第6章 その30 ラゼル家の楽しいお祭り
30
「そうだ、外に行けないなら家の中で五月祭をやればいいじゃない!」
「よっし! イベントの仕切りなら任せろ!」
「腕の見せ所だわぁ!」
張り切っているサファイアとルビーを止められる者はいなかった。
エステリオ・アウルでさえも。
「エステリオ叔父さま、サファイアさんとルビーさん、やりすぎないわよね?」
「そうだな、大先輩の二人だし、お師匠様の護衛をしてるくらいだから、きっと、いや多分……だいじょうぶ、だと思いたい……」
叔父さまは青い顔をして、さっそくカルナックお師匠さまとコマラパ老師さまに連絡をとった。
そうしたら、カルナックさまは、大賛成で、サファイアさんとルビーさんも大喜び。
「お師匠様に珍しく褒められた!」
って。
珍しく!?
そこは突っ込んでいいところなのかな?!
「というわけだ! プレゼン大成功!」
「めでたく魔導師協会が全面協力することになったわ!」
浮かれる二人。
とまどう我が家の面々。
お父さまとお母さまは、固まってます。
「ああっしまったぁ! カルナック師匠が、すごく忙しい人なのにいつも退屈していて、面白そうなことには絶対に食いつくって、わかっていたはずなのに~!」
頭をかかえる叔父さま。
あたしは、ちょっぴり吐息。
「だけど叔父さま、いいほうに考えるの! おうちでお祭りができたら、うれしいわ。あたしは、大きくなっても、お外のお祭りを見物には行けないんでしょ?」
「……そうだよ。良家のお嬢さまは護衛無しで外出できないし、シ・イル・リリヤに観光客が増える時期なんて尚更だ。……確かに、名案かもしれない」
お父さまとお母さまも、いっときのショック状態から立ち直った。
これまでに前例のない提案だったから。
こうして、
我がラゼル家一同は、総力をあげて『家庭内でお祭り』の準備に取りかかることになりました。
それからは急ピッチでことは進んだ。
トミーさん、ニコラさん。グレアムさん、その他にも学院の生徒さんたちがやってきて、設備の取り付け、配置、材料の確保と、がんばってくれたの。
例によってシロとクロのドッグランが会場に模様替え。
屋台みたいなのが、三十か四十も並べられていく。
「ぼくらが屋台を出すんだよ」
「寄宿生たちはいろんな地方とか国の出身が多いから、郷土料理を用意するって張り切ってるよ」
「もちろん、無料! 材料費は学院もちだから」
「そんなにしていただいて、いいの?」
「学生たちも、お祭りが大好きだから大丈夫ですよ」
いつの間にか、エルナトさまもいらしてた。
すごく笑ってるんですけど……もしかして案外、陽気な人なのかしら。
「間違いなくお師匠さまは期待してるよ。忙しくて、当日までは来られないって残念がってた」
「そ、そうなの?」
ちょっと心配になってきた。
お師匠さま、楽しんでくれるといいな。
もちろん、あたしも、期待して、わくわくしてる!
※
そして迎えた五月一日!
お着替えもさせてもらった、あたし、アイリスは、一家で軽い朝食をとる。
通りの方からはお祭りに集まっている大勢の人たちの賑やかな声や、音楽が聞こえてくる。
いいなあ、楽しそう。
だけど、きょうは、我が家でも、お祭りだもの!
朝食を終えた頃。
ドーン!
ドーン!
上のほうで大きな音がして、ビリビリと振動が伝わってきた。
「なにこれ!?」
あわてたけれど、叔父さまも、お父さまお母さまも、落ち着きはらってる。
わかっていたのかしら。
「花火をあげてるんだよ。昼間だから、煙が見えるくらいだろうけど」
「ええ? 花火って、あの?」
「そうだよ」
叔父さまは、満面の笑みで、答えた。
「カルナック様が関わっているんだ、何が起こっても不思議じゃない」
「それは、そうね」
すとんと腑に落ちて、あたしはようやく、落ち着いた。
昨日の夜は興奮して眠れなかったのだ。
「カルナックお師匠さまのことだものね!」




