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第5章 その16 グリスとレニ(皇帝ガルデルの絶望と儚い希望5)

         16


 まばゆい白光がほとばしる。


 この場にいるけれども何一つ触れることも働きかけることもかなわず、見ること、聞くことしかできない、傍観者でしかないあたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルもまた、視界を奪われ、真っ白な闇に包まれる。


 爆発音が轟く。

 しばらくして、

 ゴトリ、と。

 重いものが床に落下したのであろう、にぶい音と振動を感じた。


 それからどれくらいの時間が過ぎ去ったのだろう。

 視覚と聴覚が戻ってくる。


 おそらく晩餐会の最中に何かが起こったのだろう、テーブルの上には銀の燭台がいくつも置かれて、大きな蝋燭の灯りに煌々と照らされていたのだけれど、この時点では、ほぼ燃え尽きかけていた。


 大広間の灯りは、蝋燭だけに頼るのではなく天井に据えられた魔道具『夜光灯』でカバーされているみたい。

 蝋燭が燃え尽きてしまっても真っ暗にはならないだろう。


 血の海と化した大理石の床の上に、グリスは横たわっていた。


 シルバーグレイの長い髪が、血の海にひろがり、つり積もった灰に、薄く覆われていた。

 白い肌からは、血の気が失われていく。

 

 傍らには、ガルデル……だったものが、転がっていた。

 半分くらい、胴体が無い。 

 けれど血は出ていない。大きく口を開けている傷口は、焦げて炭化していた。

 グリスが放った魔法で焼かれたのだ。


 レニははじけるように飛び出して、グリスに駆け寄る。


「おかあさん! おかあさん!」


「……ばかだね……」

 グリスの手が、ゆっくりと持ち上がり、すがりついて泣いているレニの頬に、触れた。

 涙の筋に、触れる。


「なんで、逃げなかったのさ」

 かすれた声を、もらした。


「いやだ! 逃げるならおかあさんとだ! ほら、肌がもとの色になってる。前に、おしえてくれた。毒が消えてるしるしだよね?」 


「よくできました。さっきガルデルを倒した……魔法で、消せたんだよ……だけど」

 小さく、笑う。

「もう、起き上がれない。あたしを置いて逃げな。ガルデルの凶行は国王に知られているだろう。王国兵か、聖堂騎士かわからないが、誰かが調べに来る。めんどうなことになるよ。その前に逃げて、自由になるんだ」


「おかあさんも連れてく、おれが」

 グリスの身体に手をかけ、力をこめる、レニウス・レギオン。


「無理だよ」


「そんなことない!」

 レニウス・レギオンが叫ぶ。

「ぜったいに、いっしょに逃げるんだ」

 全身から、青い炎が立ち上がった。ふいに、ふわりと、グリスの身体が床からわずかに持ち上がる。


 これは、魔法!?


 浮き上がったグリスを、レニウス・レギオンは引っ張って、回廊へと運んでいく。


「おかあさん、おれ、がんばるから」


 あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは、見た。


 青い光は、グリスの胸もとから発していたのだ。

 正確には……

 グリスがつけているネックレスから。

 もしや、あれは魔道具?

 レニウス・レギオンに力を与えるために発動しているの?!


 これなら、幼い子どもでも、大人の女性を持ち上げて運べる?

 抜け穴があるという、中庭まで、逃げられるのでは?


 グリスとレニウス・レギオンが中庭にたどり着き、


「おかあさん、もうすこしだよ!」

 レニウス・レギオンが歓声をあげたとき。


 ハラハラして見守っている、あたしは、ようやく希望を持つことができた。



 けれど。


『え~っ!? 冗談じゃないよ!』

 はなはだ不穏な、声が上空から降ってきた。


『このイベントはデフォルトなんだ! グリスとレニウス・レギオンがガルデルを倒して生き延びるとか、そこを変えちゃったら、台無しだよ!』




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