役割分担
翌朝早くにアイナとギルドで待ち合わせ。
俺がギルドに着くと既にアイナは準備を済ませて待っていた。
「ごめん、遅くなった?」
「いえ、アイテムの購入とか今後の計画考えたりするのに早く来ただけですから」
アイナは何でもないように言う。
今の所完全にアイナにおんぶに抱っこだからなあ。
少しは役に立てるようにならないと。
というわけで、今日も二人でダンジョンへ向かう。
「えーとですね。やっぱり慣れるまでは安全第一で行きましょう」
アイナがいろいろと提案してくる。
まずはスライム一匹を相手に二人で戦う。
俺はスライムの注意をひきつける役。攻撃には加わらない。
それが軌道に乗ったら、今度はスライム二匹を相手にする。
俺が一匹を引きつけている間にアイナがもう一匹を倒し、残りはまたアイナが倒すというアイデアだ。
完全に俺ってそこに居るだけの役割だ。
「でも、今まではわたし一人だとスライム2匹居たら避けてましたから。それを相手にできるようになると効率はぐんと上がるはずです」
そういうことらしい。
「それで、お金を溜めてコージさんの武器を強化しましょう!」
とりあえずの方針が立てられたところで、スライムと戦っていく。
2匹のスライムは避けつつ、1匹で遭遇したスライムを5匹ぐらい相手取って戦う。
午前中はそれだけを行う。
「そろそろ2匹のスライム相手も試してみましょうか?」
「ああ」
昼食を挟んで午後からは第二段階。
遭遇したスライム2匹を相手に、
「じゃあ、右側のはわたしが。コージさんは左を引きつけておいてください!」
アイナの指示で、俺は左のスライムに向った。
さすがに余裕はあるので、こん棒でペシペシと叩く。
3発ぐらいで一旦様子見に戻る。
スライムが力を溜めて攻撃態勢を取るので余裕を持って躱す。
そのルーティンを3回ほど終えたところで、
「こっちは倒せましたから後は任せてください」
とアイナが俺の担当のスライムに参戦。
俺は注意を引くだけの係。
ほどなくしてスライムは倒される。
「大丈夫みたいですね。この調子で行きましょう!」
だいたい10分置きにスライムと遭遇しては倒すというのを延々と繰り返した。
作業ゲーだ。
「なんかごめん……」
あまりにも役に立てない自分がみじめになってアイナに詫びた。
「いえ、コージさんが居てくれて助かります!
2匹を避けるのと効率が段違いですから!」
確かに。
午前の4時間ほどで倒したスライムは10匹少々。
午後の同じ時間で倒したスライムは30匹近くにもなる。
その差は2匹編成のスライムを避けたかどうかという明確な違い。
「わたし一人だと2匹相手だとダメージを受けてしまうことが多いので」
俺にも存在価値はあるってことかな。
そう思うようにしよう。
結局その日は50匹ほどのスライムを倒して終了することになった。
ギルドに帰って換金する。
10000ベルちょっとになった。
「じゃあこれがコージさんの分です」
と、アイナはきっちり半分を渡してくる。
5000ベル少々。
さすがにそれは受け取れないと俺は、拒んだ。
「ほとんど……っていうかスライムは全部アイナが倒したんだし」
「でもパーティなんで半分こです」
「でも……」
「半分でもいつも稼いでる金額と同じくらいなんですよ!
今日は午前中は、様子見してたから明日はもっと稼げますし!」
アイナは目をキラキラさせて言ってくる。
あかん、ブラックに慣れて金銭感覚おかしくなってるやつや。
まあ転生前の自分もそうだったから人の事は言えないけれど。
このままだと押し付け合いになるので、とりあえずお金は受け取った。
その上で、
「今日はまだギルドの宿舎に泊まれるから、晩飯を奢るよ」
「はい」
アイナは快く受け入れてくれた。
もう3日もお世話になっているからその分くらいは支払わせて貰いたい。
あと思いついたことをついでに言う。
「それから、俺に使ってくれたポーション代も返したい」
「え、えっとぉ……」
それを聞いたアイナは目を伏せた。
「え? 高いの?」
「け、けっこうします……」
「分割払いでもいい?」
「もちろんです。それにコージさんならポーションじゃなくて薬草でも十分だったと思うんです。薬草ならそんなにしないんですけれど、あの時は持ってなくて……。
それはわたしの落ち度なんで薬草代でも結構です」
「いやそれは……」
言い渋るアイナからなんとかポーションの値段を聞きだした。
ポーションはなんと10万ベル。
死ぬよりマシということでみんな保険の意味合いを込めて貯金して買うものらしい。
いざという時の備えとして。
「一日、1000ベルずつ……。100回払いでいい?」
「ええ、なんかすいません」
ちなみに薬草は、5000ベルとポーションに比べるとお手頃だった。
にしてもこの世界、物価が高い。