ダンジョン行くよ
てくてく歩いてダンジョンにやってきた。
事前にギルドで貰った入場許可証をアイラが見せると、門番のおっさんは優しく対応してくれた。
「アイラちゃん、パーティメンバー見つかったのか?」
アイラとは顔見知りのようで、嬉しそうに話しかけている。
「ええと……」
答えるアイラは、少し沈みがちな表情をしている。
「良かった、良かった! 兄ちゃん、アイラをよろしく頼んだぜ」
とおっさんに肩をバンバンと叩かれる。
「まあ任せといてくださいよ(俺には隠された秘能があるはずなんで)。それにお試しパーティですからね(明日も二人でダンジョンに来るとは言っていない」
と事実を述べていると、
「おい、入るなら入るでさっさとしてくれねえか」
と後続の冒険者パーティから声を掛けられた。
「あ、お先にどうぞー。ご邪魔してすいませんでしたね。こちとら、パーティでのダンジョン探索には慣れていないもんでー」
と卑屈に身を引くアイラに倣って俺も道を開ける。
そいつらもアイラや俺のことは知っているのか、
「ふん、物好きな奴もいたもんだ……」
などと捨て台詞を吐きながら、ダンジョンへと入って行こうとする。
当然物好きとはアイラのことだと俺は理解していた。
成長の望めない【弱きもの】である俺とわざわざパーティ組んでくれたんだから。
なので、アイラに、
「まああれだ。行きがかり上とはいえわざわざ俺なんかと組んでくれたんだな」
と感謝してみた。素直に。
それは、通り過ぎた冒険者にも聞こえてたようだ。
立ち止まって振り返って、
「まあ、アイラも物好きだが、あんたも相当だと思うぜ。それとも聞いてないのか?」
と含みを持たせた口調で尋ねてきた。
ふとアイラを見ると、俺を目を逸らして遠くを見つめている。
「お前、やっぱりなんか隠しているよな?」
とジト目で睨んでみる。
「いえ、そのあの。まあコージさん。とにかくダンジョンに行きましょう! ああいう輩は他人の能力やら将来性に軽く嫉妬を覚えるもんなんですよー」
などと言い訳する。
耳ざとくそれを聞いていて冒険者は、
「うっせー! 誰がお前らなんかに嫉妬するか! 勘違いも大概にしとけよ! せいぜいくたばんねーよーに低階層でちまちま小銭稼ぎでもしてろ!」
と捨て台詞を残して去っていく。
「ああ、まだ言ってなかったのか」
と門番のおっさんが呟く。
俺だけ取り残されている感じだ。
が、しばらくすると、アイラは、
「ダンジョンに入る前に、いえ、入ってモンスターと戦う前には告白するつもりだったんですよ! 隠してたとかじゃないんです」
と両手両足をバタバタさせながら伝えてくる。
それならば……と、俺は、
「じゃあ、とにかくダンジョンに入ろうぜ」
とアイラを促した。
すぐにモンスターと出会うわけでもないだろうし、パーティを組んでダンジョンに潜るという経験を俺は最重要視していた。
アイラに何か問題があろうとなかろうと、それは今日の俺の経験値の礎にとっては些細な問題でしかないのだ。
ダンジョンに入るとすぐにアイラが喋りだす。
「あの、ギルドで掛けられた言葉、覚えてます?」
「ああ、あの究極の晩成とかってやつか?」
思い当る単語を俺は口にするとアイラは頷く。
そして申し訳なさそうな口調、表情で、告白を始めた。
「わたしが誰ともパーティを組めない理由がそれなんですよー。【取得経験値半減】というマイナススキルを持ってしまっていて、それはパーティのメンバーにも影響してしまうんです」
「それって、レベルが上がるのが単純に2倍の時間がかかるってこと?」
「そうですー」
アイラによると、レベルっていうのはモンスターを倒して経験値を稼ぐと自然に上がっていく。
結構時間がかかるものらしく、レベル1から2に上げるだけで1か月。
レベル2から3にはもう少し時間がかかって一月ちょっと。
自分の身の丈にあった適性モンスターを倒しての標準的な成長速度はそれくらいらしい。
レベル9から10に上げるには4~5か月かかるとか。
「気の長い話だなー」
俺は素直な感想を述べた。
「もちろん、他にてっとりばやくレベルを上げる方法はいくつかあります。ただスキルやパーティメンバーに恵まれていないとレベル10まで上げるのに平均して3年はかかると言われています」
「アイラはその倍の時間がかかるってことか」
「あたしだけじゃなくってパーティのメンバーもなんですー」
申し訳なさそうにアイラは言った。
「何故それを先にいわん!」
俺はアイラの後頭部を叩いた。
「痛い! 痛いですー」
アイラを無視してさらに尋ねる。
「ちなみに1から5に上げるのにはどれくらいかかるんだ?」
「本当なら1年ぐらいでしょうかー」
レベル5というのは俺の最大レベルだ。
多分この後チート的な能力が発覚してレベルキャップは解放されるんだろうけれど、当面の目標は現時点での最大レベルであるレベル5なのだ。
「じゃあアイラと組んでると2年ぐらいはかかるってことか」
「…………」
アイラは黙る。
「…………」
俺も黙ってみる。
しばらくするとアイラは、
「なので、コージさんが一人でダンジョンを攻略できるようになるぐらいまではお付き合いさせていただくつもりですー。もちろんコージさんがそれで良いとおっしゃってくれるならですけれどー」
と謝ってきた。
うん、俺のことを優先して考えてくれている態度は良しとしよう。
俺だって一人では(現状)何もできない身分だ。
こういうのは助け合いなのだ。
ということで、
「おう、お前が用無しになるか、パーティを組んでやるだけのメリットがあるのか、じっくり見定めさせてもらおう」
「上から! 完全なる上から目線!」
「なんか文句あっか?」
「な、ないですー。誠心誠意努めさせていただきますー」
ということで、暫定パーティは絆的なものを深めたのであった。