やさぐれ
「なんかこうしょっぱなからやる気削がれてどうしよーもないモードだな」
俺はギルドに併設されたバーでエールとやらを飲んでいる。
ショックで茫然自失だったのでアイナが慰めてくれるために誘ってくれた。
無一文なのでもちろん支払いはアイナだ。
「弱きものだと一人でダンジョンにも行けないってか」
「残念ですけどそうですね。死ぬのが確定してます」
何気に酷いことをサラリという。
「パーティを組もうにもそんな厄介者を受け入れてくれる物好きはいない」
「はい。やっぱりみなさん効率を重視してますから」
慰めるというか事実を突き付けられて俺はますます機嫌が悪くなる。
「それでもこの世界で生きて行かなきゃならないんだな。ポイントを溜めるまでは」
「はい。ある程度のポイントを溜めて別の異世界に行けばまたそこでステータスが変わることもあるようです」
「別の異世界でもこんな最弱ステータスの可能性もある?」
「次の異世界に行くギリギリのポイントしか溜めてないとそういうこともあるかもです」
なんか絶望しかないな。次の異世界、あるいはすぐに現世に生まれ変わってもいいが、そこでそこそこの生活を得るためにはやっぱりポイントが必要。
だけど、今の俺にはそのポイントを得るための力が無い。
「あー、もういっそのこと知識チートでも使って商売始めるとかしか道はないのかなー」
そう。そうなのだ。なにも冒険者になるっていう道だけが残されているわけではない。
発明家、あるいは料理屋でもやればそこそこの稼ぎにはなるだろう。アイナ曰くそれだとポイントが溜まらないから、ある時点で強制転移で別の異世界に飛ばされて、また低いステータスからやり直すことになるそうだが。
まあそうやってのんびりと暮らすのもありか。
次の転生先ではもう少しマシな状況かもしれないし。
なんて考えていると、
「基本的に転生者は冒険者としてしか生きられないです」
とアイナから指摘が入った。
「そうなの?」
「ええ。この世界の人は弱いので、魔物なんかの相手やダンジョンでドロップ品を集めてくるのは転生者の義務として定められているんです」
知識チートすら封じられたようだ。
「とりあえず『初めてさん』は、申請すれば1週間はこのギルドで宿泊できますから、その間にパーティを組んでくれる人を探すのがいいと思います」
アイナはそうアドバイスしてくれた。
とはいえ、寝るところはあっても食事代は必要だ。
それに運よくパーティに入れて貰える可能性はかなり低そうだった。
とりあえずその日はアイナにお礼を言って、ギルドに泊まった。
翌日。
ギルドは朝から大賑わいだった。
フィールドでの依頼を受ける冒険者パーティ。
近くのダンジョンへ潜る申請書を取りに来るパーティ。
どこもかしこもパーティだらけだ。
たまにパーティメンバーを募集している組も居る。
「治癒術師を探している! 見習いでも構わない! 北のダンジョンの4階だ!」
「昨日、戦士が抜けてしまいました! 一般人でもかまいません! 戦士希望者はいないでしょうか?」
治癒術師でも一般人でもない俺はそういう勧誘に応じることはできない。
「ぷぷぷ、弱きもの」
ぼーっと周囲を眺めていた俺に声を掛けてくる少女が居た。
つば広のマジックハットを被った明らかなる魔法使い。
アイナなんかよりもさらに若く見える。小柄だがスタイルは良い。
「なんで知ってる?」
尋ねると、
「バーでやさぐれてたからみんな知ってる」
と答えが返ってきた。
それでみんな俺を憐れむような目で見たり、逆に視線を逸らしたりしてたのか。
それにしてもこいつ、知った上でわざわざ声をかけてくるなんて性格悪くないか?
ジト目で睨むと、
「モモは、もうすぐ魔導師なの。ゆーめーじんなの」
と聞いても居ない自慢をしてくる。
さらに、
「ソロでもじゅーぶんたたかえるの。きょうもひとりでダンジョンいくの」
確かに、モモって子に話しかけられてから周りの注目を浴びている気がする。
「モモとダンジョン行く? けーけんちわけてあげようか?」
からかうように俺に言ってくる。
こういうの、普通はプライドが邪魔して断わる展開になるんだろうな。
かくいう俺は、
「お願いします!」
即答で答えた。
「けーけんちもったいないからむーりー」
いじわるく言い放ったモモは身を翻して去って行った。
「からかわれただけ……か……」
爆笑とまではいかないが俺達を見ていたあちらこちらから笑いが起きてみじめな気分だ。
だけど、逆に闘志が沸いてきた。
クラスは『弱きもの』。
ステータスは最弱。
普通に考えたら一人でダンジョンなんてとんでもない。
ここは冒険者ギルドだから、危険を伴わない依頼なんて存在しない。
っていうか、依頼はそこそこの実績を伴わないと受けられないようになっている。
ってことはまずはダンジョンに行くしかない。
昨日のアイナの話では『弱きもの』は相当珍しいらしい。
ということは、逆に考えると知られていない特殊能力があるに違いない。
俺はその可能性にかけることにした。
意を決してダンジョンに潜る際に必要な許可証を取りにギルドの受付に向った。
「許可証の発行代として、1000ベル必要です」
スマートで美人なお姉さんは事務的に告げてくる。
昨日アイナからもしどこのパーティにも受け入れて貰えなかった場合にということで昼食代として800ベル借りているが微妙に足りない。
「そもそもランクFの冒険者のソロでのダンジョン探索は受け付けられません。死にに行かせるようなものですから」
お姉さんは冷酷に言い放つ。
だが、俺は食い下がった。
「今までにも居なかった? どう考えても活躍できないはずなのに成り上がっちゃう奴とか? 俺が多分そうなんだよ。もしかしたら俺がその草分け的存在なのかもしれないけど」
「そういう事例は認められてませんね。とにかくルールですので」
お姉さんは俺の熱弁を軽くあしらったのだった。