表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

椿井蛇子という女

作者: 冷え性

波野花純の場合

 椿井蛇子という女は実に狡猾でいやらしい女だ。だから蛇子が殺されたと聞いた時は自業自得だと思った。蛇子とは小学校から今の高校までずっと一緒だった。とりわけ仲が良かったわけでもないが学校ですれ違えば軽く挨拶するくらいの関係だった。幼い頃から彼女の存在は異彩を放っていた。大きな瞳と真っ白な肌、綺麗な長い黒髪。誰がどう見たって正真正銘の美少女だ。いつでも彼女は注目の的だった。彼女は良い意味でも悪い意味でも有名だった。蛇子を見た男たちは一瞬で彼女の虜となり女たちはそれをひがんだ。そんなことを知ってか知らずか蛇子の男遊びはどんどんエスカレートしていった。男の前では物静かで微笑みを絶やず優しい女を演じる。しかし裏では人の男を寝取り、浮気癖もひどいものだった。そのため彼氏を奪われた女たちは怒り狂い彼女をいじめの標的にした。しかし彼女はあの事件の日まで一日も学校を休まなかった。彼女はクラス中の女子から無視されても、内履きや体操服が勝手に捨てられていても、泣くことも怒ることもせず、男たちのそばでいつも笑っていた。まるで女たちのことを嘲笑っているようだった。端から見ていた私はそんな彼女のことを正直羨ましくもあった。誰にも屈することのない姿に憧れや嫉妬を抱いていたのかもしれない。でもさすがに殺されるのはまっぴらごめんだ。ましてや自分の父親に殺されるなんて。しかし彼女の父親は本当の父親ではない。本当の父親は蛇子が小学校を卒業する前に病気で亡くなったらしい。その頃だろうか、少しずつ蛇子が男に媚びるようになったのは。今の父親は蛇子の母親の再婚相手らしい。確か蛇子や私が中学2年の頃だ。周りの男たちに蛇子が言いふらしていた。新しい父親ができたと嬉しそうに。そんな大好きな父親に殺されるなんてきっと蛇子がとんでもなく相手を怒らせるようなことをしたのだろう。人を不快な気持ちにさせることは彼女の得意分野なのだから。だから彼女が殺された時、私は彼女に対して自業自得だと思った。


林田樹の場合

 椿井蛇子という女性はとても優しく可憐な女性だ。だから彼女が殺されたと聞いた時はとてもショックだった。彼女を初めて見たのは高校の入学式だった。大きな体育館に沢山の新入生がいる中でも彼女は光り輝いて見えた。一目惚れだった。1年の頃は隣のクラスであまり接点がなかったが、隣のクラスを通るたび、いつも彼女の姿を探した。彼女はいつも人に囲まれて人気者だった。一日中本ばかり読んでいる自分とはまるで住んでいる世界が違った。天と地ほどもある彼女との距離を早い段階から感じていた僕は、彼女を遠くから眺めているだけで満足していた。だけれどそんな僕に転機が訪れた。2年になり、彼女と同じクラスになれたのだ。本当に嬉しかった。これで彼女を近くで見ることができる、会話はできずともすぐそばで眺めることができる喜びに舞い上がっていた。新学期になり僕は相変わらずクラスの隅っこで読書に明け暮れていた。

「何、読んでいるの?」突然上から声が降ってきた。本から顔を上げると目の前に彼女の顔があった。かすかに鼻が当たり心臓が飛び出るかと思った。僕がアワアワと言葉にならず慌てているとふふっと微笑み自分の席に戻って行った。彼女にとってはほんのいたずらだったのかもしれない。だけれど僕にとっては大事件だ。まるで天使を間近で見た感覚だ。彼女が席に戻る時に揺れた髪の毛からは柔らかく甘い花の香りがした。僕はこの香りを一生忘れない。たとえ彼女がもうこの世からいなくなったとしても。



百合春隆の場合

 椿井蛇子という女はとても美しい女だがいつも孤独であった。だから彼女が殺された時は少し気の毒に思った。彼女とは共通の知人を通じて出会った。絵のモデルを探しているところに友人から美人を紹介してやると言われ出会ったのが蛇子だった。高校2年生には見えないくらいに大人びた容姿と美しさ、しかし笑うと残るあどけなさにまだ彼女は少女なのだと感じた。最初は彼女を自分の通っている美大のアトリエに招き、デッサンのモデルをしてもらっていた。だけれどもっと親密になりたいと思う自分の男の部分に押されるように彼女を自分の家に呼ぶようになった。彼女も嫌がることなく家までやってきた。どんどん近くなる距離にもうお互いを止めることはできずついに肉体関係を持つようになった。完全にもう彼女は自分のものだと確信していた僕は彼女に交際を申し込んだ。しかし彼女がうなずくことはなかった。物静かに優しく微笑む彼女の瞳はいつも寂しげだった。彼女は何か落ち込むことがあると自分の家に来るようになった。お互い何を話すわけでもなくただ肌を寄せ添うだけの不思議な関係になっていた。そんなある日いつものように一緒に寝た後のこと、自分の胸の中で泣いている彼女に気づいた。訳を聞くと初めは黙っていたがやがてポツリポツリと話し始めた。彼女の新しい父親とうまくいっていないこと。昔はたまにだったが最近は頻繁に彼女を殴るようになったこと。彼女の家庭の事情については初めて聞いたが蛇子の涙を見たときに、彼女からいつも感じる寂しげな雰囲気に納得した。彼女が男に困っているところは見たことがないが、女の友達と一緒にいる所はもっと見たことがない。多分嫌われているんだろうなと薄々は感じていたが、彼女から友達が欲しいとは決して言わなかった。けれど大人びているとはいえまだ心は子供であって相談できる友人や彼女を守ってやれるような大人が近くにいないことは、彼女に精神的な孤独を感じさせていたのだと思う。だから彼女が殺された時に誰も彼女の死を悲しむものがいなかったのではないかと考えると少し気の毒に感じた。



椿井紅子の場合

 椿井蛇子という女は正直あたしにとっちゃどうでも良い女だったわ。前の旦那との子だったけどあたしは最初産む気はなかった。けどあの人が二人の子供が欲しいっていうから仕方なくだった。あたしはまだ遊び足りなかったのよ。男なんていくらでもいたし今でもそう。蛇子は私に似たんだから感謝して欲しいくらいだわ。まあだからといって別にあの人があたしの代わりに大切にしてあげてたから私もそこまで手がかからなくて楽だった。だからあの人が死んだ時少し焦ったの。これからあたしがこの子の面倒を見なきゃいけないと思った時私の時間がなくなると思って。でもあの子もさすがあたしの子ね、しばらくしてからうまく男捕まえてたみたいだから。夜も基本的には別々だし。あたしがあいつを連れてきた時も何も言わなかったし。まあ、あいつが一人増えたところで変わらないから。でもまさかあいつが蛇子を殺すなんて思わなかったわ。蛇子のこと気に入ってたみたいだったから。殴られているのも知ってたけどあんなのしつけと一緒よ。あの子も可愛そうだけどある意味一番綺麗な時に死ねたから親としては良かったんじゃないかって思ってるけどね。やっぱり女にとって若さと美しさは命より大切じゃない?



椿井蛇子の場合

 椿井蛇子という女はただの空っぽな人形に過ぎない。お父さんが死んだ時、私も一緒に死んでるの。肉体は生きているけれど心は死んでる。だから中身のない空っぽな人形。椿井蛇子はみんなの幻想のようなもの。結局はみんなこの入れ物しか見ていない。クラスの女たちも男たちも外側しか見ていない。お父さんの面影を探して大人の男にも頼って見たけどただ同情されただけ。私があいつに殴られたからといって弱気になんてならない。あの汚らしいあいつ。母親だけじゃなく私にも手を出してきた見境がないただの獣よ。母も自分が可愛いだけの中身がない人形。私と一緒。外見なんてみんなひん剥いてしまえば同じなのに。でもお父さんだけは違う。お父さんだけは私の全てを見てくれた。全てを愛してくれた。心から愛情を感じられたのはお父さんといた時だけ。だからお父さんがいない世界なんていらない。早く死んでしまいたかった。あいつを挑発したら顔を真っ赤にして暴れ出したわ。滑稽だった。包丁持って脅したらうまく乗っかってきてタイミング良く刺されてやった。あいつの焦った顔が忘れられない。死んでも笑えるわ。椿井蛇子の人生はとても短かったけれど濃密な時間だったんじゃないかしら。天国はまだ知らないけれどきっとお父さんが待っていてくれるわ。じゃあね。


最後まで読んでいただきありがとうございました。今読んでいただいた皆さんからは、果たしてこれは小説なのか?という疑問がふつふつと湧いていることでしょう。実はその疑問、私もなんです。ポッと思いつき書き出しては見たものの起承転結のきの字もないような話をつらつら書いているだけの作品になってしまいました。まあ初投稿作品として多めに見てくださいってことで今後もこんな変な短編が出るかも?出ないかも?しれないので、ご感想いただけましたらたくさん書こう!という気持ちになると思います。何卒よろしくお願いいたします。

ではでは以上、ここまで読んで下さり、改めてありがとうございました。冷え性がお送りいたしました!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ