ダンジョン
てくてく歩いてダンジョンにやってきた。
事前にギルドで貰った入場許可証を見せると、門番のおっさんは優しく対応してくれた。
「アイナちゃん、パーティメンバー見つかったのか?」
アイナとは顔見知りのようで、嬉しそうに話しかけている。
「ええ……」
答えるアイナは、少し沈みがちな表情をしている。
「良かった、良かった! 兄ちゃん、アイナをよろしく頼んだぜ」
とおっさんに肩をバンバンと叩かれる。
「いや、お世話になってるのは俺のほうなんで」
と事実を述べていると、
「おい、入るなら入るでさっさとしてくれねえか」
と後続の冒険者パーティから声を掛けられた。
「あ、お先にどうぞ……」
と身を引くアイナに倣って俺も道を開ける。
そいつらもアイナや俺のことは知っているのか、
「ふん、物好きな奴もいたもんだ……」
などと捨て台詞を吐きながら、ダンジョンへと入って行こうとする。
当然物好きとはアイナのことだと俺は理解していた。
成長の望めない【弱きもの】である俺とわざわざパーティ組んでくれたんだから。
なので、アイナに、
「わざわざ俺なんかと組んでもらってごめんね」
と謝った。素直に。
それは、通り過ぎた冒険者にも聞こえてたようだ。
立ち止まって振り返って、
「まあ、アイナも物好きだが、あんたも相当だと思うぜ。それとも聞いてないのか?」
と含みを持たせた口調で尋ねてきた。
ふとアイナを見ると、俯いて辛そうにしているようにしているのが見えた。
「あのなあ! アイナは俺なんかとパーティを組んでくれる優しいやつなんだ!」
耐えかねて言い返した。
「優しい? うそつきの間違いじゃねーか?」
と冒険者は言い返してくる。
カチンときた俺は言い返す。
「アイナはうそつきなんかじゃないだろ! 親切で優しい子だ!」
が、当のアイナは、
「いいんです! コージさん。嘘……じゃないけれど、まだ伝えていないことがありますから……」
と俺の腕を掴んで言う。
「ほれ見ろ! まあ、聞いたところで他に組む相手の居ないお前らだ。せいぜいくたばんねーよーに低階層でちまちま小銭稼ぎでもしてろよ」
それだけ言うと冒険者は、去っていく。
「ああ、言ってなかったのか」
と門番のおっさんが呟く。
俺だけ取り残されている感じだ。
が、しばらくすると、アイナは、
「ダンジョンに入る前に、いえ、入ってモンスターと戦う前には告白するつもりだったんです。隠してたとかじゃないんです」
と消え入りそうな声で伝えてくる。
それならば……と、俺は、
「じゃあ、とにかくダンジョンに入ろうぜ」
とアイナを促した。
すぐにモンスターと出会うわけでもないだろうし、このままパーティを解消されるのが怖かった。
ダンジョンに入るとすぐにアイナが喋りだす。
「あの、ギルドで掛けられた言葉、覚えてますか?」
「ああ、あの究極の晩成とかってやつ?」
思い当る単語を俺は口にするとアイナは頷く。
そして申し訳なさそうな口調、表情で、告白を始めた。
「わたしが誰ともパーティを組めない理由がそれなんです。【取得経験値半減】というマイナススキルを持ってしまっていて、それはパーティのメンバーにも影響してしまうんです」
「それって、レベルが上がるのが単純に2倍の時間がかかるってこと?」
「そうです」
アイナによると、レベルっていうのはモンスターを倒して経験値を稼ぐと自然に上がっていく。
結構時間がかかるものらしく、レベル1から2に上げるだけで1か月。
レベル2から3にはもう少し時間がかかって一月ちょっと。
自分の身の丈にあった適性モンスターを倒しての標準的な成長速度はそれくらいらしい。
レベル9から10に上げるには4~5か月かかるとか。
「気の長い話だなー」
俺は素直な感想を述べた。
「もちろん、他にてっとりばやくレベルを上げる方法はいくつかあります。ただスキルやパーティメンバーに恵まれていないとレベル10まで上げるのに平均して3年はかかると言われています」
「アイナはその倍の時間がかかるってことか」
「わたしだけじゃなくってパーティのメンバーもです」
申し訳なさそうにアイナは言った。
「ちなみに1から5に上げるのにはどれくらいかかるの?」
「本当なら1年ぐらいでしょうか」
レベル5というのは俺の最大レベルだ。
多分この後チート的な能力が発覚してレベルキャップは解放されるんだろうけれど、当面の目標は現時点での最大レベルであるレベル5なのだ。
「じゃあアイナと組んでると2年ぐらいはかかるってことか」
「…………」
アイナは黙る。
「…………」
俺も黙ってみる。
しばらくするとアイナは、
「なので、コージさんが一人でダンジョンを攻略できるようになるぐらいまではお付き合いさせていただくつもりです。」
と謝ってきた。
とても寂しそうな表情で。それでも俺への気遣いが見え隠れする優しさを持ったまなざしで。
違う。そうじゃない。
俺が聞きたかったこと。言いたいこと。思っていること。
それをアイナにぶつける。
「じゃあ2年間は俺だって成長していくからアイナからは見放されないってことだな」
でも、照れがあって素直には言えなかった。
「コージさん?」
いぶかしがるようにアイナは俺の顔を見つめてくる。
「だからさ。アイナが俺に愛想つかすまで、パーティメンバーとして一緒にダンジョンに行ってくれってこと」
「そんな……。一生ついていきます!」
いや、そんなおおげさな。それについて行くのは俺の方でしょ。多分。
俺にとびきりの笑顔を向けてくれるアイナに応えられるように。
序盤はお世話になりながらも、さっさと俺の真の力が解放されることを想像して明るい未来像を思い描くのだった。