第5章 その39 お客さまは神様です
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その朝、あたし、アイリスは、なんだかすっきりした感じで目が覚めたのだけれど。
見守ってくれていた護衛メイドのサファイアさんとルビーさんの知らせで、お父さまお母さま、エステリオ・アウル叔父さまが子ども部屋にやってくるなりボロ泣きでハグの嵐。
ちょっとびびりました。
状況が今いち、よくわかってなかったから。
サファイアさんとルビーさんの会話を夢うつつに聞いてはいたのだけれど。
新年のはじめに倒れて三日間も寝たきりだったって。
往診してくれたエルナトさまが「大丈夫、熟睡しているだけですよ」って言ってくださって。
カルナックお師匠さまもコマラパ老師さまも保証してくださったのだけど、お父さまお母さまもエステリオ・アウル叔父さまも、不安でどうしようもなかったの。
ついこの間まで、あたしはたびたび熱を出したり倒れたり寝込んだりしていた虚弱幼児だったから、無理もないことだった。
家族が全員大泣きしていて、あたしも思わず泣いてしまった。
でもそれは、嬉しかったの。
みんなが心配してくれてた。
あたしを愛してるって、あたたかい気持ちが、伝わってきたの。
詳しくは覚えてないけど、前世の『つきみやありす』は、十五歳で死んだ。
パパとママをのこして。悲しませた。
あんなのは、もう、いやだ。
ちがう世界に、新しく生まれ変わったみたいだもの。
こんどこそは、健康で長生きして、しあわせになるんだ。
家族みんなで。
だいじょうぶなのよって、くりかえし言うのが、やっとだった。
お父さまお母さまのハグは苦しいくらいだったけれど、ほんとうに、あたたかくて。
生きてるって、思えた。
きがついたら、ローサも、サファイアさんとルビーさんも、もらい泣きしてて。
シロとクロも、パウルくんとパオラさんも。
いつも冷静なエウニーケさんまで、ちょっと涙声だった。
あたし、もしかしたら、今、もう一度、生まれ直した……のかも。
※
「おう、待っておったぞ幼子よ」
朝食の席に誰よりも早くついていたのは、神さまでした。
肩にかかるあたりで切り揃えた黒髪、興味深げにあたしをじっと見つめてくる、いたずらっ子のような黒い瞳。
纏っているのは白い装束だ。
この国では風変わりな、異国風のデザイン。
たぶん『にほんじん』だった前世の記憶を持つあたしには、神社で見かけたような気がする、服装です。
本当はヒトの目に見えるものではないのだって、カルナックお師匠さまがおっしゃってた。
つまり歳神さまは、大晦日から我が家にいらして、お正月の三が日にも滞在してくださっていたのでした。
「はい」
あたしは答えた。
まっすぐに、前を向いて。