第6章 その6 儀式会場の変更!?
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エルレーン公国首都シ・イル・リリヤの、大通り。
敷き詰められた石の上を、馬車が走る。
全体は漆黒に塗られ、金色の細い筋が入っている。瀟洒にして豪華なしつらえだ。
四頭の、黒毛の馬が引いている。
足並みは見事に揃っていた。
通りにいる人々は、馬車を見やり、感嘆の声をあげる。
「あれは魔道士協会の長カルナック様の専用馬車だ」
「なんと速い!」
「ひいているのは名馬に違いない、御者もただものではないな」
「車そのものが魔法にかかっているのだろうさ」
そのころ、馬車の中では。
「カルナックお師匠さま、街のひとがなんか噂してます。有名なんですね~」
あたしは席について、窓を少しだけ開いて、外を覗き見ていた。
だって、街に出るなんて初めてなのよ!
お披露目もまだだから、ちょっとしたお買い物に出かけたこともないんだもの。
「まあね。この街で私を知らない者はいないさ。姿を見たことはないというのが大多数だろうけど」
お師匠さまは、あくびをした。
馬車に乗っているのは、あたし、パウルくんとパオラさん、それにシロとクロ。ゴロゴロ気持ちよさそうに喉を鳴らして膝に乗ってる。本来の主人であるカルナックお師匠さまに再会できるとなると、むちゃくちゃ甘えちゃって仕方ないんだから。
そしてあたしの守護精霊たちは、ちょっぴり控えめに、光の粉を散らしながら、馬車の中を一通り飛び回って点検して、そのあとは定位置におちついた。
肩の上は風の精霊シルル。光の精霊イルミナ。頭の上には水の精霊ディーネ。で、土の精霊ジオはといえば自由気まま。馬車の中にいるのは違いないのだけれど。
「アイリス。パウル、パオラも。もうじき着く頃合いだ、楽しみじゃろう?」
コマラパ老師さまは、笑っている。
道路を疾走する馬たち。
よく聞いていれば、後方にも、馬の蹄の音がしている。
我がラゼル家の所有している馬車がついてきているのだ。
中には、お父さまとお母さま、それからエステリオ・アウル叔父さまが乗っている。きっと不安になっているに違いない。
やがて……
我が家を出発してから結構な時間が過ぎた頃、馬車は目的地に着いたらしい。
馬車が止まる。
エントランスに案内されて、ゆっくり止まる。
ここは、どこかというと。
この首都シ・イル・リリヤの中心部にある、総本山。
大神殿、だったのです!
「なんでこうなったのかしら」
目まぐるしかった午前中のことを、あたし、アイリスは思い返していた。
※
簡単な朝食をとったあと、
お父さまとお母さま、エステリオ・アウル叔父さま、それにあたしと、パウルくんとパオラさんは、玄関ロビーに行って、並んで、お客さまを待ってます。
ふつうは、待ち構えたりしないけれど。
せっかく、玄関にも『生活家電』な、転移魔法陣を設置してもらったんだもの。
今日のお客さまは、魔法陣でこられるの!
ということは、保有魔力量が多いということを示しています。でないと魔法陣が起動しないのだから。
いよいよです。
床に描かれていた魔法陣が銀色に光って、わずかに浮き上がる。
「おいでになりました」
メイド長エウニーケさんが、お客さまの到来を告げる。
ここで代父母さまと初対面!
……かと思っていたのだけれど。
魔法陣の上に、二人の人物の輪郭があらわれる。
輪郭の内側がしだいに濃くなり、色合いがわかり……くっきりと、焦点が合っていく。
魔法陣の上に立っていたのは。
長い黒髪の、長身の人物。
純白の髪と、あごひげ。屈強な、大柄の壮年男性。
え?
「カルナックお師匠さま! コマラパ老師さま!?」
「ははははは! やっぱり驚いた?」
楽しそうな笑い声をあげるのは、とうぜん、カルナックお師匠さま。
子どもかっ!
カルナックお師匠さまの『保護者』的な立場で、どうにかしてください。という気持ちを、コマラパ老師さまに、目で訴えると、ばつが悪そうに、目をそらしました!
「予定が変わってな。その、場所をな」
「場所? それはどちらで?」
尋ねたのは、エステリオ・アウル叔父さま。
お父さまとお母さまは気をもんでいるけれど、魔道士協会の長と副長に告げられたからには、口を挟めない。
ごほんと咳払いをして。
コマラパ老師さまは、おっしゃった。
「聖堂教会本部。『星辰神殿』じゃ! そこの『虚空の間』にて執り行う」
「代父母の二人とは、会場で落ち合うことになってるんだ」
カルナックお師匠さまは、微笑んだ。
気のせいでなければ、我がお師匠さまは……いかにも、ラスボス風なのでした。