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最強令嬢は甘い言葉に弱い。  作者: 葉山 一
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入学式

クリスSide


入寮からあっという間に入学式となった。


「新入生代表挨拶」


司会進行がそういうと、会場はざわつき始める。


「新入生代表、シエル=フォーレンハイト」


ステージに登壇をしてゆっくりと話し始める少年。

中世的な顔立ちをしている美しい金髪の少年は、この国では知らない人はおそらくいない超が付くほどの有名人だった


(うわ、凄い美人…シエル殿下って同級生だったんだ…)


現国王マクシミリアン=フォーレンハイト陛下の息子であり、第二王子のシエル=フォーレンハイト殿下が、堂々とした態度で壇上で挨拶を行う。


魔力を持つ人間は王子でも貴族でも平民でも必ず召集されるのが、この魔法学園の制度だった。


(もしかして殿下も寮生活をするのかしら!?)


会場の女性たちはまるでアイドルのLIVEのように叫んでいた。

普通の入学式ではありえない光景だ。


ただ、せっかくの殿下のお言葉もところどころかき消されるくらいの騒ぎになってしまい、壇上にいるシエル殿下の表情は少しずつイライラしているようにも見える。


そして更に会場を騒がせたのは、次の在校生代表の挨拶だった。


「在校生挨拶、リュカ=フォーレンハイト」


黄色い歓声だけではない、興奮しすぎてきゃーっというよりもギャーーーーーッ!!って感じの叫び声だった。


この国の第一王子のリュカ=フォーレンハイト殿下は、今現在最も美しい王子として世界的にも有名な王子様なのです。


シエル殿下と違って、常に笑顔で対応しているリュカ殿下。

正直挨拶ところではない。


リュカ殿下は生徒が落ち着くまで笑顔で手を振り続け、少し落ち着いたところで短めの挨拶を済ませて降壇した。


(どうせ俺の話なんて興味ないだろと言わんばかりの短い挨拶)


ただ、それを気にしている生徒はあまりいないようで、笑顔で手を振ってくれたことへの感激の言葉ばかりが周囲からは聞こえてきた。


(それにしても、王子が2人も在学している年に入学することになるとは…すごい運が良い気がします)


学園を卒業したらすぐに領地に戻るつもりの私は、おそらく今後殿下達を見ることはないだろう。

ある意味一生ものの思い出だ。


(テレビや写真集があれば良いのですが、残念ながらこの世界にはそういった類の技術は存在していないようですし)


クールな見た目で魔女と呼ばれてはいるが、私だって恋愛に全く興味がないわけではない。

それなりにイケメンをみてテンションが上がったりもする。


ただそのテンションに表情がついていかないだけである。




こうしてアイドルのLIVEのようなテンションの入学式を無事に終えて、それぞれの教室へ向かう。

幸いユリアとはクラスが同じだった。


前世の学校では双子は基本クラスが離れてしまうものだと思っていたが、ここの学園ではクラスは家柄順に決められるようだ。

同じ家の出身であれば同じクラスになるのは必然である。


以前は能力順に決めていたりもしていたらしいが、平民と貴族を同じクラスにしてしまうと色々と弊害があったらしく、今はこの形で落ち着いているらしい。


(やっぱり漫画や小説みたいに平民いじめとかあったのでしょうか)


どうしても身分差や差別意識が強い国では、そこらへんは埋められない溝なのかもしれない。

特に王都はそういった格差が大きいらしい。


ちなみにうちの領地では身分差は確かにあるが、差別とかはあまりない。

田舎だからというのもあるかもしれないが分け隔てなく領民と関わっている。


領地では私自身伯爵令嬢らしくドレスやワンピースを着て過ごすということはほとんどなかった。

動きやすい服装で自警団のメンバーと共に馬に乗って近くを見回りしたり、時には狩猟を行い食料の確保を行っていた。


プラスして前世の記憶のせいか日々鍛錬を行わないと落ち着かないので、日々の鍛錬も怠らない。

一日でも鍛錬を怠ってしまうと恐怖で眠れなくなってしまうのだ。

その為、自警団のメンバーといつも一緒に鍛錬を行っていた。


(前世の父、恐るべし)


ちなみに学園にも木刀を持ち込み、早朝にこっそり素振りとランニング等をしている。

私をよく知る人なら問題ないが、伯爵令嬢が日々素振りやランニングをしているなんて知られたらまた何を言われるかわからない。


あくまでこっそりしています。


「あっ、クリスお姉さま!もしかしてあれ、殿下じゃない?」


ユリアが小さく教室の隅の席に座っている殿下を指さす。

周りは女子に囲まれていて隙間からちらちらとしか姿は見えないが、そこにはつまらなさそうな表情で座っているシエル殿下の姿があった。


「そうね」


そう答えて私は自分の席を確認する。


「……あ」


「ん?」


今日は私の命日になるかもしれない。

私の席は殿下の前だった。


「お姉さまラッキーですわね!」


ユリアは呑気に笑っているがシャレにならない。

あの人込みに飛び込んでいく勇気もなれければ、あんなイケメンの近くにいて平静でいられるわけがない。

いつも以上に顔がこわばっているのがわかる。


「クリスお姉さま!ほっぺたが固くなってますわ」


ユリアがむにむにと私のほっぺたも掴む。

あぁ、癒される。


「まぁ、殿下にとっても丁度いいんじゃありません?結構うんざりした表情してますし、お姉さまが行けば人除けになりますわよ?なんたって噂の氷の令嬢なんですから」


まだ2~3日しか経っていないというのに、噂が広まるのは早いものですでに結構認知されているらしい。


「嬉しくないけど……」


「まぁまぁ、それが殿下の為になるのであればいいじゃありませんか。お姉さまが優しくて可愛らしいことは私が知っていたら十分ですわ!」


確かに、大事な人たちが知ってくれていたら十分なのかもしれない。

前世では家族でさえもこんな風に言ってはくれなかった。


(こんな素敵な家族に恵まれているのに、それ以上を望むのはバチが当たりそうだ)


ユリアの頭をそっと撫でて、自分の席を見つめる。

どっちにしろそろそろ席につかなければ先生が来てしまう。


私はよし、と気合を入れて自分の席に近づく。


(なるべく和やかに…笑顔で)


「あの」


取り巻きの外側にいたご令嬢に声をかける。


「ちょっとなんですの。今忙し…ひぃっ」


「私の席、そこなんですが」


自分の席を指さす。

ご令嬢の小さな悲鳴に近くにいた他のご令嬢たちも振り向く。


「私の席、そこなんですが」


返事もなく、ただ固まっているご令嬢たちに私はもう一度同じ言葉を伝えた。


「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!!!」


彼女たちの悲鳴と共にざざっと道が開く。

私はその道をすたすたと歩き、席に着いたところで未だ固まってる彼女たちを見つめた。


「先生そろそろ来ますよ」


あくまでにこやかに言ったつもりです。

緊張もあってかなりぎこちなくなってしまった自覚はありますが、あくまで当社比120%増しくらいでにこやかに対応させていただきました!


しかしご令嬢たちは小さな悲鳴をあげて、半泣きになりながら一瞬で自分のクラスまたは席に戻っていきました。


(やけに女性が多いと思ったら他クラスの方もいらしていたのね)


私は小さくため息を吐いて前を向いた。


あんな可愛らしい女性たちを怯えさせてしまうなんて本当に情けない。

自分でほっぺをむにむにしながら反省をする。


シンと静まり返った教室の中で、その様子を笑顔で見ていたのはユリアだけだった。



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