第5章 その19 フランカの宝石(皇帝ガルデルの絶望と儚い希望8)
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今のあたしは、黄金の髪とエメラルドの目、二十五歳くらいの白人女性。
いろいろあって、
イリス・マクギリスの姿をしているわけなのです。
あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは、本当は四歳と九ヶ月の幼女なのだけど、精霊の白い森にある『欠けた月の村』で、ルナちゃんにちょっかい出そうとしたアイツをぶっ飛ばしたときに、イリス・マクギリスの意識が表に出て助けてくれて、そのとき肉体年齢もイリス・マクギリスになったみたいなの。
そんなこんなで。空中に浮かんでいた状態も解消されたっていうか、地面に降りたので。
しっかりと踏みしめる。
確かに地面だ。幻でも映像でもないわね……。
すると、あたしの姿を見たセラニスが、息をのんだのが、聞こえた。
「うそだろ……そんな、まさか、きみは、その姿は」
なんかすごく動揺してるんだけど、あたしには意味がわからないわ!
「その、まさかよ」
胸を張ったのは、ラト・ナ・ルア。
「あんたもよく知ってるでしょ、《世界の大いなる意思》のすることは、あたしやあんたみたいな末端の細胞やプログラムには推し量れないの。よかったじゃない。会いたかったでしょ……もっとも、本体と同期はさせないわよ。あんたはここで消える運命よ。ガルデルも一緒にね」
「ふん。こいつの復元は自動化してるから、ほっといてもいいんだ」
セラニスは興味もなさそうにガルデルの残骸を投げ捨てた。
地面に落とされても、勝手に肉が盛り上がり身体は復元されていく。
黒鎧が外骨格の役目を果たして、復元途中だというのに、ガルデルの、まだ今のところほぼ死体なヤツは、ぞろりと、起き上がろうとする。
そのさまはまるでゾンビ。
意思があるように見えなくて、怖い。
※
「ガルデルが生き返る! レニ。こっちへおいで」
グリスはレニウス・レギオンをそばに呼んで、子どもの小さな身体を抱きしめた。
「あのひとたちは、だいじょうぶかな」
ラト・ナ・ルアとアイリスを案ずる、レニ。
「セラニスと睨み合ってるからね。でも、一歩も引けを取って無さそうだよ。おまえに言っておくことがある。いいかい。あたしは本当の母親じゃない。あたしの師匠、白い魔女フランカが、おまえの母親だ」
「うそだ!」
「何度も言ったのに、信じてなかったのかい」
「しらない。おれのおかあさんはグリスだけだよ!」
「よくお聞き。六年前。あたしとお師匠様のいた魔女の共同体がガルデルの兵に襲われた。お師匠様は他の魔女たちを逃がして、赤ん坊だったおまえをあたしに託して。保有魔力のほとんどを結晶にして、あたしに持たせたんだ。そうしなかったら、誰にも負けるようなひとじゃ、なかったんだよ」
青い光を浮かべているネックレスを出して、見せた。
「あたしには受け継ぐことができなかったけれど、おまえなら、できる。偉大な魔女の力を継承するんだ」
レニウス・レギオンの手のひらに、のせる。
蒼い宝石は手の上で融けていく。
露のように。
とけこんで、吸収されていく……。
「おかあさん。白い魔女フランカ」
目を閉じて、つぶやいた、レニ。
「でも、おれのおかあさんは、グリスだ……」
ふたたび開いたときには、その瞳は、青い光を宿していた。