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転生幼女アイリスと虹の女神  作者: 紺野たくみ


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第7章 その21 ご隠居、退場

         21


「あのバカ! なんで出てくるんだよ」

 エステリオ・アウルが予定にない登場をしたことでルビー=ティーレは焦っていた。

「子ども部屋の前に転移魔法陣があるってことも、ジジイにバレちゃったじゃないか!」


 しかしサファイア=リドラは暢気に構えていた。

「だ~いじょうぶよぉ。くそジジイ、気がついてないわ。エウニーケさんの対応も完璧だし、エステリオ・アウルの挑発に気を取られてる。ただローサちゃんのことが、ちょっと心配だわ」


 リドラとティーレはエステリオ・アウルの誘拐事件を調査しているときヒューゴー老の事情聴取もしている。彼の人となりについても掌握しているのだ。


「それにしても、アウルったら。せっかく陰でいろいろ工作できるように姿を隠していたのにねえ」

 サファイア=リドラは楽しそうに笑う。

「エステリオ・アウルってほんと、バカだけど可愛いわ。アイリスちゃんを護りたくて隠れ場所から出てきちゃうなんて、乙女心が胸キュンだわ~」


「アンタが乙女って自称するの違和感あるよ……だいたい実年齢いくつだ」

 

「やだ、それ言う? 実年齢には触れないでよ。お互い痛い話題だし」


「……そうだな」


 子ども部屋の扉の外ではエステリオ・アウルとヒューゴー老が対峙していた。メイド長エウニーケは背後にローサを庇いつつ、老人の動向を冷静にうかがっている。


 ヒューゴー老はなおも食い下がる。

「招待状などいらぬだろう。初孫が無事に六歳になった祝いの披露目、晩餐会に参加するのに許可がいるというのか。別居して以来、愛する息子のおまえにも会えなくなった哀れな老人に、かわいそうとは思」

  

「かわいそう? 一方的に我が家と絶縁して出て行ったのは、あんただ。ラゼル家とはかかわらないことを大公殿下より書面で命じられた上で。それなのに、懲りずにまた商売など始めたと聞き及んでいますが。ラゼル商会会頭であり、ラゼル家当主であるマウリシオ兄さんに迷惑をかけないでいただきたい」

 正面きって老人を睨み付ける、エステリオ・アウル。

 愛する息子と言われたことについてはスルーした。聞かなかったことにしたようだ。


「わしに初孫を抱かせてはくれんのか」

 哀れっぽい様子でうなだれて見せるヒューゴー老。


「何度言われても、アイリスへの接見は断固、断ります」


 このやりとりは子ども部屋の厚い扉の向こう側で行われているのだが、サファイアとルビーは館に配置されている魔法使いの『目』と『耳』の共有機能で、委細漏らさず、しっかりとつかんでいた。

 二人とも興奮が止まらない。

 心情的には扉を開けて出て行ってヒューゴー老をぶっ飛ばしてやりたい。

 だがカルナック師匠から直々に、アイリスの護衛を使命として託されているからには、持ち場を離れることは絶対にできない。

 扉のこちら側でアイリスの傍を離れず、ハラハラしながら動向をうかがっている二人だった。


 エステリオ・アウルとエウニーケに対し『孫に会いたいかわいそうなじいじ』を装ってはみたものの、通用しないことを悟り、ヒューゴー老はしだいに機嫌が悪くなり、語気を荒げてきた。


「そこの下働き! 主人であるわしに従え! 子ども部屋に入ってアイリスを連れてこい」

 狙いをつけた相手は、ローサだった。


「そんなこと、しません!」

 ローサは口では気丈に反論したが、身体がこわばり、自分の意思に反して動こうとしてしまう。必死に抗っていると、エウニーケが助け舟を出す。


「解呪!」

 空気が、ぴしりと音を立てた。


「な! 解呪だと!?」

「雇用契約に関しては、このわたくしに一任をいただいておりますもので。ところであなた様は、いったい、どなたでいらっしゃいますの?」


「なんだと」


「外見は、当家の引退して郊外で余生を過ごしておられるヒューゴ様にそっくりですけれど。隠居とはいえ、ヒューゴ老様ともあろうお方が、息子夫婦に、まして可愛い孫娘のお披露目の晩餐会に、水を差すようなことを、なさるはずがございませんわ!」


 実際にはヒューゴー老人に間違いないことなどエウニーケは百も承知だった。そのうえで、ばっさり切り捨てるつもりで動いている。


「そういうわけですから。魔法使いの方々に、警戒をお願いしていますのよ」


 ヒューゴー老の両脇に、二人の人物が現れた。屈強な男たちである。

「我々は特別警戒班だ。招待されていない人物が狼藉を働いていると知らせを受けた。我々と来てもらおう」

 言うが早いか、ヒューゴー老の両腕をつかんでねじり上げ捕縛にかかったのだった。


「何をするか! 離せ、わしを誰だと思っておる!」


「正体不明の人物だ。暴れると罪が重くなるぞ」


「うるさい! 邪魔をしおって!」

 老人ががなりたて抵抗する。


「あばれないほうが、いいですよ」

 そこへ、別の人物の声がした。

 新たに現れたのは、長い金髪をなびかせ、灰緑色の目をした青年だった。

 優雅な所作にて、一礼をする。


「お初にお目にかかります。自称、ヒューゴー・ラゼルご老人」

「きさまは?」

「わたしはカルナック様の弟子。ここの魔法使いは任務に忠実ですから騒いでも逃げられはしません。無駄に抗ってケガなどされてはつまらないでしょう。ですので、若輩ながらお止め差し上げようと参上しました。申し遅れましたが、私はエルナト・アル・フィリクス・アンティグア。あなたのような方には、上位の身分から、命じたほうがよさそうですね。ちょっとした呪縛もかけさせていただきました」

 にっこり、笑った。

 エルナトの笑顔を見慣れたものには、その怖さがわかる、笑みだ。


「な、な、アンティグア家だと……!」

 さしものヒューゴーも予想外だったのか、驚愕する。


「ほら、もう抵抗できないでしょう? さきほどヒューゴ殿がメイドになさろうとしておられた『強制』契約に比べれば、ささやかなものですけれどね」


 ヒューゴー老人は、抵抗できなくなり、引き立てられていった。

「覚えとれよ!」

 それでも捨て台詞を吐くのは忘れなかった。


「とりあえず捕まえておきましたよ」


「助かったよエル。ありがとう。まだこれからが晩餐会の本番だというのに。煩わしい」


「エルナト様! 助かりましたわ。やはり頼りになりますのね」

 

 エステリオ・アウルとエウニーケが礼を述べるなか、ローサは、足の力が抜けて、へたり込んでしまった。


「……どうにか、なってしまいそうで怖かったです~。エルナトさまがいらして、たすけてくださらなかったら、ローサはもう、もう……」


「だいじょうぶだよ、ローサ」

 エステリオはその肩に手をのせる。

「ローサはよくやってくれている。アイリスもわかっているよ。それと、雇用契約に関する呪文は、すべてわたしが見直しておく。二度と、このような事にはさせない」


「あ、ありがとう、存じます……」

 へたりこんでいるローサに、エウニーケが手を伸べて、引き起こす。


「さあ、落ち込んでいるひまはなくてよ。むしろ、これからが晩餐会の本番。頑張りましょうね!」


「はい!」

 ローサの声に元気が戻っている。


         ※


「……よかった」

 子ども部屋の中で、やきもきしていた、アイリス、サファイア、ルビーも、ほうっと息をついた。

 シロとクロも、ほっとしたように見える。


「たたかわない?」

「つまんない」

 唯一、出番がなくてがっかりしていたのは、パオラとパウルだった。


あまり関係ないですが人間界に混じって暮らしている人間型精霊セレナンたちは、ギリシア神話のネレイデスの名前を使っています。グラウケー、キュモトエー、ガーレネー。そしてエウニーケもですね。でも、作品中でエウニーケが精霊だと明かす場面、なさそう……

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