第1章 その16 サンタさんのお誘いに胸がときめきました
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真っ白なおひげのサンタさんからの突然のお誘いに、胸がときめきました。
「わしはこの世界でも学院を持っていてね。才能のある子には、授業料は免除する。月宮アリスくん。また、わしの学校に入ってくれるかな?」
日本語で、こう言ったの。
サンタさんっていうのは、真っ白なあごひげのコマラパ老師さま。
まさか、まさか。
コマラパ老師さまは、『月宮アリス』だった前世で所属してたプロダクションの、並河泰三社長だったの?
「並河社長ですよね? すっごーい!!! また会えるなんて思わなかったです! 異世界なのに!」
「わしが転生したのは、もうずいぶん昔のことじゃがな。もっと幼い頃のきみが『前世を思い出した』ようなことを言っていたと、エステリオ・アウルから聞いて、きみも『先祖還り』なのかと思ったのさ。ならば、わが学院に迎え入れ、保護すべきだと。まさか、前世でプロデュースしていた月宮アリスくんだとは、思ってもみなかったが。まったく、縁とは不思議なものだな」
「自分の学院って、エステリオ叔父さまの通ってるところですか? そこは公国立学院なのでは?」
「名目上はな。実際に資金提供しているのは、わしなのじゃが。国立学院ということにしておいた方が、大人の事情としては好都合なのだ」
コマラパ老師さまは、胸をはった。
得意げに。
そんな、あたしとコマラパ老師さまの『日本語』での会話を、お父さまとお母さまは困惑しながらも信頼し、辛抱強く見守ってくれている。『日本語』なんて、わからないのに。
だけどエステリオ叔父さまは、違った。
「そんな! あの『サヤカとアリス』の、アリスちゃんが、ぼくの姪に転生してるだなんて」
叔父さまったら。いつもと口調が違います!
ていうか日本語で口走ってます。
よっぽど動転しているのかな。
あたしも驚いたわ!
まさかエステリオ叔父さまの前世も、日本人だったなんて!
前世のあたし、月宮アリスを知ってたなんて!
あの、毎朝、通学電車に乗る吉祥寺駅のホームで見かけていた人なの?
コマラパ老師さまのお言葉を借りれば、「これも縁というもの」なのかしら?
「アリスちゃん、コマラパ老師のゼミに入るべきだ。そうすれば、ぼくも君を守れるし! 学院は、強い魔法使いがいっぱいいるから、安心だよ」
エステリオ叔父さまってば。これも、日本語ですよ!
お父さまとお母さまが、目を白黒させてるわ。
展開についてこれてない!
どうしよう。
「叔父さま、おちついて」
あたしはエルレーン公国の言葉で、叔父さまに呼びかけた。
お母さまの首に、ぎゅっと抱きついて。
「あたしはラゼル家の娘、アイリス・リデル・ティス・ラゼル。叔父さまは、エステリオ・アウル・ティス・ラゼルよ。あたしのだいすきな叔父さま。ねえ、三歳の『魔力診』は、ぶじにおわったのかしら?」
「あ? ああ……もちろん、だよ、アイリス。ぶじに終わった」
叔父さまは目に見えて落ち着きを取り戻してきた。
コマラパ老師さまは、ひとつ、咳払いをした。
「この『深緑のコマラパ・ティトゥ・クシ』が見届けたことを保証する。注意すべきは、魔力が大きすぎて魔力栓が形成されるかも知れんということだ。だが、これはいずれ治療をすればすぐに治るから、気にすることは無い。お疲れさま、アイリス嬢」
こう言ってから、ふとさりげなく付け足した。
「そうだ、ご当主、ご夫人。アイリス嬢には素晴らしい素質がある。持って生まれた、恵まれた資質を活かすためにわしの『魔導師養成講座』に入ってくれんかのう。もちろん今すぐではない。七歳のお披露目をして、九歳になって学院に入学するときで構わん」
「まあ!」
「なんと恐れ多いことだ!」
すっごく喜んでくれてる、お父さまとお母さま。
あたしも嬉しい!
実は、よくわからないけど。
「そうですね。アイリスの安全のためには、それが最良の選択かもしれません」
渋々という感じではあったけど、エステリオ叔父さまも賛成してくれた。
学院に入学できる年齢になったら、コマラパ老師さまの学院に入ろう。
とても心強いし。エステリオ叔父さまも一緒なんだよね。
「前世の意識の中でも『月宮アリス』君が目覚めたのは、歓迎すべきだろう。アイリス嬢の実際の年齢とも近いし、アリス君なら、魔力を使う方法を学び、『魔力栓』が生成されることを防げるかもしれない」
コマラパ老師さまは、心強いことをおっしゃったの。
そうかしら? だといいな!
アイリスはもっと健康になれるかな!?
こうして『魔力診』は無事に終わったのです。
※
夜会が始まる。『魔力診の夕べ』っていうんだって。
お母さまの親戚の人に会える。
お父さまと仲違いしているヒューゴーお祖父さまは、いらっしゃらないけれど、いつか、メルセデスお祖母さまには、いらして頂けるかしら。
書斎の扉が、開いた。
メイド長さん、ローサ、乳母やたちが、待ってくれている。
「お願いね、妖精さんたち」
『もちろんだわ、任せてよ』
風の妖精シルルは薄羽根をせわしく羽ばたかせて飛び上がる。
『あたしたち守護妖精の全力祝福、見せてあげるわ~~~~~~~~!!!!!』
光の妖精イルミナも飛び上がって、キラキラ光る『妖精の祝福』の粉を撒き散らした。
大サービスしてくれた、アイリスの妖精さんたちなのでした。