第4章 その26 長い夢から覚めたら
26
ものすごく長くてリアルな夢を見たことない?
例えばドラマチックで、映画みたいな。
夢の中では現実の体験だったのに。
目が覚めたら……
なぜだか、ふうっと、記憶から消えていってしまう。
あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは、そんな体験をしたのです。
主治医のエルナトさまに、往診にきていただくのに便利なように、我が家に転移魔法陣の設置工事をしてもらった時のこと。簡単な工事だという話で、公立学院の魔法学科……コマラパ老師の講座の学生、トミーさんとニコラさんが担当したのだけど。
……ちょっとした事故があったの。
(絶対にあってはいけないミスだって、トミーさんとニコラさんは、コマラパ老師や、カルナックお師匠さまはもちろん、先輩のルビーさんとサファイアさんに厳しく叱責されました。)
カルナックお師匠さまとあたしと、ルビーさん、サファイアさん、トミーさんとニコラさんは魔法陣に吸い込まれて、みんな別々の、どこか不思議なところに行っていたらしいの。
あたしは他の人とはぐれてしまった。
見たこともない場所に行って。いっぱい、人に出会ったの。……よく覚えてないけど。
感じのいい人たちだった気がする。
だけど、すごく怖いヒトにも出会って。
大きな……何かに……捕まりそうになったんだ。
帰れなくなる。家族にもう会えないって思ったら、怖くて怖くて。
『助けて、お師匠さま!』
カルナックさまにいただいた鈴を振って、強く願った。
そしたら、迎えに来てくれたの!
もうずっと、一生、カルナックお師匠さまの弟子でいます!
精霊石の腕輪も『黒竜の鱗』も、助けてくれた。
もっと詳しく思い出せたらいいのにな。
きっとシステム・イリスは、覚えてるはず。
だけど今は、深く眠っているみたいなのです。
彼女が目覚めるときは、いつ……?
※
というわけで無事に転移魔法陣は設置されました。
エルナトさまは一日おきぐらいに往診にきてくれてます。
魔力も安定して、すこし丈夫になってきたかな?
そのうちお出かけとかできたらいいな。
なんて、野望を持ってます!
そういえば、魔法陣から出てきたら、お父さまお母さま、エステリオ・アウル叔父さまが、やっぱり壊れていたのよね……
あたしが無事だったことを喜んで、家中が大騒ぎになったの。
みんなに心配かけてしまってごめんなさい!
って謝ったら、「これはアイリスが謝ることではない」って、カルナックお師匠さまが、魔法陣を設置した魔道士協会の責任だとおっしゃって、お父さまたちに詫びてくださったの。
ものすごい大魔法使いなのに!
みんな恐縮してしまったわ。
そしてカルナックさまは約束してくださったの。
年末の行事には、絶対に来てくれるって。
この世界は地球と同じ、一年は十二ヶ月、一ヶ月は30日または31日で、一年は365日。
古い年を送り出して、新しい年を迎える。
年越しは特別な行事なのです。
12月がやってくる。
三月生まれのあたし、アイリスは、四歳と九ヶ月になりました。