第1章 その12 イリス・マクギリス
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前世の一つ?
いちばん大きく叫びたいのはそこだったけれど。
表示されてる内容、魔力の数値どころか、ぜんぶ、おかしいんじゃないの?
大事なことだからもう一度、確認しますけど。
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個人名……イリス・システム(アイリスの前世の一つ)
年齢………10000歳
種族名……レプリカノイド(合成人間)
生命力……100000000/∞
魔力量……0/ ∞
魔力適性……全属性に適性あり(魔力の色・白・クリアカラー)
職業…………人類の管理者。執政官
権限…………人類保護プログラムにおけるルート管理者権限・最上位を所有する
加護…………古き園の白き太陽の愛情。
世界の根源たる《世界の大いなる意思》のお気に入り
四大精霊の加護。大地の女神の加護。真月の女神の加護
『魔眼の王、セラニス・アレム・ダル』の想い人
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あたしの前世?(の一つ、ってどういうこと?)
レプリカ? 合成人間?
なにそれ。
人間じゃ、ないの?
そのせいなのか。年齢と生命力の数値おかしくない?
っていうか、どれもこれも。
おかしいよ!
おかしいといえば、お母さまやお父さまには、この文字が見えていないのかな。
女性の姿をながめて「きれい」と言ってるけど、表示されてる文字を読んだら、そんなこと言ってる場合じゃないって思うよね?
「案ずることはない。見えないことになっとるんだなぁ、アイリス嬢や」
コマラパ老師が、少しだけ笑った。
むう。
あたしの悩みが、見透かされていた!
「この『魔力診』ではの。表示されるステータスは、本人と『診断者』にしか読み取れないしくみだ。まぁ、そうでなければ、肉親にも立ち会いを許可はできないところじゃ。エステリオ・アウルには、わしの講座の研究員ではあるからの、特別に、見えるようにしているが」
「わたしは沈黙を守ります。そのほうがアイリスのためなら」
エステリオ叔父さまは、約束してくれた。
「……よかった」
なんか、まだ……受け入れられないけど、これも、あたし?
とんでも数値なのも?
優しいお父さま、お母さまが、こんなのを見て、あたしのこと、今までと同じように愛してくれなくなるかもしれないって、考えてしまってたから。
知られないとわかって、ほっとした。
でもコマラパ老師さまとエステリオ叔父さまには、ぜんぶわかってしまってる。
あたし。
人間じゃ、なかったの?
「心配せんでもよろしい」
コマラパ老師さまは、あたしの頭に手を置いた。
「きみは、三歳のアイリス・リデル・ティス・ラゼル。そのことに変わりは無い。それより《魂の映し鏡》をごらん。まことに興味深い。まだ……#階層__レイヤー__#があるようだぞ」
魂は、いくつもの階層構造になっていると、コマラパ老師さまは、おっしゃった。
「生命というものは、輪廻する。死んで生まれ変わるときに、前世の記憶を全て晒されて真っさらになってしまえたら、新しい人生に心おきなく踏み出し謳歌できるものをな……魂に刻まれるような強い記憶は、痛みや苦しみや心残りは、輪廻しても残ってしまうことが……ある」
どうしてかな。
それは、あたしのことを言っているだけじゃない、ですよね?
そんな気がした。
コマラパ老師さまの顔が、どことなく寂しげに見えたから。
※
やがて、
鏡に映る姿が、変わった。
さっきと同様に、波打つ長い金髪でエメラルド色の瞳をした美貌の成人女性で、顔も同じ。
なんてきれいな女性。
けれど、さきほどまでとは明らかに何かが違う。
そうだわ! より人間的な表情をしてる。
そこが、もっとも大きく違う。
黒いカシミヤのコート。
黒い毛皮のストール。
すっきりとした動きやすそうなパンツスタイルに、足元はピンヒール。
くっきりと弧を描いた、金色の眉は力強く。
若いにもかかわらず堂々とした貫禄が感じられた。
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個人名………イリス・マクギリス(アイリス・リデル・ティス・ラゼルの封印された前世の一つ)
年齢…………25歳(享年)
種族名………人間(アイルランドから、曾祖父の代でアメリカに移民)
生命力………3000(成人女性の平均値に比較して300パーセント)
魔力量………0/∞(魔力が存在しない世界である)
魔力適性……全属性に適性あり(魔力の色・白・クリアカラー)
職業…………会社員。広報部営業
スキル………営業能力・時間管理・洗脳・対人・歌唱(カラオケで100点)
加護…………商売の神様・親友の友情
持病…………心臓に難あり(死因・ストレスと過労に起因する心不全)
家族…………なし。両親に先立たれ天涯孤独。配偶者、子供はいない。
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この人も、あたしの前世?
魂の階層に刻まれていたっていうの?
だとしたら。
いったい、どんな記憶が、この人を、傷つけたんだろう?
だって、まるでダイヤモンドみたいな、誰にも傷つけることなんてできそうにない。そんな強靱な精神が宿っているように感じられたのだ。