パーティメンバ
「お早いですねー」
ギルド内でふてくされていると声がかかった。
性悪魔法使い以外で俺に声を掛けてくるとしたら約一名しか心当たりはない。
振り返ると猫耳少女が居た。
「ああ、アイラか」
「なんですかー、そのがっかりした顔は……。あたしの顔なんてみたくないーってことですかー」
「いや、そうだけど、そうじゃない」
俺はアイラにかいつまんで先ほどのギルドの受付お姉さんの対応を話した。
「あー、そういえばそういうルールありましたねー。だからパーティを組むのをお勧めしたんですよー」
「そうは言っても俺なんかとパーティを組んでくれる奴は居無さそうだ。戦士とか治癒術士とか最低でも一般人、そういったメンバーしか募集してないもんな」
「弱きものですものねー、コージさんは」
「とにかく変な魔法使いには絡まれるし、金はないわ、稼ごうにも依頼もクエストも無理だで最悪だ」
ほんとうに最悪の状況だ。
俺はこれまでの人生で、何度も苦境にはぶつかったけれどのらりくらりと生きてきたという自負はある。
結果、到底幸せとは言えない、胸の張れない人生になったが、自分の力でなんとかやってきた自信はあった。
結果として――おそらく――事故って死んでしまったのだが、生前の後悔がじわじわと押し寄せてくる。
もっと勉強しておけば良かった。
転職だって考えたほうが良かったかもしれない。
会社に居続けるにしても、他の同僚と仲良くしておけば、もう少し過ごしやすい環境になっていたかもしれない。
何時から、どの時点からやり直せば、違った人生になっていただろう。
そんなことをグルグルと考えていると、アイラが、
「ぼーっとしてどうしましたー? 起きてますか―?」
「や、ちょっと考え事してただけだ」
取り繕うと、
「それでですねー、ちょっとあたしからコージさんに提案があるんですよー。提案って言うかそうですねー、提案ですねー」
提案らしい。
「あたしも今までソロでダンジョン探索やってたんですよー」
「ほうほう」
「でもやっぱりそれって効率が悪いって言うか―」
さっきのモモ? ぐらいの高火力、高魔力であればソロっても十分らしいが、それでもやっぱりパーティを組むのと組まないのとではもちろん前者のほうが効率は高い。
経験値ってやつはモンスター一匹あたりで大体決まっていて、パーティ探索だとそれを等分する。
モンスターが強くなれば持っている経験値は増える。
一人でギリギリ倒せるモンスターを狩るよりも、5人でギリギリ倒せるモンスターを狩るほうが若干だが取得経験値は多くなるらしい。
素材ドロップなどで得られるお金に関しては格段に違いが出る。
さらに言えば、パーティを組むことによって戦略の幅が広がるために自分のレベル帯に合わせたモンスターを狙って行けるというメリットも生じる。
もちろん、役割を分担するので安定度を増す。
「ソロで活動している奴ってどんなやつなんだ?」
「まあコミュニケーションが苦手とか、よく問題を起こす人とか、性格に問題ある人が多いですねー。ああ、あとたまたま現世でゲームに嵌っててその時もソロだったから、とかいう単純な人もいますねー。それか向上心がなかったりですかねー」
さっきのモモも性格悪そうだったしな。
っていうか、ソロやってるやつって大体地雷やん?
「単刀直入に聞こう。アイラはそのうちのどれなんだ?」
「あ? 、え? あたしっすか? あたしは品行方正で真面目が取り柄、御存じのとおりコミュニケーション能力にも問題なく、なおかつ向上心は無限大ですよー。なんの心配もいりませんよー」
じゃあなんでソロやってるんだ?
疑問を感じてるととおりすがりのおっさん冒険者がなにやらからかうように言ってきた。
「おー、究極の晩成が最弱を勧誘してるのか。まあお似合いっちゃお似合いかもな」
と言ってるように聞こえた。
勧誘されてるのは俺だし、最弱ってのは俺だろう。
アイラは、というと究極の晩成? なんとなく響きはカッコいいが、油断はならない。
「究極の晩成とか聞こえたが、そんな二つ名を付けられてるのか? どーゆー意味だ?」
尋ねると明らかにキョドる。
「いや、その、ほら! 前にも言った通り、世界の覇王を目指しておりますからー。大器は晩成するってことですよ。それのアルティメットなわけですよー」
なんか怪しい。
訝しがっているとアイラが畳みかけるように、
「でもほら、考えてみてくださいな! そもそもコージさんには選択肢が限られまくっているわけで。今日のお昼ご飯だって食べないといけないし晩御飯だって食べなければいけないですよー。それに1週間経ったらギルドにも泊まらせて貰えなくなるのですから、早い段階で生計を立てる術を見につける必要がありますよねー。現状ではクエストだって受けられないし、ダンジョンにも行けないですよー。そこを解決するミラクルがパーティ結成なわけですよー」
セールストークを繰り広げる。
確かに言われてみればそのとおりかもしれない。
ミラクルってほどでもないが。
そーゆーわけで、体験入店ならぬ、体験パーティを結成することになった。
アイラがどうしてもと、「一日だけでも!」「さきっちょだけでも!」とせがんできたのだ。
ギルドの受付に二人で並んでダンジョン探索許可証を得る。
入場料はアイラが立て替えてくれた。
男性冒険者に人気の受付お姉さんではなく、みるからに閑散とした無愛想なおっさんがやってる受付に並んだのは俺の気が変わるのを少しでも早く手続して防ぎたい思いが透けて見えたがあえて突っ込まないでおいてやった。
そーゆーわけで、ダンジョンへ行く。