラとパウル、シロとクロも寄ってくる。


「エステリオ・アウル・ティス・ラゼル。彼が、君の許婚だよ。アイリス」




「はいいいいいいい~~~~~~!?」



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