第6章 その19 落第はやっ!
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トミーは言った。
「魔法を使えない人向けに、魔道具を作っています」
カルナックさまが間髪入れずに、評価した。
「はい、落第」
「はやっ!」
こう言ったのは、あたし。
アイリス。
「落第だなんて、お師匠さま。早すぎません? あたしまだなにも聞いてないです」
「問題はそこだ。私はアイリスにプレゼンするように言っただろう、トーマス。ニコラもグレアムも、ラゼル邸に転移魔法陣を設置させるために派遣した意味を理解していたかい。大陸全土に名高い豪商ラゼル家に入れる機会など、めったにない。館の規模や使用人の数、暮らし向き。多少なりとも、把握できてしかるべきだが」
「うえっ!?」
「そんな深い意味があって!?」
「すみません、よく考えていませんでした」
焦る三人の少年。
でも、考えてみたら。
あのときは転移魔方陣があやまって起動してしまうという事故が起こったの。
どこに転移するのかわからなかったんだから。
あたしも、カルナックさま、ルビーさんとサファイアさん、トミーさんとニコラさんも巻き込まれた。
うちの中をよく観察しておくなんて、それどころじゃなかったんじゃない?
「もちろん、想定外のできごとのために、注意はそちらに向いていたのだろうが……それを考慮しても、だ」
魔法陣の設置のときに事故があったとは、カルナックさまも、おおやけにはしていないのかな。
「アイリスは豊富な魔力量を持って生まれた。叔父のエステリオ・アウルもだ。父母はそれほど魔力を多く持ってはいないがそれなりには、ある。経済的にもなに不自由のない暮らしをしている。魔力を持たない人間の暮らしを、アイリスが想像できるはずないだろう」
肩をすくめる。
「自宅から出たのは五歳になった『代父母』の儀式のためである今日が初めてだ。外の人間には家人と我々魔道士協会の関係者以外に出会ってもいない。市井に出たこともなければ魔力持ちと魔力なしがどれくらいの割合で存在しているのかも知らない。君たちはまず、そこを考慮するべきだった」
「考えが至りませんでした」
うなだれてる、トミーさん。
ほかの二人も同じように。
あたし、アイリスか考える。だって、三人とも、十五歳になってないくらいに見えるもの。
まだ子どもだわ。
「あの! カルナックさま!」
「なんだい、アイリス」
カルナックさまは、あたしには甘い。
「あたし決めました! トミーさんたちがつくるもの、見たいです! だから、おかねをだします!」
「おや。スポンサーになるのかな?」
「いまは、おかねも持ったことありませんけど。きっと、おこづかいはいただけますから。それに、あたしも、けいかくに参加させてください! 叔父さまも、きっときょうみをもつわ」
魔法を使えない人向けに、魔道具を作る。
きっと、すてきだもの!
「エネルギーはどうするの。魔石を使う物は、商品化されてるよ?」
「そのことなんですが!」
こんどは、ニコラの番だ。
「コマラパ老師に雷を落としてもらって、そのエネルギーを閉じ込めて再利用できないかなって!」
後ろでグレアムが「あちゃー」という顔をしているのは、見えていないようだ。
カルナックさまは、くすっと笑う。
「面白そうだけど、それ、コマラパに許可もらった?」
「これからです」
「あははははは! これは傑作だ!」
「おししょうさま、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか。おきのどくですよ」
「あは、あはははは! いやー楽しいなあ」
完全に、娯楽ですね。
「そうだ、せっかく、魔力を持たない研究員を入れたのだから、彼を有効利用しなさい」
「それって、あのひとのことですよね?」
あたしの魔力診の夕べに参加していて、えらいことになった……テノール青年。
この講座に入ったのは知っていたけど。
忘れてました。