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最強令嬢は甘い言葉に弱い。  作者: 葉山 一
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初めての友達


私の前世の学校の思い出といえば、いじめ関係ばかりだった。


(ここに来た当初はいじめられないかびくびくしていましたが、変な人に絡まれることもなくて平和そのものです)


剣道一筋で友達も出来ず、身体は練習と父親からの暴力で痣だらけ。

クラスメイトからは気味が悪いといじめられ続けた学校生活。


しかし、今はいつもユリアが隣にいてくれる。

ランチもエリック様達と食べるのが日課になっていて、隠れてトイレで食事をしないといけないという心配もない。


(前世が特殊だっただけで、案外いじめというものはそうそうあるものじゃないのかもしれませんね)


呑気にそんなことを考えていたら、少し遠くから怒鳴り声が聞こえた気がする。

私はなんだろうと声の方へ向かった。


「成り上がり貴族のくせに生意気なんだよてめぇは!」


「ルドワイヤン侯爵家の次期当主であるアーベル様にぶつかっておいてその態度はなんだ!!」


そこには1人の女の子を取り囲む3人の男たちがいた。


(案外いじめはないんだなんて能天気に考えていたタイミングでさっそく現場を見つけてしまいました!!)



しかもいじめている側の男たちには見覚えがあった。

3人ともクラスメイトだ。


取り囲まれている女の子は小柄でとても可愛らしい女の子だった。

まさに守ってあげたくなるような正統派のヒロインという感じの女の子です。


こういう現場はぜひ誰かヒーロー的存在の…例えばリュカ殿下あたりが通っていただけたら、悪い奴をささっと片付けてヒロインの女の子と恋に落ちる素敵な物語に発展しそうなのだが…。


周りを見渡してみるがリュカ殿下どころか人気もなく、誰も見当たりません。


(ここで私が行ってしまったら、次のターゲットは私になってしまうかもしれない)


ここまで大人しく平和に過ごしてきたが、それが全て水の泡になってしまう。


「成り上がりの何処に問題があるのかしら?」


ぐるぐると考えていたら、女の子が口を開く。


「そもそも前を向かずに歩いてぶつかってきたのはそっちでしょ?私は一回謝ったし、次謝罪をするのはむしろそっちでしょ?」


あれー?守ってあげたくなるようなヒロインはどこに消えました?


「これだからマナーのなっていない庶民出の奴は嫌いなんだ」


「こういう頭の悪い奴は痛い目をみないと学べないんですよ」


男たちの会話が不穏になっていく。

アーベルは見下した目で女の子を見た。


そして彼の右手が光る。


魔法反応だった。


「ひっ」


それまで強気に返していた女の子の顔が怯えた表情に変わる。


(まさか魔法を使う気!?)


ドスドスドスッ!!!


「うわぁぁぁっ」


私は思わず、彼らに向けて氷の矢を放った。

もちろん1本も当てることなく矢は近くの壁に突き刺さる。


「こんなところで何をしてますの?」


私は男たちから女の子を庇うように女の子の前に立ち、男たちを睨みつけた。


(思わず出てきてしまいました!どうしましょう!!でも、あの状況を見過ごすなんて私にはできない…)


カッコよく登場したものの、内心は次のいじめのターゲットにされてしまうのではないかと心臓がバクバクしている。


「げっ氷の令嬢じゃねぇか!!」


「殺されるっ」


しかし、そういった心配をよそに彼らはあっという間に逃げて行った。


「…よかった」


私は思わずその場に座り込んだ。

正直何か言い返されていたら平静でいられる自信がなかった。


「大丈夫?」


可愛らしい少女は、心配そうな顔で私に手を差し出してくれた。

これじゃあどっちが助けた側かわからない。


「そちらこそ…」


「私は大丈夫。魔法を使われそうになったのにはびっくりしたけど、あんな絡みは日常茶飯事だから」


「何故?」


「なーんか、私の態度が気に入らないらしい。成り上がりの成金貴族のくせにーって」


可愛らしい見た目とは少し印象の違うさっぱりとした口調の彼女。

貴族らしいかといえば確かに違うかもしれない。


「でも、まさか噂の氷の令嬢が助けてくれるなんて思わなかった。私の名前はアイリス=ワーグナー。同じ1年で隣のクラスなんだ」


「クリスティーナ=グレンヴィル」


私は彼女の手を掴み、立ち上がる。


「いやー、やっぱり私に貴族クラスは向いてない。平民クラスがよかったなー」


未だに身分差や差別が多いこの世界。

平民と貴族の溝というものはやはり存在するらしい。


「正直まだクラスに馴染めてないっていうか、友達も出来ないんだよね。それでずっと一人で行動してたらああいう変なのに絡まれるし、なんかやってらんない。好きでこの学園にいるわけじゃないのに」


(あぁ…なんかわかるなぁ)


私もユリアがいなかったら同じ道を辿っていた。

ユリアがいなければずっと一人だった自信がある。


「じゃあ…私が友達」


「え?」


「私が友達になる…」


私がアイリスの両手を握ると、彼女はとても驚いた表情もしていた。


「全然、氷じゃないじゃん」


よろしくねと笑うアイリス。

その眼は少し潤んでいるように見えた。


私、何気に人生で初めて友人というものが出来ました!!!!


「クリスお姉さま!」


遠くからユリアの声が聞こえた。


「クリスお姉さま!ご無事ですか!?」


勢いよく抱き着いてくるユリア。

私はよろけて後ろに倒れた。

後ろからエリック様とエドアルド様も走ってきている。


「どうしたの?」


「校舎裏で氷の令嬢が暴れてるぞって騒いでいる輩がいたので、お姉さまの身に何かあったのではないかと心配になって探しておりました!!」


どうやらさっき逃げた連中が色々騒ぎまくっているらしい。


「大丈夫ですよ」


「す、すまない。私のせいで変な噂が…」


「アイリスのせいじゃない」


「あら、こちらの方は?」


ユリアは必至すぎて、隣にいるアイリスにようやく気付いたらしい。







「ルドワイヤン家の奴らは相変わらず質が悪い」


エリック様がため息を吐きながら呟く。

どうやら侯爵家同士関りがあるらしい。


「でもよかった。君のような可愛らしいレディが無事で」


エドアルド様はアイリスの手の甲にキスを落とす。


「ちょっなにすんの!!!」


アイリスは顔を真っ赤にしながら思わずエドアルド様の顔面を殴る。

ちょっと、いや結構痛そうだ。


「いたたたた…この僕が女性に顔面を殴られるなんて」


「だ、だって!いきなり変なことするからでしょ!」


どうやらアイリスはあまり男性への免疫がないらしい。

私も人のことは言えないけど。


「まぁまぁ落ち着いてくださいな」


間にユリアが入る。


「でも、理由は何であれお姉さまに同じ年の友人が出来たのは喜ばしいことですわ!誤解されがちなんですが、お姉さまはとてもお優しい方なのでぜひ仲良くしてくださいね」


「は、はぁ」


「そうだ!せっかくなので親睦を深めるために今から少しお茶をしましょう!さぁ、行きますわよ!」


興奮気味のユリアに連れられて、全員でサロンに移動する。

確かに今日は嬉しい記念日だ。


怖かったけど、勇気を出して飛び出してよかった。



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