表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生幼女アイリスと虹の女神  作者: 紺野たくみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/363

第4章 その8 お友だちがほしい公女さま

         8


 柔らかな光に満ちた、静謐な空間に佇む、背の高い青年。

 長い銀色の髪、淡い青の瞳をして。

「わたしはいつも、どんなものからも君を守る。ルーナリシア。もしも困ったときには、呼びなさい。わたしの名前は………レ……・トール・オム……」


「トール、にいさま?」

 シアは首をかしげた。


 きっと、これは夢。


「兄さま……? 久しぶりに……そう呼ばれたな……」


 青年の優しい微笑みに、ほんの少しだけ、寂しげな影が落ちた。


         ※ 


 大きな鏡の前に、シアは立っていた。

 銀を磨いた鏡に映っているのは、長い金髪に緑の目をした、愛くるしい幼女の姿。


 瀟洒なレースがふんだんに使われている、くるぶしまである白いリネンのドレス、絹の靴下、白い絹地を重ねた上に小さな真珠をちりばめた刺繍を施した、柔らかな室内履きといういでたち。


 鏡に映る幼女は、にっこりと笑みをほころばせた。

「こんにちは」

 膝を軽く曲げて、会釈をする。


「こんにちは」

 シア姫は答える。


「シアのだいじなお友だち、きのうは、どうしていたの?」


 鏡に映る幼女が、うなずく。


「シアはね、きのうの夜、カルナックさまに絵本をよんでもらったの。とてもすてきなのよ」


「その子が、シアのお友だちかい?」


 ふいに、声がした。

 鏡の中に、見えたのは、背が高く美しい青年の姿。

 背中で緩く三つ編みにした長い黒髪に、青い瞳。

 人間離れした美貌の持ち主だ。


「カルナックさま!」

 シア姫は振り返り、近づいてきた人物に駆け寄って、飛びついた。


「一人で、よくお留守番をできたね」

 カルナックはシア姫の頭を撫でた。


「シアは、ひとりじゃないの。いつもキュモトエーとガーレネーがいてくれるもの。それに、精霊石のトール兄さまもよ」

「…………名乗ったのか」

 カルナックは、苦笑した。


「珍しいこともあるものだ」

 肩をすくめて言えば、


「もちろんシア姫が心のきれいな、いい子だからよ」

「彼も癒やされるべきでしょう」

 キュモトエーとガーレネーが、笑顔で答える。


「それは私と《世界の大いなる意思》の願いでもある」

 カルナックの顔から笑みが消えていた。


「シア、お友達を私にも紹介してくれないか」


「あのね、おともだちには、名前はまだ、ないの。でも、カルナックさまのこと、きっと、ぜったい、すごく大好きになるの」


「……それは、光栄だな」

 カルナックの顔に、笑みが戻った。


「いつも、こうやって遊んでいるのかい」


「うん!」


「さびしくないのか?」


「さびしくないわ」

 こう答えたシア姫だったが、その表情が、かげる。


「ふふふ。シアは嘘が下手だな」

 カルナックはシア姫を抱き上げた。


「もう少し待っていなさい。フィリクスのこの離宮にも、護衛騎士やメイド、料理人や、ちゃんとした人を雇って、シアにも側仕えをもっとつける。幸せになっておくれ」


「シアは幸せよ、カルナックさま」

 満面の笑顔だ。

「ここにきてからは、おにいさまといられるわ。こわいひとも、いじめるひともいない。それにカルナックさまも、遊んだり、ご本を読んでくださるもの」


「いい子だね。だけど、お友達はほしいだろう?」


「はい。ご本にでてくるみたいなおともだち! いっしょに遊んで、いっしょに冒険するの! そんな、おともだちがいたら、いいなあ」


「そのうち、かなえてあげよう」

 カルナックは厳かに誓う。


「いずれ紹介してあげる。シアとお揃いの、精霊石の腕輪を持っている子がいる。同じ日に生まれて、同じように、金髪に緑の目で、かわいい子だよ。……もっとも」

 続く言葉は、声を落として。

「だから、心配なんだ……大公の言質はとってあるんだが」


         ※

 

 シア姫ことルーナリシア公女の一日。


 側仕えのキュモトエーとガーレネーに起こされる。

(夜、寝る前に絵本を読んでくれるカルナックが、朝までいてくれたためしはない)


 兄フィリクス公嗣との朝食。

 この離宮に料理人はまだいない。前任者が自主退職してから後任がなかなか決まらないのだ。

 で、いまだに料理は、公立学院の食堂から、カルナックが教えている講座の生徒たちによって、転移魔法陣を使って運ばれてくるのだ。

 兄と妹は、仲良く、おいしいねと笑顔で食べる。

 フィリクスは可能な限り、書類仕事を離宮の執務室で行うが、どうしても外出しないわけにはいかない。


 公務に出かけるフィリクスを見送った後は、兄の離宮を探検したり、キュモトエーとガーレネーに文字を教わりつつ絵本をながめたり、部屋の中で遊んだり。

 ひとりで着替えたり、おもちゃを片付けるのも遊びの一環だ。


 もともとシア姫は非常にインドアな幼女だった。

 知らない人に会うのも、好きではなかった。


 三歳の『魔力診』で大勢の親族たちや、兄、姉たちに会ったのも、喜んではいなかったのだ。

 その時点のことは、キュモトエーとガーレネーは居合わせていないが、カルナックから聞いていた。


 フィリクス以外の兄、姉たちは、母親が違う。大公妃ではなく、数人いる側妃の子である。彼らはことあるごとにシアをいじめたり無視したりしてきたのだ。親たちの権力争いを反映しているのだった。


          ※


「その子はシアと同じ日に生まれた。金髪で緑の目をした女の子。シアとその子は、お揃いの腕輪をしているんだよ。私が作った。対の精霊石のね」


「お揃いのうでわ!」

 シア姫は、目を丸くした。


「いい頃合いを見計らって、会わせてあげるよ。絶対に、いい友だちになる」


「ほんとう!? カルナックさま、うれしい!」


「その子の名前はね。アイリスというんだ」

 カルナックの瞳の青が、いっそう明るく、光を放った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ