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第4章 その30 歳神さまと、パウルとパオラ

         30


「始まりの千家族が《世界セレナン》と交わした約束の宵祭りを執り行おうぞ、我は歳神である」


 厳かな雰囲気をまとい、童子が、言った。


「我はかつて、虚空の彼方、《旧き園》における世界神であったのじゃ。旧世界が滅び去れば、我も当然、消滅すると思うておったがの。シ・イル・リリヤと共に新しき世界に招かれ、新しき役目をもって存在を許されておる。役目は果たさねばならん。それが、《世界》との《誓約》じゃからの」


 童子の携えた大弓の、弦が、鳴る。


 びぃぃん!


 すると、魔法陣に浮かび上がった銀色の大樹が枝を揺らし、枝に、梢に飾り付けられた、おびただしい数の鈴が、呼応するように、音を響かせる。


 シャリシャリ……

 チリリ……


「我は、旧き衣をまとった老神として、このラゼル家を訪れ、施しを乞うた。宵祭りの焚き火にあたたまり、供物を受けて若返り、童子神として、祝福を授けるものである。始まりの千家族の末裔よ。ヒトは、この世界に存在することを、今年も《世界の大いなる意思》によって赦されるであろう」


「あれ?」

「あら?」

 信じがたい不思議な眺めに、二人のメイドが皿に盛り付けてくれたご馳走を口に運ぶことも忘れて見入っていた、

パウルとパオラは、目をしばたいた。


 目の前にいたはずの幼女の姿が、消えてしまったのだ。

「あの子は?」

「いなくなっちゃった」


「ははは! しばらく待つんだな」

 プラチナブロンドの、美少女メイドが、愉快そうに笑った。


「お師匠様が来るからね」

 長い黒髪の、メイド服の美女が、パウルとパオラの肩に、手を乗せた。


「あなたたちの身の振り方を、きっと考えてくださるわ」

 このうえない優しい笑みを浮かべた。


 その間も。

 幻のように浮かぶ銀色の大樹は、壮大な焚き火の、金色の炎と溶け合っていく。

 それらは化学反応を起こしたかのように、金と銀の陽炎となった。



 シャン!


 ひときわ大きく、鈴が鳴る。


 人々が、どよめいた。


 炎が燃える広場の奥に、銀色の魔法陣が、新たに出現したのだ。

 真円で、ヒトが二、三人くらいは、ゆとりを持って中に立てる大きさである。


 魔法陣が輝いた。

 人間の輪郭が現れ、陰影が濃くなり、しだいに姿がはっきりとしてくる。


 そこに現れたのは、背の高い人物だった。

 手に、黒い、長い杖を握っていた。


 長い黒髪の下の方は緩く三つ編みにされ、黒い瞳の奥に蒼い光が溢れ。

 腕には、黄金の髪をした幼女を抱いていた。

 ついさっき、パウルとパオラの目の前から消えたはずの、アイリスだった。


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