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第6章 その13 でこぼこトリオ

         13


「申し訳ありません!」

「申し訳ありません!」

「申し訳ありません!」


 三人の少年が、床に額をこすりつけている。

 赤毛、青い髪、そして緑の髪が、床にふせられたままだ。

 神妙にしている。緊張でちぢこまっているであろう少年たちの周囲では、彼等の追い詰まった心情をよそに、楽しげに飲んだり食べたり談笑したりという賑々しくもなごやかな宴会が続いているのだったが。


「ふむ? 私は何を見せられているのかな? トーマス、ニコラウス、グレアム。そういう謝罪のやり方は流行っているのか。先日も学院内で見かけたが」


 少年たちの前に立っているのは黒髪に青い目をした長身の美青年……つまりカルナックであった。彼等が学んでいる、魔導師養成所との別名を持つ、エルレーン公国立学院の総合学長である。

 見た目はいつまでも若々しくせいぜい二十歳そこそこだが、魔力の高い者にありがちなことに、実年齢は五百歳以上である。本人曰く、五百歳を越えてからは面倒くさくなって憶えていないという。


 カルナックは腕に金髪の幼女(五歳)を抱えている。

 現在、学院の大食堂を会場にして繰り広げられている、神殿関係者まで巻き込んでの大規模な宴会は、この幼女、アイリス・リデル・ティス・ラゼル嬢が五歳を迎える年の3月に行われる「代父母認定の儀」の二次会的なノリで行われているのである。ちなみに代父母は大公の次に地位の高い貴族アンティグア家の当主夫妻であり、宴会に関して一番ノリノリなのは星辰神殿の大神官シャンティ猊下その人だった。


「はい、エステリオ先輩が、コマラパ老師にそうやってまして」

「最初は講座の仲間内で」

「今は学院中で流行って、いえ、最上級の謝罪の作法として定着しています」


「やれやれ。エステリオ・アウルにも困ったものだ。下級生に対して影響力があるというのを失念している。理不尽なまでに自己評価の低いことが原因だろうな。自分自身を信じられることも才能なんだがなあ。残念だ。アイリス、きみが導いてやりなさい」

 腕の中の幼女に語りかけるが、彼女は、にこっと笑って「カルナックさま、あたしはまだお披露目もしてない幼女ですよ?」と、受け流す。その応対は、五歳とは思えない落ち着きぶりだった。


「いずれは、ということさ」

 カルナックは苦笑して、目の前の少年達に視線を戻した。


「確かに、君たちを呼んできてほしいと言付けはしたがね。謝罪させるためではない。それとも、君たちは、まだ私に報告していない問題でも起こしていたのかな?」


「えっ」

「ほんと?」

 赤毛と青い髪の少年が顔を上げ、意外そうな顔をした。


「ですよね〜」

 緑の髪の少年が、顔を上げた。

「まだカルナック師匠にはばれてないはずですから」


「うわぁ!」

「やめて!」

 赤毛と青い髪の少年は焦ったようすで声を上げる。


「ほほう。面白そうだな。その件については後ほど詳しく聞かせてもらおう。まあ、あれだ。叱るためなら、このような宴席をわざわざ選ばないよ。呼んだのは別件だ。……アイリス。この子達を憶えているだろう」


「はい、我が家に、転移魔方陣の設置工事にきてくださったかたですよね。トミーさんとニコラさん。おひさしぶりです。ただ、そちらの、緑の髪の方とはお会いしていない気がします」


「そうだな。あのときはグレアムの顔を見ていなかったね。彼は三人目だよ。トーマスとニコラの二人だと『うかつブラザーズ』グレアムが加わると『うかつ』が撮れて『でこぼこコンビ』に進化するんだ。グレアムだけ頭一つぶん背が高いからってこともある」


「ひどいっすお師匠様! おれがチビだからって」

「たしかに僕たちだけだとトラブル起こしがちですけど」


「ふたりとも研究バカだからさ」

 身も蓋もないことを言ったのはグレアムだった。

「面白そうなことを見つけたら、何もかも放り出す。すぐ楽しくなっちゃうだろ。研究大好きなんだよね。そういうとこ、ぼくにはない。だから、サポートする。そしたら成果を出せるよ、発想はユニークだし」


「そうだ。グレアムは頭脳。二人は直感だ。三人組で、面白いことをやらかして、この私に差し出して」

 くすくすと笑う。


「「「は、はい!」」」

 この返事は、三人の声が合った。


「よろしい。ではここからが本題だ。きみたち。この場でプレゼンしてみて。研究成果でもいい、いまやってる研究のテーマでもいい」


「はい?」

「あの?」

「はあ、そういうことですか」


「研究には金が要る。彼女はこの国で名高い豪商の一人娘、いずれは跡継ぎとなる予定だ。彼女を相手に、スポンサーになってもらえるようにプレゼンしてもらおうか」



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