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視察


 アイナと一緒にダンジョンに潜る日が数日続いた。

 今日もダンジョンを探索するべく、ギルドで受付を済ます。


「あ、コージさん、ちょっと」


 受付の馴染のお姉さんに声を掛けられた。


「コージさんがこちらにこられて一週間になります。ギルドの宿舎に泊まれるのは昨日までになりますので」


 事務的に告げられた。

 そういえばそれくらい経っていたなあ。

 そういうのって前日とかに言っておいてくれよ……とも思ったが、昨日はたまたま違うカウンターのお姉さんで受付したので、忘れられたのかもしれない。

 そもそも初めに聞いていた情報だし。

 親切に対応していただいたと思うことにした。


 ちなみに、ダンジョンに潜り出してまだ4日しか経っていないが、第一階層での探索は軌道に乗っている。

 普通に暮らしていくには十分なくらいだ。

 手取りでいうと6~7000ベル。

 今までは宿代がかからなかったので、アイナへの借金を返しても毎日3~4000ベルは貯金できていたが、宿代を引くと2000ベルほど少なくなる。

 それでも赤字にはならないしカツカツの生活というわけではない。


「今日はお祝いですね!」


 アイナがにっこりとほほ笑みかけてくる。


「お祝い?」と聞き返すと、この世界での風習的なことを説明してくれた。


「ええ。いわゆる一人立ちということです。ギルドの宿舎から宿屋に移るっていうことはこの世界での生活が安定してきたっていうことですから」


 なるほど。

 試用期間が終わって正式採用される感覚に近いのかもしれない。


「っていうか、ギルドの宿舎って強制的に利用できなくなるんだろ? もし稼げてない状況だったらどうなるんだ?」


「えー、そういう人は聞いたことないです。わたしみたいに一般人スタートでもなんとかなりますから」


 ということらしい。

 俺みたいに一人では暮らしていけない低ステータスはそもそも存在しないってことだ。

 お祝いっていうか、まあ通過儀礼みたいなものか。

 少し残念感はするが――俺はそもそもアイナが居ないとやっていけない――、風習は風習、儀式は儀式として割り切ることにする。


「よし! じゃあ今日もガンガン狩りまくって稼ぐだけ稼ごう!」


「はい!」


 そんな感じで気合を入れていると、ギルド内がざわざわしだした。

 どうも、注目を集めているパーティがいるようだ。


「どうしたんだ?」


 とアイナに尋ねる。こういう時もアイナ頼りだ。俺より先輩なので得ている知識量は多い。


「えっとですねえ……」


 アイナは、言い澱んでいると、近くに居た顔なじみの冒険者が口を挟んできた。


「がははは! お前には関係ねーよ」


 前世ではトラックの運転手か土木作業員でもしてたような豪快なおっさんだった。


「関係ないってどういうことです?」


「勇者様の定期視察ってやつよ」


「定期……視察?」


「ああ、既に魔王を倒した実績のある奴は【勇者】の称号を与えられる。それで次の世界に行っちまうやつも多いが、魔王を倒し続けたり、レアなアイテムを集めたりとこの世界に居残るやつも多い。

 今日来たのは有名なパーティ【漆黒の輝き】の勇者一行だな。定期的にこの転生者が最初に訪れるギルドに来て、有望な才能を持った奴が居ないか確認しにくるんだ。戦力増強の意味を込めてな」


「パーティのメンバーって固定されてないのか?」


「ああいうところは2軍、3軍と別のパーティも管理している。実力主義、効率優先でたまに1軍メンバーの入れ替えとかもしているんだぜ」


 まあ俺には関係ない話だなーとか思っていると、そのパーティのリーダー的な奴が俺の方に向ってきた。


「あなたが最近やってきた『初めてさん』か?」


 単刀直入に聞いてくる。

 かなりのイケメン。装備も見るからに豪華で強力そうだ。

 どちらかというといけすかない部類に入るタイプ。

 だが、言葉遣いは一応丁寧だし、連れているパーティメンバーが綺麗な女性ばかりというわけでもないのがまだ嫌悪感を和らげている。

 魔法使いっぽい少女と騎士っぽい少女はハーレム要員のような気はするが、ごついおっさんも混じっているので本当に実力主義でメンバーを決めているのだろう。


「ああ、そうだ」


「念のために聞いておく。職業は?」


「『弱きもの』だけど何か?」


「噂には聞いていたが実際に見るのは初めてだ」


「珍しいらしいからな」


「レベルは?」


「1だけど何か?」


「いや……。ちなみに今はどこを探索している?」


「名もなきダンジョンの第一階層だけど何か?」


「なるほど」


 頷いてからイケメンは、アイナに視線を移した。


「あなたがこの方と一緒にパーティを組んでいるのだろうか?」


「あ、はい。そうです」


「理由は……」


「理由といわれても……」


 アイナが返答に困っているから俺が代わりに答えた。


「俺がひとりじゃあスライムも倒せない軟弱ものだから、面倒見て貰ってるんだよ。こっちはあんたらと違ってちまちまちまちまとせせこましくスライム狩ってようやく暮らせる身なんだ。用があるならあるでさっさと済ましてくれ」


「いや。すまなかった。正直に言うと、珍しい職業だから特殊なスキルを持っていたりしないかと念のために確認したくなってね」


 お、こやつなかなか見る目があるじゃないか。

 現状はただの『弱きもの』だが、将来性ってやつを見ぬいてやがる。

 俺はイケメンを少し見直した。


「だが、思い過ごしだったようだ」


「は?」


「時間をとらせてすまなかった。もう関わりあいになることはないだろう。せいぜい頑張ってくれ」


 イケメンは慇懃無礼にそういうと、さっさと踵を返して行ってしまった。


「びびったぜ! 一瞬兄ちゃんが実は凄い奴で勇者パーティからスカウトされるかもしれないと思っちまったじゃねえか!」


 おっさんがケタケタと笑い出した。

 あまりにも声がでかいので、釣られてギルド内の他の冒険者からも笑い声が漏れる。


 なにこれ? 晒し者?


「行きましょう」


 気を使ってくれたのか、アイナは俺の手を引き、ギルドから連れ出してくれた。

 ダンジョンに向いながらアイナは俺を見て言った。


「さっきはありがとうございます」


「何が?」


「わたしがコージさんとパーティを組んでいる理由です」


「ああ、事実をそのまま言っただけだけど?」


「多分知られてるとは思いますが、【取得経験値半減】について触れないようにしていただきました」


 あーそのことか。アイナが答えにくかったのはそういうことだったんだな。


「やっぱりわたしは人前でそれを口に出すのが恥ずかしくて。それに比べて堂々としているコージさんはかっこよかったです」


 俺のは半ば開き直りの半ばヤケクソだったりする。

『弱きもの』でも、アイナが居てくれるからなんとかやってけるから最近はあまり自分を恥じる意味も薄れてきた。

 それに、あのイケメンは見抜けなかったようだが、そのうち俺の隠された能力が覚醒するはずだからな。


「これからもよろしくお願いします。コージさんとパーティを組めて幸せです」


 アイナはひとしきり感謝をしてくれた。

 



 

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