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パーティ


 転生して二日目の夕方。

 俺は相変わらずギルドのバーに居た。

 何を注文するでもなく居座る俺は客ですらなく、店員たちから迷惑な目で見られていたが、他に行くところもなく、混んでいるわけではないので、追い出されたりしなかった。

 そもそもギルドと併設しているため待ち合わせに利用する冒険者も居て、明らかなルール違反だというわけでもないだろう。

 もちろん、文句を言われたら移動するつもりだったけれど。


 俺はこれまでの人生で、何度も苦境にはぶつかったけれどのらりくらりと生きてきたという自負はある。

 結果、到底幸せとは言えない、胸の張れない人生になったが、自分の力でなんとかやってきた自信はあった。

 結果として――おそらく――事故って死んでしまったのだが、生前の後悔がじわじわと押し寄せてくる。


 もっと勉強しておけば良かった。

 転職だって考えたほうが良かったかもしれない。

 会社に居続けるにしても、他の同僚と仲良くしておけば、もう少し過ごしやすい環境になっていたかもしれない。

 何時から、どの時点からやり直せば、違った人生になっていただろう。

 そんなことをグルグルと考えていると、


「コージさん! ちゃんとお昼ご飯は食べましたか?」


 と、声がかかった。

 見るとアイナの笑顔がそこにあった。


「ああ、アイナ……アイナさんか」


「え? アイナでいいですよ。なんです? 急に改まって?」


「いや、俺なんかと違ってちゃんと冒険者としてやってる先輩だし……」


 自然とアイナを見る目が変わっている。

 とことんまで自分がみじめになって、自分以外の人間がキラキラして見えるのか。


「そんな、気を使わなくても大丈夫です。それより、晩御飯まだですよね!

 遅くなってすみません。あんまり貯金がないので、二人分の食事代を稼ごうと思うと時間がかかってしまって……」


「食事代といえば……」


 と、俺はアイナから預かっていた800ベルを差し出した。


「え? 使ってないんですか?」


「ダンジョンに行こうと思ったら足りなかった。それに何もしていないから。働かざるもの食うべからず?」


「ちゃんと食べないとだめですよ! 死後の世界だとはいえ、病気にもなるし、食事は必要なんですから」


 アイナに誘われて、メニューから適当に注文した。


 食事をしながらアイナに聞いてみる。


「なんでそんなに優しくしてくれる?」


「え? 困っている時はお互い様というか……」


「返せる当てはないけど」


「それにわたしも今でこそ何とかやっていけるぐらいにはなりましたけど、最初の頃は大変だったからコージさんの気持ちはわかるんです」


 その言葉に偽りは無さそうだったが、仮にも順風満帆とは言えない生活を送っているアイナにそう言われてついついみじめになってしまう。


「アイナはいいよな。それでもなんとかやっていけてて」


 ふいにこぼれた正直な気持ちだったが、アイナの心には違った意味を持ったらしい。


「わたしだって、最初は本当に苦労して、それでも頑張ってなんとか今の状況までもってきたんです」


 怒っているわけではなさそうだけど、俺の言葉への非難が多分に含まれているのを感じた。


「あ、ごめん」


 とりあえず謝ったが、遅かったようだ。


「これ、一度貸したお金ですからお預けしておきます。明日も早いので失礼します」


 それだけを言うとアイナはテーブルを後にした。


 食事の面倒まで見て貰いながら、気分を害して帰らせてしまうなんてあまりにも最低だ。

 俺はますます自分を呪った。




 翌朝。

 昨日の朝はアイナの姿を見なかった。

 朝が早いと言っていたので、俺が来るよりも先にアイナは受付を済ませていたのだろう。

 アイナに会うためにギルドがオープンする時間よりも少し早く来て待っていると予想通りに彼女はやってきた。


「コージさん?」


「おはよう。昨日のこと謝ろうと思って」


「いえ、わたしもコージさんのこと考えずにあんな態度を取ってしまってすみませんでした」


「いや、俺のほうが謝らないといけない。すまなかった」


「気にしてませんから大丈夫です」


 アイナは笑って許してくれた。

 機嫌は悪くなさそうなので、昨日の夜から考えていたことをアイナに言うことを決意する。


「あの……あらためまして、アイナさん?」


「なんです? 気持ち悪いですよ」


「いや、お願いするのにちゃんとした言葉づかいは必要かなーって」


 俺だって元社会人。お客様や上司にはきちんと丁寧な言葉遣いができるのだ。


「普通でいいですって!」


 そういわれても、とりあえず言いたいことを言い切るまでは、初志貫徹で。


「知ってのとおり、俺はどこのパーティにも入れて貰えない。そこでお願いです。良かったらアイナさんと一緒のパーティに入れてください。

 迷惑かもしれないので、今日一日だけでも」


 言い切ってから深々と頭を下げた。


「わ、わ! 顔を上げてください!」


「お願いします!」


「そろそろ他の冒険者さん達も来ますし! 見られたら恥ずかしいですから」


「お願いします!」


「わ、わかりましたから」


「え? ほんと?」


「ええ」


 顔を上げた先にはアイナの笑顔があった。けれどその表情にはどことなく曇りが見える。


 それでもアイナは俺とパーティを組むことを決意し、一緒に受付で申請してダンジョンへの入場許可証を手に入れた。


「えっと、コージさんの装備ですけど、すみませんが、予算の都合上ちゃんとしたものを揃えてあげられません」


「そこまで面倒かけられないから大丈夫」


「武器は予備に持っているこん棒がありますので、これを使ってください」


 俺はアイナとおそろいのこん棒を手にした。

 防具に関しては、初期装備の布の服。


 いろいろ準備をしていると、他の冒険者たちもちらほらやってくる。

 それを見たアイナは、


「じゃあ、早速行きましょう」


 と、急かすように俺の背中を押す。


「見ろよ、あの二人。究極の晩成と最弱のコンビじゃねーか」


 などと言う声が。

 最弱というのは間違いなく俺のことだろう。

 ということは、アイナが究極の晩成。

 アイナは二つ名持ち? しかも聞きようによっては将来性抜群というように聞こえる。

 ひょっとして俺は凄い相手とパートナーを組むことができたのか?

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