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プロローグ その1 虹の名前を持つ女神

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 気がつくと、あたしは何もない真っ白な空間にいた。

 まるで身体の重さがないみたい。

 あたし、久しぶりに痛みも感じないで立っている。

 あれ? 久しぶりって、なんだっけ?


「ようこそ、イリス」

 声が聞こえた。

 振り向くと、少女が立っていた。

 十歳くらいだろうか。

 あどけない顔。

 アクアマリンみたいな淡いきれいな目。

 穏やかな微笑みを浮かべた小さな唇。

 青みを帯びた銀色の髪が柔らかく光って、きれいな顔をふちどり、肩を覆い、腰まで流れ落ちている。光の滝みたい。ものすごい美少女だ。


「あら、ありがとう」

 少女がくすっと笑う。


「え? あたし、声に出しちゃってた?」

 なんか恥ずかしい。


「いいえ、イリス。#有栖__ありす__#。もちろん言葉で話しているのではなく、心に思うことは、すべてわたしに伝わっているのよ」


「それってテレパシーみたいな!?」

 うっかり、テレビドラマで見た超能力もののことを思い浮かべてしまった。


「へええ。なかなか面白いわね。人類を管理していたから、そんな記録の残滓が魂に残っているのね」


「人類の管理? なにそれ」


「忘れることができたのなら何より。それより、あなたに大事な話があるの」

 少女は、満面の笑みを浮かべた。


「わたしの名前は、スゥエ。異世界の女神、みたいなものね。イリス。または#有栖__ありす__#。あなたに、異世界に転生しないかとお誘いにきたのよ」


「ええええ!?」

 あたしは驚いて声を上げてしまう。

「異世界転生!? えっと、それってネット小説とかで、死後、別の世界に生まれ変われるってやつ?」


「その通りよ」

 そういえば何もない白い空間とか、まさにそれっぽいなー、なんて、呑気なことを、あたしは思った。


「……あたし、死ぬとき、どうだったんだっけ」

 考え込む。

 あれれ……なんか、思い出しそうに……


「広い部屋で、壁いちめんに、たくさんモニターがあって……なんか、熱くて痛かった、ような?」


「それは置いといて! 無理に思い出さなくてもいいじゃないですか」

 なぜだかスゥエは少し慌てたように両手を振って、手を差し伸べてきた。

 つめたい。ひやりとした感触が、思い出しそうになっていた、熱くて苦しい何かの感覚を遠ざける。

「それよりイリス、有栖。転生先の世界のこと知りたくない? これからのことのほうが大事でしょ」


「ああ。そういえばそう、ですね」


「あなたを、わたしが管理している世界、セレナンに転生させるわ。この姿は#世界__セレナン__#そのものよりも、かなり表層にある端末なの。世界の本体だと、大きすぎてあなたと会話もできないから。それは、ともかく」

 スゥエの目が、優しく、あたしを癒やす。

「世界の名前は、セレナン。それは世界の本体である意識の名前なの。そこには人間達がたくさんいるわ。国も、生き物も、それから、精霊も」


「精霊? もしかして、魔法が使えたりするの?」

 あたしの食いつきのよさにスゥエは気を良くしたようだ。

 にっこり笑う。

「ふふ。魔法もばっちり使えるわよ。精霊には二種類あるわ。セレナン本体の端末である、わたしのこの姿のような存在」


「セレナン?」


「彼らは世界そのもの。呼び名もセレナン。そして今ひとつはセレナンの自然に宿るもの。空気や水、火、土、それらのスピリット。エレメントと言う方があなたには理解しやすいかしら。妖精もいるわ。小型のエレメントね。魔法使いに協力してくれる存在よ」


「えー、すてき!」


「あなたは生まれてすぐに妖精も精霊も見える。魔法使いとして。それから、別の加護を。あなたが将来必要になれば過去の記憶へもアクセスできるようにしておくわ」


「えっと。それって必要なんでしょうか? 女神さま、面倒くさくないですか?」


「面倒なんてないわ。もう済んでるし。必要ができたとき自動的にわかるわ。では、そろそろ転生する頃合いね」


「えっ!? もうですか!?」

 この女神さま、スゥエといると、癒やされて、優しい気持ちになれて、とても居心地がよかった。

 別れたくないなぁ。


「ああ……記憶は消しておくけど、もしかしたら魂に刻み込まれるほどの強い感情や傷は、残ってしまうかもしれないわね。でもだいじょうぶよ。きっとなんとかなるわ。助けてくれる味方も用意しておくから!」


「なんだかずいぶん至れり尽くせりみたいですけど、どうしてこんなに良くしてくださるんですか?」


 ふふふ。

 女神は笑った。


「わたしの名前はスゥエ。その異世界の、ある国の人々の言葉で、虹という意味なのよ。あなたの名前も虹の女神からとったものでしょ。親近感というか、放っておけない気がしたの。さよならイリス。いつかまた出会うかも、ね。よい人生を!」


 ありがとう、優しい女神さま。

 いつかまた会えるといいな。


 そう思ったのが、あたしの最期の記憶だった。


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